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壽 初春大歌舞伎『五人三番叟』で新年の歌舞伎座をウォッチング

昼の部、一幕目の歌舞伎舞踊『當辰歳歌舞伎賑(あたるたつどしかぶきのにぎわい)』の『五人三番叟』を観て、私はふたつの発見をした。

五穀豊穣を祈る舞踊『五人三番叟』は若手俳優の躍動感が魅力だ。赤・白・黒の揃いの衣装を身につけた五人が飛び跳ね、舞台を踏み鳴らす。この足拍子という振り付け、土の中にいる邪気を封じ込める浄化の意味を持つそうだ。ただのステップではなく、例えれば、太い丸太に持ち手を付けた「蛸胴突き」で地固めをするような力強さ。元気、いっぱい。観ていて、嬉しくなる。

三番叟の足拍子について長々と綴ったのは、趣味の長唄三味線でお稽古中の曲に出てくる一節が、この三番叟の足拍子と良く似ているからだ。三番叟ものではないけれど「地より泉が増生して、天より宝が振り下る」という五穀豊穣を唄う歌詞がついている。舞台の足拍子を観ていて、これをやればいいのねと、腑に落ちたのだ。

短い動画だが、飛び上がって着地する瞬間に床を蹴ってように見える。こんなふうに、要所、要所をキメようとして頑張るから、元気に見えるのであって、ただ、振り付けをなぞっているわけではない。

そして、もうひとつの発見は客席の和服姿について。お正月らしい華やかな柄や、おめでたいモチーフを身につけて客席に座れば、あらあら、不思議。観る側と見せる側の境界線からはみ出て、舞台上の若手たちと同じ、新年の祝いの席に加わった気分に。

イヤフォンガイドの解説にあったんだけど、日本人にはお祝いを一番にやってしまって、良運を既成事実にしてしまう風習があるんだって。祝うことは、祈ること。ここ数年、親戚の集まりができなくなって、年神様を迎えるだけになってしまったけれど、今年から、お正月に別の意味が加わった。

客席の着物は訪問着だけでなく、無地の紬や紬の訪問着、雲取りなど、実際に着ている人を観るのは初めてという着物がズラリ。小紋も全体柄で、華やか。かっこいいのは、やっぱり、着慣れている人だった。

さてさて、一幕目の後半は『英獅子』。肘から先で雄弁に表現する、ベテランの舞。

二幕目は松緑さんの『荒川十太夫』。赤穂浪士の討ち入り後、切腹を申し付けられた堀部安兵衛の介錯をした下級武士・荒川十太夫は、何故だか、上級管理職の身なり。泉岳寺の門前で「お前は何をやっとるんじゃい」と、お目付役に見咎められる。他人の目より、自分の思い込みというか、自分の中の正義を優先して考える私にとっては共感できる話で、松緑さん、好きだ。でも、泣けなかった。

三幕目、幸四郎・染五郎親子の『狐狸狐狸ばなし』は『ビックコミック』にでも載っていそうなお話。かつては森繁が演じていたそうで、私は豊田四郎監督の映画『夫婦善哉』が好きなんだけど、森繁は四角い顔のおじさんだから、色好みでも、イヤミにならないんだと思った。美男は大変だ。染五郎くんが中々にイイので、友達を誘えば良かったと後悔した。

幸四郎丈の相手役の右近丈、夜の部にも!

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