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秘密のカヲきゅん2

大量の買い物をして疲れてしまったカヲルとトモヤは食事をすることにした。
若返ったカヲルは、通りかかった焼き立てのパンを食べさせてくれるレストランに入りたいと言った。
「ものすごくお腹が空くんだよ…今まで食べれなかったパンとかパフェとか今なら食べれそうな気がするんだわよ」
カヲルは70代になってからめっきり油ものが食べれなくなっていた。もともとパンやケーキなどの洋食が好きだったから、それはとても哀しいことだったのだ。
「トモヤ、この店入ろう。あたしはこの桜いちごパフェっていうの食べるよ!」
「いいよ…」
あまりの勢いにトモヤは大人しくついて行くことにした。

テラコッタ風の床に白いテーブル、座り心地のいい木製の椅子。アレカヤシなどの観葉植物が点在して地中海風の店内だった。テーブルの上に運ばれたバジルソーススパゲティが照明に照らされて非常に美味しそうに輝いて見える。食事の合間に運んできてくれる焼き立てパンがふわふわでほんのり甘くてトモヤもたくさん皿に盛ってもらった。
「この店…美味いね」
「…こんなに美味しいの久しぶりだよ」
スパゲティー、サラダ、スープ…運ばれてくるパン、食後のミルクティー、目的だったパフェ…それらのすべてが見た目10代で中実70代のカヲルの胃にどんどん吸い込まれてゆく。
「気持ち悪くなってない?」
トモヤはなんとなく心配になって聞いてみる。
「なんで?」
「いつもだったらこんなに食べれないじゃん…」
「それがねぇ、お腹がへってしょうがないんだよ」
カヲルはきゃはははと笑った。
「細胞分裂が活発になってんのかな」
確かに10代の頃は食べても食べてもお腹が減ってたなぁ…と懐かしい感覚をトモヤは思い出していた。

「お客さま」
ふいに声をかけられた。スーツ姿の男性だった。
「わたくし、この店のマネージャーをしております」
そう言って名刺をカヲルとトモヤに渡してきた。男性の話を聞くと、この店では毎日店内の様子を動画で数十秒ほどホームページに投稿しているという。日々の店内の様子を伝えるだけでアーカイブは残さないので1日だけの掲載らしい。そこにほんの数秒だが写り込むため許可を得るために声をかけたという。
「あたしはべつにかまわないよ」
カヲルは何も考えずにそう答えた。
「いいよね、トモちゃん?」
翌日に消されるなら別に気にすることもないとトモヤも思ったので
「そうだね…いいですよ」
と男性に返事した。男性は丁寧にお礼を言うと別の客に声をかけに行った。

食事を終えて帰宅するころには21時を回っていた。カヲルは風呂に入って落ち着くと「眠くておきていられないよ」と部屋に戻って寝てしまった。
トモヤは逆に疲れすぎて眠れなかった。
ネズミにちょっと噛まれたくらいで若返るなんてありえるんだろうか…とずっと考えている。知識もないし興味のまったくわかない分野なので、考えたところでさっぱりわからない。日付が変わるころ、ゆかり子がやってきた。
「来たよ」
そう言って、おみやげの焼き鳥とビールの入った袋をテーブルに置いた。やきとりは近くのコンビニのやつだ。これはトモヤの好物だ。なんとなく気をつかっているらしい。
「で、何の用なの?」
疲れた様子のゆかり子は少しイライラしている。仕事柄、ゆかり子は不規則な勤務をしている。深夜に帰宅することはまったく普通の事だった。
ゆかり子はトモヤの正面のソファに座った。
「あのネズミ、実験に使われたやつなんだろ?カヲちゃん噛まれたんだ」
トモヤは腕を組んだまま正面のゆかり子をまっすぐに見た。
「カヲちゃん若返ったぞ」
「若返った?」
トモヤは立ち上がると
「見ればわかる」といってゆかり子をカヲルの部屋に連れて行った。
すっかり眠っているカヲルは灯りをつけても起きない。猫耳フードのルームウェアですやすや寝息を立てているカヲルはどう見ても10代くらいの女の子にしか見えない。ゆかり子はトモヤの顔を見た。
「誰この子?」
「カヲちゃんだ」
「うそでしょ?」
「うそじゃないよ。オレの方が聞きたい。これはどういうことなんだよ」
居間に戻ると今日あったことを順にゆかり子に話した。












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