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株式会社の新しいカタチ: 「恩送り経営」について調べてみた

「9割の社会問題はビジネスで解決できる」を読みました。その中に書かれていた「恩送り」について分からないところを調べたので、まとめてみます。

本書は、ソーシャルビジネスだけを行う会社であるボーダレス・ジャパンの話です。ソーシャルビジネスとは、社会問題の解決を第一の目的に行うビジネスのことで、貧困・難民・食糧廃棄など「儲からない」という理由でマーケットから放置されている問題を解決します。

ボーダレスグループは、複数の独立した会社が集まってできています。「社会起業家の数だけ社会問題を解決できる」という考えのもとに運営されており、社会起業家のためのプラットフォームとなっています。

ボーダレスグループの経営の根幹にあるのは、相互扶助と共同体による経営です。そのための仕組みの一つが「恩送り」と呼ばれているものです。

恩送りとは

恩送りとは、各グループ会社の余剰利益を共通のポケットに入れ、そのお金を新規事業の立ち上げや事業のサポートに使う仕組みのことです。新規事業を始めることが決まった場合は、事業資金として1500万円が提供されます。

事業を波に乗せるためにいろいろなサポートを受けた社会起業家は、その恩を返したいという気持ちを抱きます。サポートしてくれた先輩方は利益を出していて恩返しが要らないため、未来の起業家に向けて恩を送る意味でお金を出します。

「9割の社会問題はビジネスで解決できる」P53

恩送りをどうやって実現しているのか

恩送りは株式配当をつかって実現していると書かれています。「Q グループ会社とボーダレス・ジャパンの資本関係はどうなっているのですか?」に対して、次のように回答されています。

ボーダレス・ジャパンが各グループ会社に対して100%出資しています。(中略)ボーダレス・ジャパンが100%出資をしている理由は、先述した通り、グループ間での「恩送り」としてお金の流れをつくるために必要だからであって、そこに上下関係や支配関係はありません。

「9割の社会問題はビジネスで解決できる」P80

この部分が(株式配当について知らず)あまり理解できなかったので、まずは株式配当の仕組みを調べてみました。

株式配当の仕組み

そもそも株式会社とは、株式を発行して資金を集める会社のことを言います。株式は資金を提供したことの証明書のようなもので、資金を提供することを出資するといいます(広義ではお金を出すという意味ですが、狭義の意味で使われることの方が多いようです)。

株式配当について気になったことは、1. 配当はいつ行われるのか、2. 配当金額はどうやって決まるのかの2点です。

まず配当を行う時期は、決算時が一般的なようです。他には、半期や四半期で行うところもあります。

次に、配当金額がどうやって決まるのかです。配当を行う際は、株主総会を行い、配当に関する事項を決定する必要があります。配当に関する事項には、配当金額の総額や、配当の割り当てのことです。配当の割り当てとは、具体的には一株あたり〜円というようなことです。

疑問点に対する答えは、1. 配当は決算時などに行われる 2. 配当総額が決定され、株式の保有割合に応じて分配される、ということでした。

参考

恩送りをどうやって実現しているのか(続)

分からなかった部分に戻ります。

ボーダレス・ジャパンが各グループ会社に対して100%出資しています。(中略)ボーダレス・ジャパンが100%出資をしている理由は、先述した通り、グループ間での「恩送り」としてお金の流れをつくるために必要だからであって、そこに上下関係や支配関係はありません。

「9割の社会問題はビジネスで解決できる」P80

グループ会社が恩送りをするときは、所定の手続きを行い(余剰利益を計算する、一株あたりの割り当て価格を決める、etc…)、それを出資元であるボーダレス・ジャパンに支払うということだと理解しました。100%出資しているということなので、株式配当は全て共通のポケットに入ることになります。

この資本関係の説明に続いて「社長が株式を10%か20%か持った方がやる気になるのでは?」という疑問と回答が書かれています。なぜ社長が株式を持っていないかというと、公平性のためです。

例として、会社Aの株式の10%を社長Aが、会社Bの株式の10%を社長Bが持っている場合を考えてみます。会社Aの余剰資金が2億円、会社Bの余剰資金が300万円だった場合、社長Aと社長Bが手にする金額に大きな違いができてしまいます。

「最終利益額は個人の力量や頑張りだけでなく、事業モデルそのものにも大きく依存するので、それで個人の利益が決まるのは気持ちいいものではない」と説明されていて納得しました。また「ボーダレスグループは株式配当による個人利益を否定し、恩送りを実現する手段としてのみ使っている」という表現も印象に残りました。

恩送りに関連する他のこと

恩送りに関することで定款前文に書かれていることに「株主は出資額を上回る一切の配当を受け取らないこと」「事業から生じた利益は福利厚生の充実と新たな事業の創出に使うこと」の2つがあります。

定款・その他規約 | ボーダレス・ジャパン

つまり、出資した金額以上のリターンは得られないということです。これは、最初にリスクを追った者が富み続ける株式配当の仕組みによって、貧富の差が生まれているという事実を考慮したものです。

このルールで資金を集められるのかは気になるところですが、書籍執筆時点ではボーダレスグループは恩送りの仕組みでまかなっているとのことでした。社会事業に対して投資したい人も増えてきており、規模を拡大すればこれらの人たちの受け皿になることができます。

まとめ

ボーダレスグループの共同体経営を支える仕組みである「恩送り」について調べてみました。本書には恩送り以外にも、社長の全員賛成によって決議する「社長会」、グループ会社を横断して事業をサポートする「スタートアップスタジオ」と「バックアップスタジオ」、第一の指標を売り上げや利益ではなくソーシャルインパクトを表すものにするなど、様々な仕組みが紹介されています。

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「ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則」

ボーダレスグループの仕組みは、社会問題の解決を第一の目的として、利他や協力などの精神が最大限発揮されるように作られていました。人間が本来持っている善意が生かされるような仕組みを基本とした大企業があることは、私たちに未来に対する希望を与えてくれるのではないでしょうか。

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