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助けを求め壁をたたいた者、気づいて手をさしのべた者までもが殺されている

「なぜおまえたちはタンクの壁を叩かなかったんだ」。パレスチナ人作家、ガッサーン・カナファーニーの小説『太陽の男たち』は、給水車の運転手が漏らす嘆きで終わる。おまえたちとは3人のパレスチナ難民だ。密入国を図って給水タンクの中に隠れ、助けを求めずに熱さで3人とも死ぬ。

小説は1963年に発表された。その15年前にイスラエルが独立を宣言し、第1次中東戦争で約70万人のパレスチナ人が故郷を追われた。12歳で難民になったカナファーニーも解放闘争に身を投じ、36歳で暗殺された。

ガザで続く戦闘に、パレスチナ問題の歴史を思う。イスラエル軍とハマスの衝突が始まって半年が経ったが、その根源はずっと昔に遡る。犠牲になるのは常に市民だ。ガザではこの半年で約3万3千人が亡くなった。

家が破壊され、病院は機能を失い、陸路の搬入制限で飢饉も深刻だ。国際NGOによると、ガザ北部では1日平均245キロカロリー(食パン1.5枚分)で生き延びなければならない状況だという。飢えや栄養失調で子どもが命を落としている。

「食は普遍的な人権だ」と訴え、海上から食料などを運んでいたのが支援団体のワールド・セントラル・キッチンだ。ガザで4300万食以上を提供したが、スタッフ7人がイスラエル軍の空爆で亡くなった。

助けを求めて壁をたたいても、気づいて手をさしのべた者までもが殺されるとは。

冒頭の小説では砂漠にこだました「なぜ」が今、頭の中で響き続けている。

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