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傲慢と善良 感想、ネタバレあり

もっと人の心はキレイだと思いたい。
なかなか重い内容だった。途中、人間の闇の部分を見せられしんどかったが、最後はハッピーエンドを迎えて読了後の気持ちとしてはそんなに悪い気がしなかった。

まずは創作の勉強としてストーリーの流れを確認する。
突如失踪した婚約者の謎を解明するため、主人公は婚約者の言っていたストーカーの影を探すため、婚約者の過去を探る。
過去を探っていく中で、善良な一面しか知らなかった主人公が、婚約者の狭い世界で生きる傲慢な一面を知っていく。
その後、怒涛の流れでストーカーは実は婚約者の嘘であることが発覚する。

そこからは婚約者の視点に移る。
婚約者がストーカーの嘘をつくようになった経緯。失踪中の行方が明かされる。失踪中にボランティアを通じて他人の目を通じた自分ではなく、本当の自分の輪郭を捉えられるようになっていく婚約者の成長のシーンはよかった。

ストーリーとしては嘘だったという衝撃が大きいが、ストーリーよりもストーリーの中で主人公と婚約者の心情・性格が解像度高く浮き彫りになっていくのがよかった。

恋愛の中である”ピンとこない”という感覚は、相手よりも自分の方が価値が高いと考えているから生まれる。

この言葉なんかはかなりエグいと思う。人の心の中に潜む傲慢さを明らかにしている。
この言葉に全面的には賛成できないが、一部当たっている部分はあると思う。
やはりピンと来ないは価値の上下というよりも、相手との相性という面が強いのではないか?
しかし、恋愛はその人の総力戦であることは否めない。だから、”価値”という言葉はあながち的外れではない。しかし、絶対的な価値ではなく、あくまで相性による相対的なものだと思った。

人間の価値という言葉を簡単に使いたくない。というのも、絶対的な価値など誰もわからないのだから物語で言われている価値とはあくまで現代の常識から導き出されるもので絶対的ではない。例えば平安時代の美人は現代では美人に分類されない。つまり、美人というのも絶対的な価値ではなく、時代と共に移り変わる。普遍的な価値とは、善、徳、愛といった目に見えない大切な価値観をどれだけ自らに内包できるかだと思う。

婚活でうまくいく人は、自分の欲するものを理解している人、ビジョンのある人。
この言葉も賛成だが、求めるものを知る前にまず、己が求めるものに自らが釣り合うような人にならないと、今回の婚約者のように、自分ばかりが相手の好意を得ようと必死になるアンバランスな関係となる。少ししっくり来ない。
物語では、自分の価値を高く思ってしまうことを傲慢という。ある意味、高嶺の花を求めることは傲慢なのか……。
しかし、今回、婚約者に必要だったのは、自立した人間になることだった。
親、主人公、人の言葉に自分の価値をぐらつかせ、他人の言葉に依存している。自信がないから主人公からもっと好意が欲しくなる。得られない自分に自信を失う……、自信がないから他の人からの優しい言葉が欲しくなる。負の連鎖だ。
自立した人間同士でないと恋愛や結婚は成り立たない。

また、主人公は婚約者のことをただいい子としてしか見ておらず、婚約者のことを正面からちゃんと向き合えていなかった。だから、婚約者の嫌がるような友人とよく会ったりするし、最終的には婚約者にストーカーがいるという嘘をつかせるところまで追い込んでしまった。自己愛が強すぎ相手のことを都合のいい一面しか見えていない。主人公もまた自立した大人ではなかったのだ。

書きすぎたのでここら辺で──。

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