山本てら
四季折々
ショートショートは2000字前後まで、短編小説はそれより長めの読み切りです。
古典文学のお気に入りの部分を、現代を舞台に小説にしてみました。
さまざまな言の葉の綾
夢もうつつも一緒くた
歌ひつつ白詰草の乙女かな 若草を踏みしだきゆく乙女かな 春雷や神をおそれぬ乙女かな
近よりて手元みだるる春昼や はりつめし胸のすきまに花ひらり 笑みは絶えごまかしきかぬ修羅の道
花影にまぎれて笑みを交はすかな あつき目に溶けたる花の朧かな 眼裏のおもかげはるか花おぼろ
花韮の青やあの子の涼しき目 陽光の角を曲がれば花の雪 桜散る道を駈けるやがむしやらに
星菫の学び舎落花の石だたみ 若草の床に添ひ臥す死花や 言の葉や落花もろとも朽ちゆけり
窓ごしのカーテン越しの桜かな 霞かな雲かなをちの白き影 ナトリウムライトに化粧の桜かな
物語のただなかにゐる春の雨 まねぶべきためしもなくて春の雨 あてのなき心模様や春の雨
春はやて心に穴をうがちけり たましひのさらめく春の嵐かな 春あらし明けて光の寝覚めかな
長閑かな文になやみて日は暮れて 言の葉に旅して果つる春の日や はやる思ひにちぎりし反故や花吹雪
久々にふたことみこと芽吹くかな 若き背や夕日にとけて桜色 またの世はともに眺めん春の星
薄闇に手ぐり寄せたる春うれひ 無となりて風に消えたし春の海 切れし糸を結ばぬままに遅日かな
今日もまた肥えし鵯の落としもの 色あせてゆかしき河津桜かな 新しき楽の音に虫出づるかな
胸の底ちくちく鳴りて春の闇 ひたすらに落ちゆく椿ながめをり ここもとを離れし蝶のかろらかや
楽の音や車窓にはずむ春の雨 雨風に閉ざされし間の芽吹かな 朧なるさきはひつむぐ夜伽かな
春風や雨とひかりをこきまぜて 春ときけば雨の色さへ変はるかな 雨上がりの土にきらめく春の香や
かの子忌や多摩川の底きよきかな かの子忌や眠れぬ体蠢きて 常盤木の闇に惹かるるかの子忌や