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【米国株】NVIDIA弱気ストーリーを考える

私たちは、生成AIが基本的に生産性に革命をもたらす技術であると信じており、その将来の進展にも楽観的です。しかし、ストーリーが極めて強気であっても、株価は既にそれを織り込んでおり、割高な場合があります。少しでもそのストーリーに疑問が生じると、「バブル」が崩壊する可能性もあります。そこであえて、生成AIストーリーの中心に位置するNVIDIA株の弱気ストーリーを真剣に検討しました。

骨子:

  • 一般的に楽観的なアナリストでさえも、NVIDIAが現在直面している生成AIブームの恩恵は一時的であると見ている。

  • ブームの恩恵を受ける期間が更に短くなるリスク要因として、以下の点が考えらる:

    • ①クラウド大手がNVIDIAのGPUを自社のカスタム半導体で代替する動きを加速させる。

    • ②オープンソースの既成AIモデルの活用が標準化⇒トレーニングによる計算パワー需要の減少。


株価に何が織り込まれているのか?

アナリスト予想から見る

NVIDIAの株価にはすでに多くの期待が織り込まれています。アナリストは、2024年1月期に続き、2025年1月期も売上高で50%を超える高い成長を期待しています。しかし、成長はその後減速し、2027年1月期の成長率は売上高とEPS(1株あたりの利益)の両方で一桁になると予想されています。
つまり、NVIDIAが現在直面している生成AIブームの恩恵は4年間かけて収束する一時的なものであると見られています。

利益率は維持可能か?

下は利益率の実績です。GPUの供給不足を背景に、顧客が価格を問わずに数量を確保する動きにより、粗利益率が74%まで上昇しました。しかし、これ以上の上昇余地は限定的であり、GPUの需供が緩和した際にこの水準を維持できるかが試されます。

PER35倍、現在の株価は割安か?

NVIDIAの現在のPER(株価収益率)は35倍ですが、これは過去の水準と比較して割安と言われています。確かに、過去にはPERが70倍に達したこともあり、現在の35倍は決して割高ではありません。しかし、前述のアナリスト予想が実現し、生成AIブームの一時的な恩恵が収束した後のことを考えると、割安とは言えない可能性があります。

一つの考え方として、上記のアナリスト予想のとおり業績が推移した場合の、26年1月時点の株価を考えます。今現在の27年1月期の予想EPSは27.6ドル。これが将来26年1月時点でも不変とします。適用すべきPERはいくつでしょうか。翌年の予想は売上・EPSともに1桁成長ですから、過去PERの最低水準の25倍というのが一つの考え方になると思います。そうすると27.6ドル×25倍で690ドルと計算されます。現在の株価726ドルよりも若干低く、今後2年間のキャピタルゲインは見込めない計算になります。

基本的には楽観的なアナリストでさえもNVIDIAが今直面している生成AIブームの恩恵を一時的なものと見ている、という状況ですが、この一時的な恩恵がより短くなるリスクシナリオを考えます。


リスク①:
クラウド大手がNVIDIAのGPUを自社のカスタム半導体で代替する動きを加速する

データセンターGPUの市場では、クラウドサービスプロバイダー大手数社が主要な顧客となっています。2023年の推定によると、NVIDIAのデータセンターGPUの主要顧客にはMicrosoft、Meta(旧Facebook)、Google、Amazonなどが含まれ、これらの企業が市場の大部分を占めています。

これらの企業は、生成AI関連の需要を支えるためのインフラ投資を増加させる方針を示しています。そのため、投資の減少がGPU需要の冷え込みをもたらす直接的なリスクは低いと考えられます。

しかし、これらの企業は、最先端のソリューションを低コストで提供するために激しい競争に直面しており、コスト削減が重要な課題となっています。

このため、価格が高騰するGPUのコストを下げることが検討されることは自然です。各社はGPUとともに、特定ワークロードへの最適化、半導体調達コストの削減、電力消費の削減を目的としたカスタム半導体の導入を進めています。

