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「湯を沸かすほどの熱い愛」

みなさま、明けましておめでとうございます。
年明けにも関わらず、寒く、苦しい思いをされている皆様に1日も早い温もりと笑顔が戻ることを、心からお祈りしております。

今日は「湯を沸かすほどの熱い愛」という作品をご紹介します。


バツイチの銭湯屋の倅に嫁いだ美しい女性、双葉。
一人娘の安澄は大人になりかけの少女な季節。あどけなさがまだしっかりと残った、あの年代ならではの澄んだ美しさを放つ内気な女の子だ。

生活はというと、「湯気の如く蒸発した」店主のせいで、家業である銭湯は長らく湯を沸かしていない状況。一年前に突然消えた亭主を胸に抱え、一人で子育てと生計を立てようと奔走、苦難の日々を超え、諦めに似た静けさを迎えたそんな春。
気に掛かる不調のために病院にかかると、末期がんで余命3ヶ月を宣告された。

余命、娘、夫、自分のいない家、生活
おそらく現実になるに違いない、冷ややかな地獄が脳裏を駆け巡る
でも、受け入れるしか、ないのだ。

悪化する症状にも、毎日表情を変える葉の色を見つめるように、柔らかく身を任せる双葉
ただ、彼女には守らなければいけないものがある
自分の持ちうる全ての愛を、いや、それ以上の愛をずっと注ぎ続けたいものがある

「娘よ、立ち向かえ。」
「亭主よ、目を覚ませ。」
「自分よ、悔いを晴らせ。」
「子供よ、死を感じよ。」
残された時間を、残された力を愛するものたちへとぶつけていく
彼女の死が贈る、いくつかの些細なはじまりの前の物語。



「愛するものたちよ、もう一度、湯を沸かせ。」

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