ふと、風が揺らいだ。

世田谷の閑静な住宅街では

普段感じぬ風だ。

白髪の老婆が眼差しを雨戸に向ける。

庭に誰かがいる。

微かな気配がする。

そっと雨戸を5センチばかり開けた。

黒ずくめの男たちが3人。

1人はバールを片手に持っている。

今流行りの寄せ集め強盗か。

老婆は傍らの笛を口に添えた。

雨戸の隙間からスッと笛が覗く。

フッ

ギャァッ！

巨体の男が右目を押さえ悶絶している。

右目からは細い矢が突き出

ブシャッと血が吹き出す。

老婆は雨戸をガラッと開けて吠えた。

カァーッッツ！

老婆の右手にはぶらりと何かが垂れ下がる。

2mほどの物干し竿だった。

風が唸った。

ブワンッ

小太りの男の首が横振りで弾け飛んだ。

頬がこけた3人目の男の顔は凍りつき

お、俺は指示されただけだから……

翻って逃げようとした刹那

老婆が放った物干し竿が頭を貫通した。

もう遅い。

誰にともなく老婆は言い放つ。

老婆はうずくまっている巨体の右目から

細い矢を抜き、手拭いで血を拭った。

あんたの頭、フィリピンにいるんだろ。

全員まとめてうちに来いと言いな。

巨体はガクガク震えながら絶命した。

老婆は雨戸を閉め、眠りについた。

世田谷の夜は今宵も静かに更けていく。

今宵、世田谷の閑静な住宅街で〜宮本武子の日常。

つづく

【読買新聞オンライン】
捜査関係者によると、3人は、フィリピンを拠点にした特殊詐欺グループ幹部の通称シャンクス（強盗致死罪などで起訴）に「闇バイト」で召集され、電話で『地下に金がある』『骨を折ってやれ』などと指示されていた。

その後3人は7月18日午前1時半頃、世田谷区の住宅に押し入り、住人の宮本武子さん（90歳）の両手を結束バンドで縛ってバールで殴ろうとしたところ、通りすがりの何者かに物干し竿と吹き矢のようなもので殺害されたと宮本さんは憔悴し切った様子で話した。

その何者かの素性も行方も未だ不明である。