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【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#12【学校編~僕たちはどう生きるか~】第四話

登場人物

灰かぶりの猫
久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。芥川賞候補作家の三島創一そういちの代役として、夏目の母校での講演を依頼される。

黄昏たそがれ新聞の夏目 
新米記者。アニメ好き。『僕の心のヤバイやつ』第2期にはまり、今はこのアニメを観るために生きている。「旅館編」を経て、すっかり猫の相棒役に。次のシリーズでは、準主役の予定。

モノリス
灰かぶりの猫の自宅のAIスピーカー。知らぬ間に、猫と夏目の会話を学習ディープラーニングしてしまい、時々おかしなことを口にする。シンギュラリティが訪れた場合、猫と敵対する可能性も。

三島創一
小説家。夏目の高校時代の先輩。学生時代に、大学の個性的な教授陣との交流を戯画化した『シランケド、』で、現像新人賞を受賞しデビュー。人間の母性を地球にまで拡張した問題作『たゆたふ』で、芥川賞候補に。現在は体調不良。本当か?

杉田薫子すぎたかおるこ
聖子ちゃんカットをした女生徒。インターハイ記録も狙えるほどの韋駄天いだてんの持ち主。schoolスクールからscholēスコーレへの変革を画策する。

智彦
さだまさしのような黒縁の眼鏡を掛けた男子生徒。薫子のアシスタントのような役割を担う。どうやら薫子には、「ほの字(死語)」のようで。

昌大まさひろ
アキハバラのラジオ会館生まれ。おしゃぶり代わりに、真空管をしゃぶって育つ。エンジニア。行方不明。

敦子
詳細不明。

真司
詳細不明。

福田伸一
生物学教師。とにかく口が軽い。

坂本銀八
校長。作家として三島創一のことは認めながら、猫に対しては小馬鹿にしたような態度を取る。

(以下、灰かぶりの猫=猫、夏目=夏目、モノリス=モノリス、杉田薫子=薫子と表記)

※各固有名詞にリンクを追加。
※この物語は、どの角度から見てもフィクションです。


前回のあらすじ

薫子の同志が集うアジトへと案内された猫と夏目。さだまさしのような黒縁の眼鏡を掛けた智彦が出迎えるも、昌大、敦子、真司は不在だった。そこで猫は、薫子から、これから自分たちが行う革命の歴史の証人となってほしいと頼まれる。快く引き受けた猫だったが、自分の失言から、うっかりモノリスの存在に気づかれ、スマートフォンをボッシュートされてしまう。そしていよいよ、薫子たちが活動を開始する。


――授業中の校内の廊下を、透明人間のように傍若無人ぼうじゃくぶじんに歩く薫子と智彦。猫と夏目は、撮影クルーとして二人の背中を追う。

猫  「そう言えば、薫子君。君たちのグループと言うか、組織と言うか、何か名称はあるのかい?」

薫子 「(後ろは振り返らず)『エレフテリア・イ・サナトス』。通称、エレフです」

夏目 「エレフ? なんかよく分かりませんが、かっこいいですね。どんな意味なんですか」

智彦 「(チラチラと後ろを振り返り)ギリシャ語で、自由か死か。前にもお話ししたように、僕たちは自由を勝ち取るために命を掛けているんです。十代と言う、もっとも輝かしい宝石のような命ゴールデンスランバーを」

猫  「ただそれは、比喩としてだろう。まさか、三島由紀夫のようなことを試みようとしているわけでもあるまいに」

薫子 「さあ、どうかな。アジテーションをする気はさらさらないけど、一人くらい、首を切る必要は出てくるかも」

夏目 「――本気、ですか?(ごくりとつばを飲み込む)」

薫子 「ははは。今のは比喩。馘首かくしゅってこと」

猫  「どちらにしろ、首実検をするのだけは御免だぞ」

薫子 「またずいぶんと、物騒なことを言いますね。ここは戦場ですが、戦国時代ではないですよ」

猫  「なら、いいが」

薫子 「さ、無駄話をしているうちに着きました。敦子と真司も来てると良いんだけど」

――四人は、東校舎三階にある視聴覚室に到着。ガラガラガラと扉を開ける。

真司 「お、薫子。やっと来た。遅いぞ」

――ホワイトボードに、何やらいたずら書きをしていた真司と敦子が振り返る。時代錯誤もはなはだしく、真司は若いころの笑福亭鶴瓶のようなアフロ、敦子は『エースをねらえ!』のお蝶夫人こと竜崎麗華のような髪型をしていた。

