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最後のチョコなんとなく2

彼の部屋を出てから一か月たったころ、タクマからラインが来た。
タクマは彼と私の共通の友人であり、私の幼馴染でもある。幼稚園から高校まで同じ学校で、親同士が知り合いで、なぜか就職先も近所同士という腐れ縁すぎる奴だ。
(今から電話してもいいか?)
(何、急に?)
(いろいろ聞きたいことがあって)
私は一瞬考えて
(いいよ)
許可した。あすは土曜だし約束も何もない。

すぐにかかってきた。
「ごめん、急に連絡して」
「いいよ。それよりなんの用?」
けっこう久しぶりなのに、元気なの?とか聞かないところが私の優しくないところだ。
「いや、あいつがさホワイトデーにお返ししたいってハナのこと探してるぞ」
…お返し?私の中で何かがズレて感じた。
「お返ししたいって言ってたの?」
「うん」
「そうかぁ…」
その前に話すことは何もないんだなぁ…やっぱり。と私はわかっていたとはいえ、いくらかがっかりした。彼は常識的ではないけれど、とても律儀なのだ。
「おまえたち、なんかあったの?」
「うん…まぁ」

タクマに私は今までのことをすべて説明した。
「…そんなことがあったのか…」
「そう。だからもうイヤになっちゃったんだよね」
「うーん…あいつさぁ、めちゃくちゃわかってないよ?」
「なんで?」
「チョコくれたから、ハナは帰ってくるって言ってるし」
「ええっ…」
「俺にハナの住所か、実家の住所教えろって聞いてきたし」
「えええっ、教えたの?!」
「まさか。さすがに勝手に教えないよ。ハナが帰ってこないって聞いてるし、なんかあったんだろうなって思ったから」
「あぁぁ、よかった…」
「あいついい奴なんだけど話通じないからな…ハナが付き合うって聞いたときはこっちも驚いたくらいだから」
「…うん」
私は苦笑いした。
「じゃあ状況がわかったから、俺黙っとくわ。またこんど暇な時に飲みに行こう。グチ聞くよ」
「うん。ありがとう」
こうして電話は終わった。
兄弟みたいなタクマの声を聞いたらホッとしたのか肩のチカラが抜けたような気がした。

私は今、元住んでいた住居に戻っただけだ。今まで、彼に自分の部屋を教えたことがなかった。彼は私がどこに住んでいて、どこに勤めているのか、他にどんな友人がいるのかも何も知らないはずだ。教えたことがないし、聞かれたこともないから。
私たちはそういう付き合いだった。



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