『東京奇譚集』(村上春樹著)感想
旅行や出張などの移動時間には、小説を読むことが多いです。11月に関東へ出張に行く機会があった際には、村上春樹の『東京奇譚集』を読みました。
村上春樹の小説を読むのはかなり久しぶりでした。『1Q84』を4年前に読んで以来。
『1Q84』は一般的な小説に比べると、固有名詞(日常現実に存在する固有なもの)が重要なモチーフとして登場していた印象があります。例えば「エッソのトラの看板」、「ヤナーチェック」、「平家物語」など。
幻想的な舞台設定の中に、日常現実的なものを配置することによって、奇妙な現実感を担保しようとしているのかもしれないです。
今回読んだ『東京奇譚集』も、その名の通り「奇妙な/非現実的なお話」の集積なのですが、「東京」という固有名によって、さらにそこに奇妙さ(現実ならざる現実性)が付加されているのかもしれないなと思いました。
実は学生時代に一度読んだ記憶もあるので再読なのですが、その時に比べて、他の文学作品との共鳴を発見できるようになったのは成長かなと思いました。
例えば
(1)ホモ・セクシャルであることをカミングアウトする登場人物に対する下記の地の文
(同性愛における)秘密の場所として「クローゼット」という比喩を用いるところから、セジウィックの『クローゼットの認識論』を想起した。
(2)品川区の下水道に潜む猿(品川猿)が、「名前」とともに「人間にとっての無意識的な闇」を奪い取る
都会の下水道に潜む動物の話と言えば、トマス・ピンチョンの『V.』を想起しました。
総じて心地良い読書経験だったと思います。
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