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Re-Birth 生まれ変わってもう一度酔う《04LS, [Alexandros]》

ロックバンド・04 Limited Sazabys(以下フォーリミ)がめでたく結成15周年を迎えたということで、アニバーサリーアルバムとしてセルフカバーのアルバム『Re-Birth』がリリースされた。
邦ロックのフィールドのリリースを熱心に追い続ける足を止めてしまった私でさえ、これは聴かなくては、と駆られた。リリース前にYouTubeにアップロードされた「History of 04 Limited Sazabys Season 1」は1時間もあるのに、一気に見てしまった。それくらい楽しみにしていた。

ここで少しだけ、私とフォーリミの話を書かせてほしい。
フォーリミは私にとって、いわゆる「邦ロック」の入り口だった。中学中期から高校中期くらいまでは邦ロック、ロキノン系みたいな括りをされる音楽をよく聴いていて、その最初がフォーリミだった。RADWIMPSやBUMP OF CHICKENは好きで聴いていたけど、ロックという意識はなかった。それ以前はあくまでも、歌うJ-POPが中心だったのだ。
フォーリミがフェスを開催したり、フェスのステージを大きくしていったり、対バンで呼ばれまくっていたりした時期でそれはもうロックヒーローとして映った。そのフェスや対バンから相手のバンドを調べて、ほかのバンドを見つけていたから、フォーリミなくして私が邦ロックの戸を叩くことはなかったのではないかと思う。
当時付き合っていた人に、激推しして結果的に私より好きになっていた。だから、話の中にフォーリミがあるのは自然だったし、より聴いていた(別れたとき、ちょっとの間聴くのをやめていた)。
それくらい、私の青春のすぐそばに、いや内側にフォーリミがいた。

『Re-Birth』を聴いたときに、すぐ好きになった。好きな曲たちが優しく生まれ変わった。そして、私はもうひとつ、同じ例を知っていた。

2020年にリリースされた[Alexandros](以下ドロス)の『Bedroom joule』というコンセプトアルバム。Stay Home期間中に、フロントマンの川上洋平がインスタライブで弾き語りのチルバージョンで曲を届けていた。それが好評だったことから正式なプロジェクトになった、そんなアルバム。こちらも、『Re-Birth』と同じく既発曲を変身させることがひとつのコンセプトである。

ここで、私とドロスの話もさせてほしい。少しだけ。
フォーリミに惹かれ始めたほぼ同時期に、別ルートで出会ったのがドロスだった。ステージ上でジャケットを纏ってスタイリッシュなロックを鳴らし、流暢な英語で歌っていた彼らに惚れたのは、一瞬だった。ドロスの曲は英語混じりで高くて難しいから、中学生の私が歌えるわけもなく、歌うことを最重要視していた私に諦めさせてくれた。それと同時にほかのところに耳を向けることを強いてくれた。
「ワタリドリ」のヒットから認知度が上がったものの、定着してドロスが好きな人がクラスにはいなかった。だけれど、そのカッコよさに向かっていくことに迷いはなくて、ラジオを聴き続け追い続けた。大学受験の勉強が本格化する直前に「Sleepless in Japan Tour Final」に参戦した。泣いた。
ドロスもフォーリミと同じく、青春の1ピースだった。

スタイルの違う2組が、私の音楽史において重要なロックバンドでそれはきっと永遠に変わらない。
そんな2組が曲を優しくリアレンジした。これはもうなにかのご褒美だ、しかも大きめの。なにかご褒美貰うようなことしましたっけ、と不安になるくらいのやつ。
というわけで、04 Limited Sazabyzの『Re-Birth』と[Alexandros]の『Bedroom Joule』2枚のアルバムを比較しながら、めっちゃ褒めていく。


制作の経緯

まず、制作の経緯が結構違う。
前述のとおり、フォーリミは結成15周年アニバーサリーとして計画的に、ドロスは予期せぬStay Homeのラッキーとして制作された。

バンドのアニバーサリ―企画はトリビュートアルバムやベストアルバムを作ったり、ツアー・ライブを開催したりすることがあるけれど、アレンジを変えてのセルフカバーは珍しい気がする。少なくとも私の知識の範囲内では、ほかに例が出てこない。
Stay Home期間にリスナーを励まし盛り上げようといろんな企画があった。プレイリストを共有し同じ音楽を聴いている気分になれたり、過去のライブを配信したり、オンライン/無観客ライブという形で音を届けたり、アーティストが音源を回して重ねたり(フォーリミGenはFukaseを発端とするプロジェクトに参加していた)。そのなかで、自分たちの曲を作り直したのがドロスだった。こちらもほかの例を私は知らない。
2組とも経緯は異なろうとも、挑戦的な試みをしていると評価できると思う。


