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「ファッション‼︎」は、やりがい搾取の無償労働&夢を見たい人たちの儚いサクセスストーリーを描く現代の怪談マンガ

はるな檸檬さんは、ユーモアを散りばめつつも力強いメッセージを込めた作品が多く、優れた観察者で表現者だと思う。彼女の最新作が、『ファッション!!』だ。

(以下、ネタバレ含みますのでご注意)

ファッションショーを巡る、
苦学生とその仲間たちのサクセスストーリー

最新作「ファッション‼︎」は、夢に溢れる外国人留学生が、学生の身ながら周囲の人々の助力を得てファッションショーを立ち上げていく話。…と書くとキラキラした青春サクセスストーリーを期待する方も多いだろう。

表面上は、その通りなのだが、実際は、騙したい人とたくさんの騙されたい人たちの意図が絡み合うサイコホラー作品。話が進むにつれ怖い、読み返す程に怖い、先を想像して怖い。

苦学生の皮を被った遊び人

洋服を作るのが大好き!祖国に幼い子を残して、大きな夢を叶えるために日本へ留学しているジャンくん。このジャンくんの夢を叶えるために様々な大人が尽力していく。

「本当にお金がないんです」
「でも、ショーをやりたい、やらなくてはいけない」
「神様がxxさんに僕を会わせてくれたのですね」

と熱さとやる気と感謝を猛烈にPRして、情熱的な業界人たちと自分の夢を叶えていくジャンくん。

これで、発言と本音が合っていたら美談…なのだが、残念ながらジャンくんはなかなかサボり魔だったり、腹黒いお調子者だったりする。

自分が「やります」と言ったことは、大抵やらない。「集めます」と言ったスタッフは集まらない。書かれているはずの書類は、中身はスカスカで間違いだらけ。

奇跡を起こしたいプロデューサー

キーマンの男性は、ジャンくんのファッションショーをほぼ無償で成り立たせるために、自分の使えるものを全て使う。

休職して時間を作り出し、トータルプロデュースと通常のショーだとアウトソーシングする部分を自分でこなして費用を抑えつつ、これまで培った人脈を活かしてスタッフをかき集める。

「最近の子では珍しい熱さだよね」
「xxさんがそこまで応援したいなら、俺も手伝うよ」

業界の知人が知人を呼び、ファッションショーに必要な人たちが集まってくる。モデル、ダンサー、レセプションスタッフ、etc…。ジャンくんのひたむきな気持ち、熱さに共感してほぼ無償で楽曲やモデルを引き受けてくれる。

途中、何度かジャンくんを疑うタイミングが出てくる。第三者からの評判が悪かったときや、ジャンくんが自分でコミットした仕事をしてこなかったときに。

「あまり学校に行ってないらしい」
「周囲の評判も悪いし」
「盗作疑惑がある」

しかし、人が良い熱血プロデューサーは、第三者と自分の疑念を否定する。留学生だからきっと誤解がされやすいんだ。理解されないこともあるから自分は信じよう!

私は、当初からこのプロデューサーが「信じたいから信じているんじゃないか?」と恐怖を感じていて、話が進むごとに、繊細な描写が重ねられて疑念は確信に変わった。

わー、このプロデューサーは、自分が騙されつつあるのに方向を修正しないんだ…。自分が信じたいから、自分の見たい夢を見ることにしたんだ…。

現代にもやる気と才能がある若いデザイナーがいて、東京でもまだファッション界において新しい何かが生み出せて、お金が無くてもアイデアと熱意でなんとかなって、頑張れば奇跡は起きること。業界の常識を超えた大成功を自分が作り出せること!

つまり、自分の見たい夢を信じているプロデューサーは、傍目でチラつくネガティブな情報を振り払って、アクセルを踏み続ける。友人たちは、危ないんじゃないかな・・と思いつつも、止められない。

怖いけれど目が離せない

「ファッション‼︎」はまだ完結しておらず、どの段階で主人公が騙された!となり、何を思いどう変わるのかは、まだこれから描かれる物語。

たくさんの人たちの力がより集まり、絶対に無理だと思われていたことが少しずつ実現に向かっていく。そしてショーは学生のデビューショーとしては、信じられないレベルで成功を納める。「どこで破綻するんだ、このストーリーは!?」と美しいサクセスストーリーの要所にチラ見えするジャンくんの不審な動きに、読者はハラハラする。

私はこの連載のリアタイ(連載が公開されるやいなや、1話ずつ読んでいく人)し、単行本が出たら即購入して、まとめ読みをしてじわじわとその恐怖を何度も体感している。つまり完全にハマってる。

現在、ファッションショーは大成功に終わり、ブランドをどのように立ち上げてマネタイズしていくか、という部分にストーリーは進んでおり、起業するにあたりプロデューサーが代表責任者になるか?という部分まで進んでいる。こけた時の金銭的損失も社会的信用失墜も、精神的ダメージもどんどん膨らんでいくことに恐怖しか覚えない。

彼らがどうなるのかを見たい。知りたい。
文春オンラインで無料で読めますので、皆さんもぜひ。

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