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【俳句】蛙1句

草陰の蛙うごかす芭蕉かな

 シュレーゲルアオガエルの生息地に行ったが、鳴き声は聞こえても姿は見えない。
 他のカエルも、その存在を音を頼りに知るのだとしたら、松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」は、鳴き声が水の音とともに途絶えて静寂が訪れたので、飛び込んだかどうか(見えていないので)定かではない蛙を、想像上の古池に飛び込ませたものなのだろう。
 おそらくすべてはフィクションなのだろうが、蛙といえば鳴き声そして山吹という伝統を打ち破り、古池という架空の舞台がまるでブラックホールでもあるかのように、一瞬にしてすべてを無に帰し、静寂を生み出すことに成功した奇跡の空間演出が衝撃だったのかもしれない。
 芭蕉は自分を限りなく透明に近づけてあらゆる領域に溶け入り、5・7・5という形式を利用した言葉の繋がりと調べ(音)によって、時空間を自在に紡ぎ出す手品師マジシャンだったのだ。

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