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『就活闘争20XX』(佐川恭一)感想

表題の本を読みました。佐川恭一の本は割とよく読んでいます。

超異次元の少子化対策が奇跡的にハマり、ウルトラベビーブームになることで競争が激化した時代の人気企業Z社の就職活動がテーマの小説でした。主人公はやはり、勉強しか取り柄のない京大生。

佐川恭一らしい学歴(の小さな差異)に対する異常なこだわりと清々しいまでのステレオタイプ化は、やはり健在で面白かったです。
特に「SNSのフォロワー10万人を24時間以内に獲得することが合格条件のインターンシップ」が印象に残りました。
「自殺配信を行い、(文字通り)犬死する広島大学の学生」や「SNSに投稿予定の漫才のネタがあまりにつまらなすぎて運営に殺される関西大学の学生」などあまりに際どすぎます。。

「わしゃ守下いうもんなんですが、広島大学ですけえ学歴では自分〔京大〕によう勝たれん。あっぱれ白旗じゃ。…自分はこれ〔ナイフ〕で腹を切りますけえ、その様子を撮影します。」
(中略)
広大の守下が腹から血を流して倒れている。…だが岩井がいくら叫んでも助けが来る様子はない。…ほどなくして、守下の首輪が爆発し、守下の首がコロコロと岩井の前に転がった。

広島大学守下の最期(138項、146項)

「じゃあいくで。コント、超能力! ミミちゃんさあ、スプーン曲げできるってほんま? …じゃあさ、下品でごめんな、今出すで、これ、俺のこの珍棒曲げれる? …うわああああああああ!! 痛い痛い!! … でもさ、いくらミミちゃんでも曲げられへんもんがあるで。この俺の、ミミちゃんへの下心や!!」
坂部がウインクしながらそう言った瞬間、大きな音を立てて首輪が爆発した。

関西大学坂部の最期(144-145項)

就職活動がテーマの小説ですが、Z社のそれは志望動機や自己PRなどが求められることがなく、もっぱら不条理な闘争(「OB訪問で自分の大学のOBを探し出せなければスナイパーに射殺される」「面接試験は他の志願者と物理的に戦い、負ければ殺される」など)によって就職試験が進んでいきます。
なので、どちらかといえば大学受験的な色合いが強く、例えば『何者』(朝井リョウ)とかとは全く違う力点の小説だと言えます(『何者』を読んだことがないですが…)
志望動機や自己PRによって他者に説明可能な自己を演出する(型嵌めする)のではなく、命の危機の瀕することで不可避的に得られる自己の本質をexposureすることによってこそ、真に人間が立ち現れてくるということ。
「考えること」や「言語化すること」、「能動性」などが称揚される現代日本の状況に対するアンチテーゼとして面白いと思いました。

このZ社の採用試験が他と大きく異なるのは、自己分析や志望動機を通常の形では求めないところです。…我が社の採用期間、学生たちはほとんどつねに不条理な闘争の中に放り込まれる。…ある意味ではこれほど楽なことはない。与えられたルールの中での他者との闘争の間、人間は自己の内面と対決する必要がない。…私は結局、思考を要求しないそうした闘争のさなかにしか〈人間〉は現れ出ないのだと確信し、Z社の採用設計に携わってきました。

Z社人事の滝川の言葉(216項)

またAKBが意外と作中の中の重要なモチーフになっているような気もしましたが、僕はAKBについてよく知らなかったのでわかりませんでした。
(『前田敦子はキリストを超えた: 〈宗教〉としてのAKB48』をまた読んでみるか。)


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