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有料のもので 「#短編小説」は400字詰め原稿用紙換算で20-30枚 「#小説」は50…

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有料のもので 「#短編小説」は400字詰め原稿用紙換算で20-30枚 「#小説」は50-90枚程度となっています。

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神が映る鏡

 神が映る鏡があると聞いて、買い求めた。一度は手放したが、やはり手元に一つ欲しくなった。  少し酔ってはいた、胡散臭いと最初は思った。ただその時期は羽振りはよかった。壺や掛け軸に興味があるわけでなし、宝石や高い時計を身に着ける習慣もない。度胸が無いので、賭け事には向かないことは自覚があった。貯金するのも違う気分だった。趣味の幅を広げてみたいと思っていた。まぁ、面白い買い物になった。

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    • アウトライン  引きこもりからの脱出

       東北の叔父さんが来るらしい。スリッパ野郎だ。デリカシーがない。いきなり人の部屋に入ってくる。ロックしてあってもお構いなしだ。 「こんな旧い室内錠は、ドアノブをスリッパで引っ叩いてやればバネが跳ねて開くんだ」とか言って笑ってやがった。乱暴なやつだ。でも確かに開いた。ドアノブに付いたボタン錠を押し込んで施錠するタイプのモノロック錠というやつの欠点らしい。衝撃に弱い。安全性を高めたいならサムターン錠という回転させて施錠するものが良いらしい。このタイプは衝撃で開くことはない。ドアノ

      • 王様の子どもたち

         その昔、王様は奴隷を所有してその奴隷達を働かせて、自分は遊んで暮らすことができた。  王様にとってそれは、夢の生活であった。だが、夢は長く続かない。奴隷達は結託し反逆し王様は首をハネられてしまう。それが歴史だった。そう思っていた。  だが、そう単純ではないのが人の世であり、人間社会だった。  王様の子どもたちは考えた。首をハネられるのは嫌だ。でも、働くのも嫌だ。そんな都合のいいことがあるわけ無いと考えるのは奴隷の子孫だ。王様の子孫は諦めることなく、長い間その無理を考えつづけ

        • 奈緒とハナ

           奈緒ちゃんは転校してきたハナちゃんが嫌いだった 「だってあの子と一緒だと遅れるし、負けるし、怒られるし、めんどくさい」  ハナちゃんはマイペースでおっとりしているので、回りからワンテンポ遅れることがよくあった。グループで勝負になるとハナちゃんのせいで負けることもあった。ハナちゃんはわからないことがあると何時も奈緒ちゃんに話しかけるのでよく先生に注意された。なんだか一緒に怒られているみたいでいつも「やれやれ」と思った。    奈緒ちゃんの方は勝気で、背が高く成績も良かった。積

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        神が映る鏡

          ゼロスパイ

           その王様には影が無かった。大股で、偉そうに歩くが足音はしない。  ゼロスパイたちを操って長らく世界に君臨する。彼らは気づいていない。自分が操られていることを。自分が利用されていることを。  生かさず、そして殺さず。いつも笑い声が響いている。それは風の音とは違う。  王様は、そのスパイを愛国者から選ぶ。感情的な奴がいい。「良い人」それが一番よい。自分を正義だと考えている、そういう傲慢な奴が利用しやすい。  田舎では金儲けは悪だという風潮がまだある。しかし、金を儲けない

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          ゼロスパイ

          ハンサムボーイ

           幸運から始まった。老舗の蕎麦屋に三代目が誕生しようとしていた。懐妊から誕生まで家族は男の子だろうか、女の子だろうかとそんな話を何度繰り返したかわからない。当時は生まれるまで男女はわからなかった。女の子なら婿を取ればいい。そんな腹づもりもあった。商家の子供は家業の跡取りとして生まれる前から期待された。  母親のつわりはひどく、体調も芳しくなかったが気持ちには張りがあり、泣き言を言わずに仕事もこなした。店は繁盛して経済的には余裕があった。出産に備えて従業員を一人増やすことができ

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          銀線細工の雲

           おまえは強いからな、と叔父に言われると私は泣き出してしまった。 「私は強くなんかない」としゃくり上げながら子供の様に泣く姪を、叔父はニコニコしながら見ていた。そして、ゆっくりと泣き止むのを待って言った。 「おまえは強いんだよ、もちろんスーパーマンではない、空は飛べない。それは知っている。逆におまえは知らないだろう、弱い奴の弱さを」 「弱さ?」 「おまえ、人は殺さないだろう?」 「?」 「極論だけどな、弱い奴は自分が助かるためなら平気で人を殺す。貸した物は返さない、隙を見せる

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          じいちゃんの銅メダル

           じいちゃんはいつも僕の味方だ。幼稚園のお迎えはいつもじいちゃんだった。自転車の乗り方を教えてくれたのも、九九を覚えるときもじいちゃんが手伝ってくれた。  じいちゃんは何をするにも「百回やれ」といった。「そうすればそのうち何でもできるようになる」  鉄棒の逆上がりの練習の時だったと思う。何度やってもできなかった。掌にまめができて皮がむけてもできなかった。逆上がりもできなかっし、百回もできなかった。  半分べそをかいて「百回やってもできなかったら?」とじいちゃんに聞いた。怒られ

