有機農業を志していた頃のおはなし

皆さま、こんにちは。

さて、ここの所、というか農業関連のツイートをし、同じように閲覧もしていると、日常的に「有機農法」や「オーガニック」について目にします。

農作物を取り扱う販売サイトでも「無農薬」についてなんの躊躇もなくあからさまに書かれていたり(実際はガイドライン違反)、マクロビオティックが宗教的盲信に見られていたりする事があるなど、やや実態のない物をあたかも目に見える効果があるかのように議論されているかのようにも見えます。

筆者は就農当初(実際にははえぬき農業者の義父母の元でわずか2畝ほどの空いた畑を借り、市民農園的にほぼ未経験の技術で育てた農薬不使用の野菜をネット通販していた)、有機農法で生計を立てることを目指しておりました。
実際に認証機関とやり取りをし、過去2年間の農薬不使用である事を立証する事と、認証期間のスタッフの交通費と宿泊費などの出張料を全額負担し、1年間の認証を得るために20万近い負担が必要であること、などを伺いました。

結局、経営判断から、ブランディングする際に、認証を受けるというメリットは期待するほど高くはないと判断、有機農産物である事はうたわずに、ただ自身で農薬、除草剤、ホルモン剤不使用で、タール除去した木酢液や竹酢液、ニームやハーブなどのコンパニオンプランツを用いた自然派農法で、虫害のない物を極力お届けする、というふれ込みで活動しました。

当時はスリップス(アザミウマ)の食害も単に傷くらいにしか見えていなかったものですから、露地で育てたトマトもタバコガのイモムシが着いたくらいしか被害はなく、「意外と有機、いけるんじゃないか」と高を括って1年を終えました。

しかし、2年目から大きな危機を迎えることになります。

不思議なもので、一度作付けをした場所は、翌年になると何故か1年目には飛来しなかったニジュウヤホシテントウやアブラムシが大量に訪れる事になったのです。

他にも1年目に無害だったピュアホワイトという生食できる高糖度トウモロコシも、タヌキやカラスなどの害獣が発生しました。

彼らは学習能力が高く、彼らの言語での口伝なのか模倣行為なのかわかりませんが、ある個体がやった事を群れ全体で共有する事があり、農業の現場でも営農活動に大きな影響を与えてしまう事があります。

現在筆者が主力で生産している露地物のキュウリは、隣の地域でカラスの食害が酷く、ネットやテグスをアーチの上に張って防ごうとしていました。

それもイタチゴッコで、「オタクらもそのうちやられ始めるかも知れないから気をつけてな。まだ被害ないなんて羨ましい」とキュウリ農家さんが話していました。

はじめて聞いた時は「えっ!?カラスがキュウリ食うんか〜」と驚いたものですが、本当に食欲旺盛な雑食性ゆえに生命力が高いのかも知れません。

タヌキやカラス、と書きましたが、キュウリについてはタヌキの被害はなく、足元のキュウリを突くのはキジか何かの鳥類とアナグマだそうです。
ただ、彼らも試し試し食べているみたいで、本当に好きなもの以外はあまりリスクを冒して圃場に立ち入ろうとはしません。
一度防獣ネットを張ったところ、翌年には膝下のキュウリの食害は無くなりました。

初年度の秋にほうれん草も作付けしました。
ほうれん草は本来葉が地を這うように横に広がる植物です。
密植にすると普通にスーパーや八百屋さんで並ぶ立性になり生育も早くなるので、広く一般に採用されている生育方法ですが、当初の筆者は「植物本来の力」という事をテーマにしていたので、疎植(株間を大きめにとる事で植物同士が重ならないようにして、より光合成を促進させてやること)にし、通常よりも長い期間を掛けて育てました。

大変葉茎がしっかりとし、甘さもあり、「ほうれん草がギシギシ苦味のある食感でずっと食べられなかった子供が美味いと言って食べたよ❗️」と1番のお客さんで東京時代からの親友から感想をもらいました。

しかし、事件は自分で食べた時に起きました。

本来、栄養学的にはあまりおすすめの出来ない料理に「ほうれん草のベーコンソテー」があります。

ほうれん草由来の硝酸は体内でおよそ5%が亜硝酸に変化し、肉や魚が体内で消化される際にアミンという物質になり、このアミンが、ベーコンなどの加工肉に多く使われる発色剤にも含まれる亜硝酸とが結合されると「ニトロソアミン」という化学物質になるそうです。ニトロソアミンは発ガン性物質と言われています。

とはいえ、筆者はしめじの入ったほうれん草のバターベーコンソテーが大好きで、いつもこの4品を使っていましたが、その日、キノコを切らしてしまっていました。
それなのに食べているとキノコの食感。「あれ?キノコ、、入れたっけ??」ややゴムのような噛みごたえで、見た目は椎茸のようでしたが、なんと地面にかぶさるように広がった葉を隠れ家としていたナメクジを一緒に炒めてしまっていたのです。

流水シャワーで軽く洗っただけだったのも問題ですが、「農薬も使っとらんし」という筆者の考えの浅さもあったと思います。

「火を通せばなんでも平気教」の信者である筆者は「別にエスカルゴと変わらんやろ、ただ火が通り過ぎて縮こまって固くなったコイツは食えんな。かわいそうな事をした」と土に返しました。正確にはコンポストにでしたが。

この事が全てではありませんが、現在の慣行農法で農協組織を経る系統出荷へと舵を切る一つのキッカケになった一つの出来事です。

有機農法論争についてまでを綴ろうと思いましたが、事のほか前段の話が膨らんでしまったので、タイトルも柔らかく変え、次回以降に続けたいと思います。

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