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殺人と裁判の歴史、消費者の信用史、書物の歴史【注目の新刊】#5


1. 『殺人者たちの「罪」と「罰」: イギリスにおける人殺しと裁判の歴史』

イントロダクション 汝、殺すなかれ
第一章 決闘場
第二章 悪の狂気
第三章 自治領の外へ
第四章 まかせてください、医者ではないので
第五章 収穫逓減とキャピタル・ゲイン
第六章 HIRAETH
第七章 鏡に口紅
第八章 法人
第九章 謀殺:手引き

ケイト・モーガン/著、近藤隆文・古森科子/訳『殺人者たちの「罪」と「罰」: イギリスにおける人殺しと裁判の歴史』(草思社)目次

とくに、第2章の

  • 心神喪失を認められながらも有罪となった男

  • 外的な圧力や絶望的な状況は殺人の理由になるのか?

のあたりが特に気になる。

心神喪失と犯罪に関しては、マクノートン・ルール(M'Naghten rules)として知られる基準に基づいて評価されることが多いらしい。これは、1843年にあった英国首相暗殺未遂事件に端を発する基準で、被告が行為を行った時に「間違った」ことを知らなかった、あるいはその間違いを認識する能力が欠如していた場合、心神喪失として認められるとされているようだ。

[英国首相暗殺未遂事件の補足]
マクノートンは、政府から自分が迫害されているという誤った考えを持っており、首相を狙って殺害しようとしたが、間違えて首相の秘書を殺してしまった。

ただ、心神喪失を認められたとしても、その結果としてどのような処遇を受けるかは一様ではない。有罪判決を受けない場合や、異なる施設に収容される場合など、さまざまな可能性がある。

また、外的な圧力や絶望的な状況が殺人の理由として認められるかどうかは、その状況や法的文脈による。例えば、自衛の場合や、極度のストレスや恐怖下での行動は、一部の法域で犯罪の故意や過失を軽減する要因として考慮されることがある。

日本においても、心神喪失の概念は存在している。ただ、具体的なケースや状況によっては、心神喪失とは認定されない場合もある。具体的なケースをあんまり知らんので、日本の例ではないがこの本で知識を収集したい。

【参考】

2. 『現代アメリカ消費者信用史─「二分化された信用制度」の生成』

内容紹介
主流銀行業と低所得者向け消費者信用に二分される米国金融。このシステムがいかに形成されたのかを六〇年代に遡り明らかにする。
序 章
第1章 アメリカ消費者信用史における低所得層消費者信用問題
第2章 全国消費者金融委員会報告書とその主勧告内容
    ――金利上限緩和・撤廃による信用アベイラビリティ拡大策

第3章 低所得層消費者信用の改革構想
    ――全国消費者金融委員会報告書の作成過程にかかわる
理念と利害

第4章 低所得層消費者信用市場の再創出
    ――全国消費者金融委員会報告書の主勧告をめぐる
      委員間対立

第5章 信用の「形式的機会均等」の確立
――全国消費者金融委員会報告書公聴会に見る2つの原理

第6章 現代アメリカ非主流信用の市場と規制
終 章

大橋 陽『現代アメリカ消費者信用史─「二分化された信用制度」の生成』(日本評論社)目次

米国の金融システムは、大きく二つの部分に分かれているらしい。

  1. 主流銀行業:

    • これは私たちが普段思い浮かべる、大手銀行や証券会社などの金融機関を指す。顧客の資産の管理、大規模な融資、企業の投資アドバイス、証券の売買などの金融サービスを提供している。

    • 顧客層は中所得者以上が中心で、信用履歴や収入が一定の基準を満たしていることが多い。

  2. 低所得者向け消費者信用:

    • 低所得者や信用履歴が不十分な人々を対象とした金融サービス。このセグメントは、ペイデイローン、質屋、タイトルローン、高金利のクレジットカードなどを提供する業者によって支えられている。

    • これらのサービスは、短期間の融資や緊急時の資金調達のために利用されることが多い。しかし、高い金利や手数料が特徴で、これにより借り手はさらなる経済的困難に直面することがある。

米国の金融システムは、利用者の所得や信用履歴に応じて大きく上記の二つのカテゴリに分かれており、それぞれ異なるニーズに対応しているようだ。

特に低所得者向けの金融サービスは、経済的に困難な状況にある人々の生活を支えるためのものとして存在しているが、その一方で高いコストやリスクが伴うことが多いみたいだ。

