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毎週ショートショートnote「ごはん杖」


旅の途中、ある街へ訪れた時、
ごはん杖と呼ばれるものがこの街で流行っているのだと、私はそこに住む老人から聞いた。

「悪趣味だな、ありゃ。足が不自由な者ならともかく、健康的な人間まであれを使っとる。」

店先の錆びたベンチに腰を掛け、煙草の灰を長く垂らした老人は怪訝そうな顔で私に向かってそう言った。

「どういう理屈かは知らんが、ごはん杖を持つと、自分のエネルギーと引き換えに、まるで地面を飛ぶように歩くことができるんだとよ。」

私は幾つもの疑問符を脳裏に浮かべながら

「杖に自分のエネルギーを与える?」

と聞いた。
老人は煙草の煙を深く吐き出し、

「ああ。ただの棒きれに、ペットのようにごはんを与えるんだ。だから人はごはん杖と呼んどる。」

煙草の煙が風に煽られ私の鼻腔をくすぐる。老人と私は顔を顰め、
ごはん杖を手に持ち、まるで兎のように跳ねながら歩行するその人々を眺めていた。

「しかし、冷静に見てみれば実に不気味な光景ですね。人間がバッタのように跳びながら歩いてる。なんだか人間ではないような、そんな気がします。」

私がそう言うと、老人は灰皿へ煙草を落としながら力なく笑った。

「何を今更、あんなもんがなかった頃から、人間らしさなんてものは疾うの昔に失っておる。」

脱兎の如く、飛び回る人々をよそ目に
老人はそう言って、二本の足でゆっくりと歩いていった。



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