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樹堂骨董店へようこそ⑲

「…まぁまずは温まろうか」
七緒からあたたかいミルクティーのたっぷり注がれたカップを受け取って那胡はごくりと飲んだ。
「ありがとう…沁みるぅぅ」
ラグの上に体育座りをする那胡の髪に花びらのようなものが一枚ついていた。七緒はそっとつまんで観察してみた。
(なんの花びらだろう?)
こんなクリスマス近い季節に花などこの辺ではめったに見ない。花壇に植えられたクリスマスローズくらいのものだ。でも花びらの大きさが違う。クリスマスローズよりも小さくて薄い。わからないまま、ローテーブルに置いた。
「りんさんが…樹堂で働いていたんだ」
那胡はようやく冷静に伝えられた。
「それなら知ってるよ。最近、時々働いているみたい。私も見かけてたよ」
「なんだ、知ってたんだ」
「隣だからね」
「じゃあ、目の赤い背の高い男の人は知ってる?」
「…赤い目?」
「うん、りんさんと話してたんだ」
「それは…知らない…ていうかさ、イツキ邸でリリアとリビングにいた時に那胡も目が赤かったよ。気づいてた?…自分の目じゃわかんないかもだけど」
七緒の言葉に那胡は非常に驚いた様子を見せた。
「えええっっ?!何それ?知らないよ!」
「あの時はいろいろごたついてたから言えなかったんだけど…私の方が知りたいよ」
七緒は那胡の目をのぞき込む。明るい茶色の瞳だ。まったく赤くは無かった。
「赤い目…」
那胡はうでを組んでうつむいて、すぐにパッと顔を上げた。
「七緒ちゃんは前から思っていたけど少しブルーグレーっぽい目をしてるよね」
七緒はミルクティーを飲むとテーブルに置いた。
「母方のおじいちゃんが漁師なんだけど、おじいちゃんの目がそうなんだよね。漁師にそういう人が多いって聞いたことあるよ」
「ふうん…いつも海と空に囲まれてるからかな。どっちも青いよね」
「那胡…よくそんなこと思いつくね!」
「海と空は青い…って思ったから」
「那胡の周りの赤い色って何だろ?」
そう言って七緒が苦笑いすると那胡は真剣なまなざしを向けてきた。
「それ、正解かもしんない!」
「どういうこと?」
「私は結構な頻度で桜杜に行ってる。あったかい季節なら仕事帰りに来ることもあるから。桜杜は桜の森だよ?」
紅色の樹液が樹木たちを満たし、その色は花へと移り染めてゆく。染まりあがった花が季節になると咲き誇るのだから。
「ていうかね、その赤目の男の人私はどこかでみたことがあるんだ…でも思い出せないの」
「いつもみたいにイメージを送ってよ」
「うん」
那胡は男性を思い出してイメージを作ると、七緒にボールを投げるように頭の中で飛ばした。子供のころからやっているふたりの秘密の通信方法だ。
「…あ、来た…うーん…イケメンだねぇ…でもこの人たぶん…人間じゃないよ」
「人間じゃないの?」
「…ていうか、那胡なんでこんな知り合いいるの?この人たぶん…人間とは全く関係ないモノだよ。しかもかなり大きい…ものだと思う。エネルギーの種類が研ぎ澄まされてるから普通の人には見えないはず」
「どうゆう事?」
「自然のものに近いけれど、それよりももっと研ぎ澄まされてて、そして強い。人間とは まったく違う世界のモノだね」
那胡の頭の中には「妖怪」とか「妖精」とかいろいろな単語が飛び交ったがどれも当てはまらないとなんとなく思った。





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