この動きを捉えるため、NVIDIAはカスタム半導体設計受託の事業化を進めているという噂があります。しかし、この分野ではBroadcom($AVGO)やMarvell($MRVL)がすでにクラウド大手と組んで大きな事業を築いており、NVIDIAの技術力は確かですが、どこまでシェアを取れるのか、現在の高い利益率を維持できるのかなど、不透明な要素は多いです。

https://www.reuters.com/technology/nvidia-chases-30-billion-custom-chip-market-with-new-unit-sources-2024-02-09/


リスク②:
オープンソースの既成AIモデルの活用が標準化⇒トレーニングによる計算パワー需要の減少

現在、AIモデルと言えばChatGPT、という感じですが、オープンソースの世界でも最先端のAIモデルが次々と公開されています。オープンソースAIモデルは、そのソースコードが無償で公開され、誰でも改良や再配布が可能なものです。これにより、企業や開発者は自由にAI技術を活用し、独自のアプリケーションやサービスを開発することができます。

特に注目されているのが、Meta(旧Facebook)が提供するLLaMAのようなモデルです。これらのモデルは、膨大なNVIDIA製GPUへの投資を背景に開発されたものです。Metaは、オープンソース提供によるメリットを強調し、今後もこの方針を続けることを表明しています。

オープンソースのAIモデルは、企業が独自の文脈に最適化したAIモデルを構築する際に大きな役割を果たしています。オープンソースモデルを活用することで、企業は1からAIモデルをトレーニングすることなく、低予算かつ短時間でカスタムAIを実現することが可能です。既成モデルのカスタムを可能とするクラウドサービスも強い需要を報告しています。

今後、このようなオープンソースAIモデルをベースとした追加トレーニングが標準化する可能性があります。これにより、AIモデルのトレーニングに要する計算パワーの需要が減少し、カスタム化と推論の需要がメインとなることが予想されます。特に、カスタム化には比較的少ない計算パワーが必要であり、推論はエッジデバイス上での処理が主流となることで、さらに計算パワーが削減される可能性があります。

これを2つの視点から図示しました。

このような変化が進むと、クラウドサービスの利用費用が急落し、GPUの需要も急速に減少する可能性があります。現在は生成AIの黎明期であり、最も優れたモデルの構築に注力している状況ですが、今後はより効率的でコスト効果の高いAIモデルの開発と利用が主流となるかもしれません。


仮説をサポートするデータポイント

汎用AIモデルのアウトプットの収束

最近、OpenAIが革新的な生成AIによるテキスト TO ビデオサービス、SORAを発表し話題になりましたが、SORAに入力されたプロンプトをMidjourneyに打ち込んで見ると、SORAの動画と非常によく似た画像が生成されたことが報告されました。

これは、同じようなデータを用いてトレーニングされたAIモデルが収束する傾向にあることを示唆しています。したがって、AIモデルの価値は、その独自性ではなく、独自のデータによるカスタマイズにあると考えられます。例えば、MetaのLLaMAのような最先端の大規模言語モデルがオープンソースで提供され続けるのであれば、これはインフラとなり、企業はこれをベースにして独自のデータでカスタマイズすることが経済合理的となるでしょう。

天気予報モデルの恩恵を受ける人は多いが、モデルの数は少数

また、IntelのCEOが指摘するように、特定の高品質なモデルが広範囲に利用されることで、多くのAIモデルが不要となる可能性があります。天気予報モデルの例を考えると、多くの人がその恩恵を受けるが、モデルを作る人は少数であるという状況が想像できます。

人間の脳の構造からの示唆:推論の省力化余地

さらに、人間の脳の構造から学ぶことで、AIの推論における計算パワーの効率化が可能になるかもしれません。脳のシナプスは12歳までに1000兆個に増え、その後、学習によって減少します。これは、AIモデルも初期状態で多くのパラメータを持ち、学習を通じて最適化される可能性があることを示唆しています。


まとめとして、NVIDIAのバリュエーションは現時点で過剰とは言ませんが、品薄と強い需要により近い将来の決算で急落する可能性は低いと考えられます。しかし、「バブル」崩壊のリスク要素には注意が必要であり、NVIDIA株への投資にはこれらの状況を注視することが重要と考えます。

※日本語翻訳・要約・校正にGPT-4、スライド背景作成にMidjourneyを利用しています。


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