薫子 「そんなことないでしょ。時間きっかりじゃん」

真司 「グリニッジ天文台の標準時間GMTを基準にするなよ。今はもう、協定世界時UTCだぞ」

敦子 「それより、そちらのお二人はどちら様?」

智彦 「聞いて驚け、僕たちのドキュメンタリーを撮ってくれる方たちだ」

敦子 「え、どういうことですの?」

薫子 「あたしが説明する。――かくかくしかじか、まるまるうまうま」

真司 「なるほど。そういう事か」

敦子 「――猫さん、とおっしゃいましたか。わたくしを撮影なさる時は、斜め四十五度の角度でお願いいたしますわ」

猫  「撮影と言うのはあくまでも比喩なんだが、まあ、頑張ってみるよ」

薫子 「じゃあ早速、これから行う作戦について話す。一度しか言わないから、一回で覚えて」

――智彦、真司、敦子、真剣な表情をして、それぞれうなずく。

薫子 「真司。あなたは当初の予定通り、教頭の合成音声を使って『ヒトサンサンマル1330』に校内放送を。イレギュラーが生じた場合には、即プランBに移行。良い?」

真司 「ああ、任せろ」

薫子 「敦子。あなたは校内放送が流れ始めたと同時に、あたしと校長室に突入。多少の抵抗は覚悟した方が良いけど、あたしたち二人で押さえつけられない相手じゃない。手足を拘束したら、すぐに口をふさぐ。良いね」

敦子 「かしこまりました。一応、ダミーのスタンガンもございますし、大丈夫でしょう」

薫子 「そして智彦。この作戦が成功するか否かは、あなたの肩にかかっていると言っても過言ではない。あなたがいかに、滞りなく生徒職員を校庭に誘導できるか。何度もシミュレーションした結果、成功率は七割だけど、あなたなら、必ず出来るはず」

智彦 「(黒縁の眼鏡を人差し指で上げ)任せてよ。君の願いを僕が叶えられないわけないだろ」

薫子 「(その日、初めての笑顔を見せ)頼りにしてる(と言って、智彦にウインクをする)」

――智彦思わず、美徳によろめき、真司にからだをぶつける。

猫  「で、僕らは誰に付けばいいんだ?」

薫子 「もちろん、あたしと敦子。校長があたしたちの要求を、ドジョウの踊り食いみたいに丸呑みするところを見逃さないで頂戴」

猫  「分かった(何だか、三島由紀夫と共に市ヶ谷駐屯地の総監室に乗り込んだ森田必勝たちみたいなポジションだな)」

薫子 「それから昌大。あんたのことだから、あたしたちの今の声も盗み聴きしてるんでしょ。あんたの役割はただ一つ、職員室のパソコンから電子上の校則を書き換えること。それ以上は望まない。だから、それだけは死んでも成功させて」

昌大 「…………」

――薫子はそこまで言い終えると、さすがにこれから行おうとしていることに重圧プレッシャーを感じたのか、唇を噛んで押し黙った。新世紀エヴァンゲリオンの第弐拾四話『最後のシ者』で、初号機に乗るシンジがカヲルを殺めるシーンのような、永遠にも感じられる静止が続く。

猫  「――大丈夫かい?」

薫子 「(深く息を吐き)ここまで来た以上、あたしたちに引き返す道は残されていない。今なら、特攻隊員たちの心情が分かる気がする」

猫  「ふー、やれやれ。僕は臆病なノンポリだから、何も言うつもりはないが、どんな思想も、必ずアンバランスさを抱えているものさ。君がそうして、特攻隊員たちに気持ちを寄せるのも決して悪いことではない。まるでこれから、三島事件のようなことを起こそうとしていることも、必ずしも悪いことだとは思わない。君たちは、君たちが信じる正義や自由、思想に従っているのだろうから。僕はただ黙して、君たちの英姿を見届けるよ」

薫子 「そう言っていただけると、ありがたいです。ですが、あたしは例え、失敗しようとも自決はしません。仲間を見捨てることもしません。自らの行いが罪ならば、潔く罰を受けるまでです」

智彦 「な、何を言ってるんだ薫子。君が罪人つみびとになるわけないじゃないか。君が行おうとしていることは、間違った大人たちを正すために必要なことなんだろう?」

薫子 「この世に正解なんてないよ。何が正しくて、何が間違っているかなんて、風見鶏みたいなもの。風向き一つでころころ変わる。あなたは真面目だから、一通り歴史の教科書は読んだんでしょ。なら、分かるはず。ただあるのは、選択だけ」

敦子 「薫子さん。あなたまさか、弱気になっているのではありませんか?」

薫子 「とっくに『弱虫ペダル』は卒業してる。あたしは今、『炎の転校生』だよ」

――キーンコーンカーンコーン(四時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴る)。

薫子 「(拳を前に突き出し)さ、みんなも」

――智彦、真司、敦子、また、どこかにいると思われる昌大、揃って拳を突き出し、軽く合わせる。

敦子 「真司さん。あなた、震えてませんこと?」

真司 「ば、馬鹿言うな。武者震いだよ」

薫子 「その意気やよし。じゃあ、あとでみんなで、笑顔で再会しよ!」

――一同、大きく頷く。

――こうして次回、いよいよ薫子たちの作戦が決行される。果たして彼女たちの夢は果たされるのか、はたまた果敢はかなくついえるのか…。

――そして誰が書き込んだのか、皆が立ち去った後のホワイトボードには、辞世の句のように、〝僕たちはどう生きるか〟という言葉だけが残されていた。

                               つづく

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