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最期の迎え方 難しいよね、悩むっきゃないよね

映画「毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル」を観た。認知症の母親と暮らす映画監督・関口祐加さんが自身の生活を撮っているドキュメンタリー連作の第3作目。今回は、関口さん自身が股関節手術で入院することになり、そこで出会った患者の死を一つの契機として、緩和ケアやスイスの自死幇助などを取材。最期の迎え方とは? について考える内容となった。何が結論というわけでもなく、「難しいねえ。悩むっきゃないよね」という感じでダラダラっと終わる。こう書くと暗い映画、しょうもない映画のようだが、なにせ関口さん自身のキャラクターが明るいので、からっとしていて、むしろ爽やかだし、この終わり方はすごくいいな、と思えた。

どんな選択にも後悔や悔悟
「ピンピンコロリ」「安楽死」「自死幇助」「緩和ケア」「鎮静」など、人生最終段階の迎え方がいろいろと取り上げられているが、どれが良い・悪いという価値判断は保留されている。これは当然だろう。死に方に正解なんてないから。理想の形なんてないから。死にゆく人と関係する家族や介護者・医療者など周囲の人間の立場に立てば、どんな場合でも後悔、悔悟と反省が必ず残るから。

映画では言葉としては直接触れられていないが、私が「尊厳死」という言葉にうさん臭さを感じるのは、ある死に方を「理想」として、それに尊厳を独占させているように感じてしまうからだ。「こうした亡くなり方は立派。あっぱれ。でも、延命治療とかするのって、みっともない、尊厳がないよね」と言われているようで、こうと決まった形の死に方以外には尊厳があたかもないかのような言葉づかいだから。

尊厳死の法制化には抵抗感
もちろん、そうした死の迎え方を選択したいと考え、行動することを否定しているのではない。選択は自由だ。私も痛いのは絶対に嫌だ。痛みが続くぐらいなら早く楽にしてほしいと思うだろう。だが、「尊厳死法」のように国家によって死に方の規範として提示されてしまうことには強い抵抗感を抱く。大きなお世話だ。特に、その主張をしている中核の「日本尊厳死協会」が、もともと「障害者などは社会に無用」などと主張して優生保護法制定を主導した太田典礼が設立した団体で、団体の名称こそ変えたものの、その過去については総括も反省もしていないだけに、いっそうの危惧を覚える。

姥捨て山?
社会の生産力発展に寄与しない、医療・介護といった社会的資源を食いつぶす存在を早めに墓場に送りたいから、法制化によって社会的規範をつくりあげて「心の痛み」を周囲の人たちが感じないで済むようにしてあげよう。そんな現代版「姥捨て山」をつくりたい意図があるのではないかとさえ勘ぐってしまう。

予断的な聞き方による誘導
ついでにいうと、そもそも尊厳死を主張する人たちはよく、「無益な」とか「無駄な」とかいった予断的価値判断を「延命治療」という本来はニュートラルな言葉に先にくっつけて提示して、「どうですか? 無駄な延命治療はいらないですよね?」って意見を求めてくる。そう聞かれれば、「そりゃあ、無駄なんだからいらないよ」となるのは当然のことだ。「このまずい料理を召し上がりますか?」と聞かれて、わざわざ「食べたい」と答えるのはよほどの偏屈者かチャレンジャーだろう。合理的、効率的に進めることこそが大切な価値で、無駄・無益を極力省くことが資本主義の本質で、私たちは徹底的に無駄を嫌うように仕込まれている。「無駄な」延命治療はいらないよ、と答える人が多いのは当たり前だ。質問の形をとった巧妙な誘導だ。

本人の意思や希望といっても
映画の終わり方がダラダラっとしていて「いいな」と思ったのは、こうした「何か」を強制する姿勢が全くないからだ。医療が発達した現在、日本のように安楽死や自死幇助が合法化されていない国では、最期をどう迎えるかは多くの場合、死にゆく人の家族ら周囲の人たちに最終的な判断が委ねられる。いくら死にゆく本人が希望を事前に言っていたとしても、それはあくまで「元気なときの意思・希望」だ。判断力がなくなってきた状態、死期が差し迫ってきた段階で本当にその意思が継続しているのかなんて周囲にはわからない。だから、悩む。ある選択をしたことによって別の選択肢は実行されないことになるわけで、どんな選択であっても後悔が残る。生きていてほしいという願いと、苦しませたくないという思い。「もう自分もいっぱいいっぱいで今の状況から早く逃げたい」といった、聞きたくない心の声。そんな中で悩み、もがくしかないのが最期を迎えるということだと思う。

それにしても、関口さんが認知症の母親をあしらう様子は本当に見事だ。笑いにまぶして、「まあまあまあ」というようにくるんでいく感じ。あれは性格なのかなあ…。

#毎日がアルツハイマー #死 #エンディング #自死幇助 #緩和ケア #鎮静 #尊厳死 #安楽死 #認知症

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