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辞める勇気のない方へ〜そいつ、今自転車で日本を縦断しています〜

「新入社員がいきなり会社にきて、辞めると叫んだらしい」

体調不良で休んでいた同期入社の男が、どうやら辞意を表明して、周囲を騒然とさせたらしい、と聞いたのは先輩と営業に同行中のときでした。

これは10年以上前、私がわずか半年で辞めることになった、会社に営業員として在籍していたときの話です。

私の人生の中でかなり苦しかった部類に入る体験です。

しかし、何かを辞めるということによって、新しい世界が開けるということの良い事例だと思いましたので、今回noteに書くことにしました。

以下、登場人物を紹介します。

:慣れない営業に苦しむ内向的な性格の男。長い労働時間に疲弊し、先輩の指導が教育なのか、パワハラなのか、その境界に悩んでいた。(パワハラの件は今回の話にあまり関係ない)後に会社を辞めて、別の会社の事務職に転職する。
:冒頭の同期入社の男。とても真面目な性格(几帳面ともいえるかも)で同郷ということもあり、仲良くなった。懸命に仕事を覚えようとしていたと思われるが・・・


なぜ、Kは会社を辞めたのか


とにかく、私は会社が終わった後、Kに電話をしてみました。

Kは意外にも明るい声で電話に出ました。迷いを振り切った後で、スッキリした心境だったんでしょうか。

私「なんとなく、理由は分かるけど、なんでいきなり辞めたの?」

当時はブラック企業という言葉が世に出るか出ないかぐらいの時代。私は会社に疑問を持っていたものの、それをどう言葉にしていいかが分かりませんでした。

他の同期も同様だったようで、電話をすると仕事の辛さについての話になりました。

しかし、時代はリーマンショックの頃でもありました。最後はいつも「辞めても就職先なんてないし、耐えるしかないよね」といって電話を終えていたのを覚えています。

Kは仕事に行こうとすると体調が悪くなっていたこと。会社を辞めた日に自殺をしようとしていたところ、

「どうせこのまま死ぬなら、死んだと思って、人生好きなことをやろう」

と、思い留まり、その足で会社に行って、辞表を出したことを私に教えてくれました。

私「それで、Kはこれからどうするつもりなの?」

Kはこれから自転車で日本を縦断するんだと教えてくれました。

私は自殺だとか、日本縦断とか、予想外のワードが出てきたため、Kの話に現実感が持てませんでした。

私は就職活動で非常に苦労しました。新卒カードを使ってあの辛さなら、会社を辞めた後でする就職活動を思うと、とても自分に再就職ができるとは思えませんでした。

今の仕事は辛くても、Kのように行動はできないな、と思うばかりでした。


「そいつ、今自転車で日本を縦断しています」


一緒に頑張る仲間を一人失った私は、失意のまま、仕事に行っていました。

Kはすっかり伝説の新入社員となっていましたが、次第に忘れられていきました。

ある日、会社の人、数人と雑談をしていたとき、Kの話になりました。

Kのその後について、何か知らないか、と私は尋ねられましたので、


「そいつ、今自転車で日本を縦断しています」


と、つい、事実をそのまま言ってしまいました。

すると、それを聞いた途端、周囲は爆笑していました。

「いやいや、高校生かよ」
「てか、そんなんで他でやってけるの?その後、どうするつもりなの?」
「うちで、やってけないんだから、他でも無理なんじゃない」
「研修であれだけ、会社の世話になっておきながらさ」

周囲の声を聞きながら、私は目の前がグルグルしていました。

そして、こんなことを考えていました。

どうして自分はこの会社に来てしまったんだろう。
努力しなかった自分が悪いのだろうか?
諦めずにもっと好条件の会社を探すべきだったのか?
やりたいことも考えず、漠然と学生時代を送ったからこんな目にあうのか?
それとも、社会人はみんな、こんなに息苦しさを感じて生きているんだろうか?

私はこんな息苦しさを人に強いる日本社会を呪いました。

自殺を考えたKの心境を考えると、一緒に笑うこともできず、私はただ顔を引きつらせてそこに立っているだけの置物になっていました。


Kのその後について


Kが辞めてから数カ月後、私もその会社を辞めました。

私の場合、単純に、辞めて就職活動をする辛さよりも、今の会社を続ける辛さのほうが勝っただけのことでした。

再就職に努力は必要だったものの、今は自分に合った仕事に就けて、そこそこ幸せに生きています。

世の中には辞めることが怖いって人は多いと思います。

私は高校を中退していますし、新卒で入った会社も辞めていますが、一度も辞めることを経験せずに生きている人の方が割合的に多いと思います。

でも、辞めても人生は続きますし、意外となんとかなるもんです。

むしろ、辞めることによって開ける世界もあるんです。

その後のKの状況がそのことを示しています。

そして、最後に、虎の威を借る狐の如くで申し訳ないのですが、Kの成し遂げた偉業でこの話を締めくくらせていただきます。


「そいつ、夢だったプロボクサーになったらしいよ」


以上です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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