制作陣営・制作スタイル

もちろん、制作の経緯が違うことにかなり影響を受けるのだけれど、そのスタイルも大きく違う。
フォーリミはスタジオで音を合わせながら、ほかのアレンジャーも呼んでの制作、ドロスは自宅からのリモートで、バンドメンバーのみでの制作だった。ただし、ドロスは「city」のみ踊Foot WorksのPecoriが参加している。

フォーリミは楽器をアコースティックに持ち替えて、ギターのRyutaはベースに持ち替えて、サポートミュージシャンも迎えてスタジオで制作したようだ。そして、トリビュートアルバムのように盟友、後輩、先輩を招いてアレンジ。4人で音を探していくのとは、違ったアプローチがなされたことと思う。その様子をアルバムトレイラーでみることができ、いい雰囲気で作ったのかなと思って聞くのが楽しみになった。
ドロスはそれぞれに家からオンライン上で話し合いを経てのリモートでの制作となり、メンバーそれぞれが楽曲を担当してリアレンジを進めたという。この全員が担当曲をもつという作り方は、ドロスのなかでは珍しいもしくは初めてのことなのではないかと予想する。面白い試みだと思うし、アルバム通して、チルな雰囲気は統一しつつも、それぞれアレンジの違いがあって楽しいものとなった。


選曲

私の受けた印象としては、選曲の仕方は近いと思う。
ライブで毎回演奏する曲や人気曲を収録しつつ、アルバム曲・カップリング曲のようなB面的な楽曲も選ばれている。フォーリミでいえば「soup」、ドロスでいえば「Leaving Grapefruits」がそれにあたると思う。ファン投票で上位を獲得する曲が生まれ変わるプロジェクトに選ばれるなんて、ファンからしたら涙なしにはトラックリストを眺められない。

しかし、リリース時期にも注目して見ると、フォーリミは最新アルバム『Harvest』を除くすべてのアルバムからバランスよく選出されているのに対して、ドロスは結構偏りがある。当時の新曲「月色ホライズン」を除けば、ほかの曲は『Me No Do Karate』『ALXD』の時期からの選出となっている。メジャーデビューそして「ワタリドリ」のヒットという最も勢いがあった時期に集中している。この時期にファンになった私を含めた多くのリスナーは、嬉しかったでしょう!嬉しかったです!ドロスのアルバムには、新曲「rooftop」が収録されている点も、最後に新しい顔を覗かせる構成にするバンドがいい意味で憎かった。


音楽性

フォーリミの『Re-Birth』は世界中にチル旅行している気分になれる。ボサノバっぽい音になったり、スパニッシュなサウンドになったり、カホンが入ったり(たぶん)、ストリングスが入ったり。バンドサウンドを尊重したチルなアコースティックを目指しながら、そのアプローチは楽曲ごとに変わっている。
それは、4人が旅をしながら各地でセッションをした記録のようにも感じた。「お前らの曲知ってんぜ、やろうよ!」「うーん、楽器持ってきてないんだよなぁ」「これ使えよ!あ、お前も参加する?」みたいな会話があったのかも。いや、絶対あった、私には聞こえる。

ドロスの『Bedroom Joule』はベッドルームのコンセプトに沿った1枚で、日曜の朝にこれで目覚めたい。声を張り上げるような歌い方は一切なくて、ささやくような歌声と優しいアコースティックギターの弾き語りがベースになっているように感じる。そこに絵画全体の印象は変えないまま、少しだけ色を足したように聞こえる。この色付けがあるからこそ、ただの弾き語りから進化し、1枚のコンセプトアルバムとして成立する気がする。
まだ起きたくない9時くらいに、ベッド脇のスツールに座って洋平が弾き語ってる感じ。Netflix and Chillのまま一緒に寝て、目が覚めると弾き語りをしている洋平がいて、こっちに気づいていない。気づくと、「おはよ、起こしちゃった?」と頭をなでてくれた気がして、沼にハマっていく。




自分語りと、幻聴/幻覚、妄想を交えながら、2枚のコンセプトアルバムについて褒めさせてもらった。それくらい大好きな2枚なので、聞き続けることになるだろう。
私と同じように、あなたにとっても大切なアルバムになりますように。