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ノーベル賞受賞者が語っているのは、結局は当たり前のこと

テレビの向こう側にいる人は、
どこか遠くの存在、特別の存在。
そんな風に感じてしまうことはよくあることです。
しかしながら、同じ人間であることには変わりなくて、
同じようにどこかに悩みを抱え、
それを乗り越えてきている訳です。

「「大発見」の思考法 iPS細胞vs素粒子」(2011)で対談されている
益川敏英と山中伸弥のお二方の言葉から、
どのように困難を乗り越えることができるか、
その生き方や考え方を学んでみたいと思います。

益川  でも、そのフラフラの結果、山中先生は、iPS細胞と運命的な出会いをしたわけだ。偶然から始めたことが、「ああ、俺はこのテーマに出会う運命だったのかもしれない」と、必然のように思える時が、人間にはあるんですよ。偶然の出会いを運命に変えられるかどうか、それは本人次第。

山中  はたから見たら、僕の人生は、遠回りで非効率に見えるかもしれませんし、無駄なことばかりやっているように思えるかもしれません。もっと合理的な生き方が出来たんじゃないの? と思われるかもしれませんが、そうやって回り道したからこそ今の自分があるんじゃないかと思います。

益川  そう、一見無駄なことが大事なんですね。

かつての勤務校で仕えた上司(校長)から、
事あるごとに「無駄なことを大切にしなさい」と言われました。
その頃は若かったので、漠然と「無駄なことも大切なのかな〜」
と思ったくらいでしたが、経験を重ねるにつれて、
一見すると無駄だったことが、つながることを実感しています。
全てをコスパ・タイパで判断してしまうと、
偶然の出会いを自ら遠ざけてしまう可能性があります。
それは、もったいないことだなと思います。

山中  実験なんて予想通りにいかないことのほうが多いですから。私は学生にこう言っているんです。
「野球では打率三割は大打者だけど、研究では仮説の一割が的中すればたいしたもんや。二割打者なら、すごい研究者。三割打者だったら、逆に、ちょっとおかしいんちゃうかなと心配になってくる。「実験データをごまかしてないか?」と言いたくなるくらいや」と。
仮説の的中率が三割を超えるというのは、本当に稀なことです。普通はそんなにうまいこといくわけがない。
むしろ、予想通りではないところに、とても面白いことが潜んでいるのが科学です。それを素直に「あ、すごい!」と感じ取れることが大切だと思います。

1割でも大したものということは、
9割以上は失敗の連続なんですよね。
でも、そこで「Etwas Neues」を見つけようと努力を積み重ねた人間が、
最終的に大きな仕事を成し遂げることができる。
そして、失敗を「面白い」と思えるメンタルも大切になってくるんでしょうね。

益川  それはもう、ぜんぜん違います。どの分野にもいえますが、研究者が考えていることは一人ひとり違い、互いに影響を与えあっています。たとえば、僕が院生に何か説明している時に、その院生が首をかしげたら、「あれ?俺はおかしなことを言ってるのかな」 と思う。
紅茶の中に角砂糖を入れて、そのまま放っておいても溶けていかないけれど、軽く一回だけスプーンで回すと、すーっと溶けていく。それと同じように、ディスカッションを通じて自分以外の人が関わってくると、それまで自分の思考回路の閉じた部分でクルクル回っていた考えが、すーっと外に流れて行ってくれる。僕はそれを「思考の攪拌作用」と呼んでいます。人と話すことは、とても重要です。

山中 私も、一人では行き詰ってしまうことがよくあります。先生が言われた「思考の攪拌作用」は、理論物理学の場合だと、人と人とのディスカッションがメインになると思い ますが、実験生物学の場合は、実験をやってみて自然に問いかけると、自然から何らかの答えが返ってくる、という場合もあります。

お二人の謙虚に物事を捉えようとする姿勢が垣間見えます。
若い頃は、少しの成功で、一人で色々とできる気になってしまいがち。
私も、そんな時期もありましたが、
やはり衆知を集め、力を合わせることで、
大きなことを成し遂げることができるのではないでしょうか。

紹介したどのフレーズも、
決して特別なことではありません。
でも、お二人は、そこに価値を見出し、
凡事徹底をされているからこそ、
ノーベル賞を受賞されるような大きなことを
成し遂げられたのだろうと思います。

そんな先人の考え方に触れて満足せず、
実践していきたい。そう思う今日この頃。

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