ペイデイローンってのは日本だとあんまり聞き馴染みがない。これは給料を担保に貸し出す短期間の貸付サービスのことだ。100ドルとかを借りて2週間後に110ドルにして返すって感じらしい。これ年利に直すと260%に相当する。アメリカだと利息制限は10%くらいらしいので、とんでもない暴利だ。

2週間っていうペースがなんなのかっていうと、アメリカだと2週間に1回給料をもらうのが普通みたいらしく、要は「次の給料日(ペイデイ)までに返せ」ってことらしい。

一部の業者は、返済期日を延ばすサービス(ロールオーバー)を提供しており、この場合さらに追加の手数料が発生する。

アメリカだとこのペイデイローンってのが、低所得者層の貧困を加速させまくっていてかなりヤバいらしい。全然知らなかった。

【参考】


3. 『パピルスのなかの永遠: 書物の歴史の物語』

プロローグ 
第一部 未来に思いを馳せるギリシア
 快楽と書物の都市
 アレクサンドロス―あきたらぬ世界
 マケドニアの友
 深淵の縁の均衡――アレクサンドリアの大図書館とムセイオン
 炎と暗渠の物語
 書物の皮膚
 探偵の任務
 ホメロス、それは謎と衰退
 失われた声の世界――こだまする音のタペストリー
 アルファベットの穏やかな革命
 雲間からとどく声、定まらぬ空もよう
 影の読み方を学ぶこと
 反抗的な言葉の勝利
 最初の書物
 移動書店
 文化という信仰
 驚くべき記憶力の男と前衛派の女性グループ
 物語の織り子たち
 私の物語を語るのは他者
 笑いのドラマとゴミ捨て場の恩恵
 言葉との情熱的な関係
 書物の毒。書物の儚さ
 アレクサンドリアの大図書館の三度の崩壊
 救命ボートと黒い蝶
 こうして私たちはこれほど奇妙ないきものとなった
第二部 ローマの街道
 悪名高い都市
 敗北の文学
 奴隷化の見えない境界線
 最初は木だった
 貧しい著者、裕福な読者
 うら若い一族
 書店員――危険な仕事
 ページのある書物の揺籃期と成功
 湯の宮殿の公共図書館
 二人のスペイン人――最初の熱狂者(ファン)と最初の熟練作家
 ヘルクラネウム――破壊による保存
 検閲と戦うオウィディウス
 甘い惰性
 書物の内側への旅路と名づけかた
 古典(クラシック)とはなにか
 正典(カノン)――水生植物の物語
 女性の声の断片
 永遠のものと信じられていたものは儚かった
 あえて記憶にとどめること
エピローグ――忘れ去られた者たち、名もない者たち

イレネ・バジェホ/著、見田 悠子/訳『パピルスのなかの永遠: 書物の歴史の物語』(作品社)目次

現代人にとって、本は100円から手に入れることのできる比較的安価なメディアだ。これもひとえに、紙の発明と活版印刷の発明のおかげといえる。

読書家の末席を汚している私としては、蔡倫(紙の発明者)とグーテンベルク(活版印刷の発明者)には、足を向けて寝られない。彼らはすでに亡くなっているので、どこに向けたらまずいか分からないのが悩みの種である。

天国にいるのだとしたら逆立ちでもしながら寝ない限りは問題なさそうだ。地獄にいる場合は、逆に寝ている時以外足を向け続けているので申し訳ない限りだ。ごめん、蔡倫・グーテンベルク。

話が盛大に逸れていったが、現代人にとって書物というのは手に入れるのに大した苦労のかからないものだ。だが、古代人にとってはそうではない。

印刷技術がない時代は手で書き写すことによって本は複製されていたのだし、作成に苦労もかかる上、知恵=力だったので、割と門外不出のものとして秘匿されていた側面もある。

西遊記の三蔵法師なんかは、言うたら本(経典)を読みたくて命懸けで旅をした人だ。現代人の書籍に対するイメージと、古代人の持つイメージの間には大きな隔たりがある。

そうした「書籍の歴史」に興味のある人は、注目すべき新刊と言えるだろう。

そうした書物の歴史について、とくに「破壊」にフォーカスした本もある。合わせてこちらもぜひ。


今週の注目の新刊はこんなところで終わりにする。
今後も週1のペースで紹介するので、趣味の合う人はぜひスキ・フォローをよろしく。あと、月に1度とくに良かった本を取り上げるので、そちらも楽しみに。

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