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「国際テロリズムと日本」国民が安全について意識を変えるべき 決定的なターニングポイント、ハイブリッド戦争の時代とは何か

照井資規 一般社団法人TACMEDA協議会理事長、元陸上自衛隊富士学校研究員、元陸上自衛隊衛生学校研究員、災害・事態対処・軍事医療ジャーナリスト

 外務省が5月、在外日本人向けに「ラマダン(イスラム教の断食月)期間中、特に金曜日に注意」と警戒を呼びかける「海外安全情報」をメールなどで出している間に、世界では現実にテロ事件が相次いだ。6月28日(火)にはトルコ・イスタンブルのアタチュルク空港で銃撃・自爆テロが発生し、45名が亡くなった。
ラマダン(断食月)明けの夜7月1日(金)午後8時40分(日本時間午後11時40分)にはバングラデシュの首都ダッカにて日本人7人が犠牲になった人質テロ事件が発生し、海外における日本人の安全確保と国際テロについて認識を改めなければならない事態となった。

2016年8月5日~21日には治安の悪いブラジル・リオデジャネイロにて第31回オリンピック競技大会が開催される。この時期は海外旅行シーズンでもあり、海外に出かける日本人に有用な情報を提供する。

イスラム過激派と日本
毎月のように発生している国際テロのほとんどがイスラム教の理想とする国家・社会のあり方を政治的・社会的に実現するために犯罪を実行する過激派によるものであるから、イスラム教徒の今後の動向についての考察が、国際テロ対策を考える上で必須となる。

現在、多くのイスラム教徒が住む地域は南アジアや東南アジアであり、これらの国々の出生率が高いことなどから、イスラム教徒人口が激増している。米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、2070年までに世界の宗教別人口の最大勢力であるキリスト教にイスラム教徒の人口が並び、2100年になるとイスラム教徒 が最大勢力になると予測され、両者の勢力が伯仲するのは人類史上初めてとなる。(2015/4/6付日本経済新聞)

イスラム教の中心地である中東地域はアジア、ヨーロッパ、北アフリカを結ぶ重要な場所であることから、宗教上の衝突が発生する地理的な焦点となり続ける。この地域は特に原油のような、資源を輸入に頼る日本にとっては、国力を支える上での重要地域としても引き続きなり続ける。

しかし、これからは南アジア、東南アジアにおけるイスラム教徒の急速な人口増加から、インドやインドネシア等におけるイスラムやイスラム教徒に起因する問題もまた日本に大きな影響を及ぼすようになる。現実に、アルカイダから分派して台頭するイスラム系過激派組織IS(イスラミックステート)に対し、東南アジアでは、アブサヤフ(フィリピン)が忠誠を誓ったとされ、インドネシアのジェマ・イスラミア(JI)の創設者も支持を表明、ISの発行する英字機関誌「ダービック」上で、日本人は世界中どこにいても標的になると宣言した。

それ故に、近い将来、日本は、イスラム過激派による脅威に対して、これまでの中東地域の地理的な面と東南アジア地域における人口増加の面の両方への対応を迫られるようになると予測する。

イスラム過激派によるテロの増加
最近、急増しているイスラム過激派による国際テロは今後も増え続け、2020年がピークになると予想されているが、これは、1920年代が、イスラム教の理想とする国家・社会のあり方を具現した国が失われた決定的なターニング・ポイントであったためである。失われた「イスラムの国」を取り戻そうとする時、人は100年という節目を意識するものであり、100年目までに目標達成を目指す、このことがイスラム過激派による国際テロの激増の一因になっていると思われる。

イスラム教スンナ派の多民族大帝国であったオスマン帝国は第一次世界大戦での敗北によって、領土の大半が勝利を収めたイギリス、フランスの両帝国の間で分割された。肥沃な三日月地帯にあったオスマン帝国のアラブ語地域は三つの新しい国に分けられ、それぞれに新しい国名と国境が定められた。イスラム諸王朝は解体され、それぞれの国は現在のような近代のヨーロッパを起源とする国民国家、主権国家の集合体として再編されることで、イスラム教が理想とする政治体制と現実の政治体制とが完全に分かたれた。

同時期、現在のパレスチナ地域が設定され、そこに、イスラエル、レバノン、シリア、イラクが建国されることとなり、現在の中東諸国の形ができた。中東において現在まで生じているほとんどの政治・社会問題は、この 1920年代に端を発していると言っても過言ではない。

ハイブリッド戦争の時代
これから国際テロのピークを迎え、中東情勢の不安定も危惧される中、日本国は今年3月29日から安全保障関連法施行となり「ハイブリッド戦争の時代」に入った。

日本人の安全について意識を変えるべき決定的なターニングポイント「ハイブリッド戦争」の時代とは何か、そのことについて認識することが、国内外を問わず、安全な人生を送る上で新しい常識となる。ではその「ハイブリッド戦争」とは何か、いかなる状態で、どんな時代に入ったというのか。

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