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          鳥の影

           子供の頃、爺様と山菜取りに山に入った。その年は、梅雨明けが早く暑い日が続いていた。山菜の収穫は芳しくなかった。  奥へ奥へと分け入っていくことになった。  爺様は、離れるなと何度も言った。もし迷子になったら動き回らずその場で大声を上げろ大抵近くにいる、樹の陰で見えないだけだと。  しばらく歩き回った後、疲れて足がもつれ転んだ。帰りたいと何度も思った。そして爺様の姿を見失った。しまったと思った。言われていたように動き回らず、大声を出そうとしたとき「昼飯にしよう」とすぐ後ろで爺

          桜の花の向こう側

           古い喫茶店の扉が静かに開くと、若い女性が入って来た。そのまま、まっすぐにカウンターまで進むと中央の席に静かに座った。化粧気はなく、端正な顔立ちで上品な服装をしていたが靴はスニーカーで右足だけ靴下を履いていた。 「子供に会わせてください」微妙な違和感をまとったその女性は、少し大きな声で言った。  マスターはそれには応えず、冷たい水の入ったグラスを出した。 「ご注文は?」普段と同じように訊いた。 「珈琲を」その女性は静かに答えた。  広いカウンターテーブルの奥では糊の利いた白

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          桜の花の向こう側

          死を拒否する男

          「だったら死ななければいいだろう」とリキはいった。  最初意味が分からなかった。望んで死ぬわけではない。手遅れの胃癌で余命を宣告された。さんざん悩んだ挙句にやっと現実を直視する状況まで気持ちを立て直したときに言われた言葉だ。  腹が立つやら情けないやらで、涙がにじんだ。悔し涙だ。 「だから、肉体の話ではない、精神的な意味だ」  リキは表情を変えず当たり前のような顔でいう。 「要するに、妻を残して死ぬのが心配だというのだろう、病気で死ぬといっても肉体が無くなるだけだ。そのまま留

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          爺の雪合戦

           大判焼きほどの大きさのアイスホッケイ用の黒いパックに長い棒を差して雪の上に挿す。  その雪深い村では、どこの家にも一本その黒い大判焼きは挿してあった。  それは冬場に毎月行われる、雪合戦の的だった。  3回投げて何回当たるかで競う、雪国ならではのゲームだ。ゲートボールは雪が降るとできないので考えられた。  パーフェクトで勝負が付かないときは、三歩離れて再戦を行いその月のチャンピオンを決める。3回防衛すると、殿堂入りとなる。  この村では殿堂入りしていない男は、一人前とみなさ

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          現実的な魔法

           亀ちゃんとは小学校の頃から何度もクラスが同じになった。一番古いダチだ。  中学に入るとすぐ、亀ちゃんの母さんが事故で亡くなった。それで亀ちゃん家はおかしくなってしまった。親父さんが働く気力をなくしてしまったのだ。  亀ちゃんはしばらく風呂にも入ってないみたいだった。それでなんだか周りから疎まれだした。それからすぐに悪い仲間とツルムようになって今度は皆から敬遠された。札付きというやつだ。もっとも所詮は中学生なのでそれほどの悪さをしていたわけでもないと思う。ただ、夜な夜な街をう

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          電波塔の下、6時

          「6時に電波等塔の下だ」と兄ちゃんは言った。「日にちぐらいは自分で考えろ」そう続けるとさっさと背を向けて歩いていってしまった。流石に少し怒っているようだった。    俺だって一生懸命働いた。親父が事業に失敗して昔のようには行かないことぐらい分かっていた。十年ぐらいは順調だった。  独り者だったのでそんなにお金が掛かるわけでもなかった。飲む打つ買うに現を抜かすなんてこともなかった。もちろん変な薬に魅入られるなんて危ないこともしてない。悪いこともせず長生きするのが馬鹿馬鹿しいほど

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          電波塔の下、6時

          子持ちニートの小商い

           娘の夏休みに家族で出掛けた水族館はひんやりと空調が効き、幻想的に照明された空間に巨大な水槽が光を孕んで広がっていた。  山田直人はその中を泳ぐ鰯の群れを観ながら、吸い込まれるように意識が遠のいていった。脳梗塞だった。きらきらと光る小魚の群れを観ながらその場に倒れ込んだ。その場で最後に目にしたのは引きつった顔で父親の様子をのぞき込んだ娘の顔だった。  娘の美緒は前から行きたかった水族館へやっと連れて行ってもらえると朝から少し興奮していた。美緒は出掛けるとき父親の様子が変なのに

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          子持ちニートの小商い

          スリーシーン

           美人が溜息をついた。モテるのは結構なことだけれど若い頃から軽度のストーカーが後を絶たない。うかうかしていると金持ちか権力者の愛人で終わる。そんな人生はまっぴらだと。  美男子にもリスクはある。チヤホヤされるのが当たり前で、さしたる努力を重ねることも無く歳をとると、単なる女《すけ》コマシで一生を終える。見た目がよく女受けする以外には何もない人生。晩年はたいてい悲惨になる。  金持ちはどうか?個人の力では到底稼ぐことができない財力に守られて生まれてきた人。こちらは自由がないらし

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