見出し画像

『すずめの戸締まり』から考えるコンパクトシティ、国土強靱化

新海誠監督『すずめの戸締まり』は、日本列島の住民が直面している課題を描き出している。こうした課題への政策的対応が、「コンパクト+ネットワーク」の形成だ。「コンパクト+ネットワーク」は、土木建設、鉄道、航空、情報通信、エネルギー等に影響する。関係産業への影響を知ることは、中長期的な株式投資の銘柄選択に資する。

新海誠三部作は自然災害がテーマの底流


新海誠監督の最新アニメ映画『すずめの戸締まり』は、既にご覧になっただろうか。1月15日時点で国内の興行収入124.9億円、国内歴代25位。『君の名は。』『天気の子』についで、新海誠監督にとって3作目の興行収入百億円超作品である(興行収入等のデータは興行通信社「CINEMAランキング通信」より)。他に興行収入百億円超作品が複数ある国内のアニメ映画監督は、宮崎駿氏のみである(1月9日時点で5作品)。
宮崎駿監督は「国民的作家」と言われることがあるが、近年、新海誠監督がその後を継ぐ「国民的作家」とみなされつつある。「国民的作家」と言われるのは、その時々の日本国民の底流にある共通テーマを抽出し、表現しているからであろう。『君の名は。』以降の新海誠監督の3作品は、いずれも自然災害が底流にあり、その契機は東日本大震災とご本人が各種のインタビューで答えている。

≪以下、若干のネタバレ注意≫

日本列島の住民が直面する課題


『すずめの戸締まり』は、主人公の岩戸鈴芽が相方の宗像草太と共に廃墟となった地域に開く「後ろ戸」を閉じて地震を未然に防ぐため、日本国内を移動するロードムービーである。鈴芽が東日本大震災の被災者であることが大きな鍵の一つである。
廃墟は人口減少、過疎化が進む日本の現状を象徴している。主人公たちが予防に努めている地震は、これまでもそしてこれからも日本列島に襲来し続けるであろう自然災害を代表している。『すずめの戸締まり』は、日本列島の住民が直面している課題を描き出しているとも言える。

課題への対応としての「コンパクト+ネットワーク」


こうした課題に対する政策的対応が、コンパクトシティ構築や国土強靱化の取組みである。2015年8月に閣議決定された「第二次国土形成計画(全国計画)」によると、「急激な人口減少、巨大災害の切迫等、国土に係る状況の大きな変化に対応」するため、「国土の基本構想として」「対流促進型国土」の形成を図り、そのための国土構造として「コンパクト+ネットワーク」の形成を進めている。ここで言う「コンパクト+ネットワーク」とは、既存の市街地をコンパクトシティとして再構築し、各コンパクトシティを高度な交通網と情報通信網によってネットワーク化することにより、全体としての都市機能の活性化を図り、国全体の生産性を高めようとすることである。その際、災害への対応力が高い都市構造への再構築も図る。

図:日本の新幹線ネットワーク(2023年1月現在)


出典:JRTT鉄道・運輸機構ウェブサイト (https://www.jrtt.go.jp/construction/outline/shinkansen/ )

「コンパクト+ネットワーク」


コンパクトシティへの再構築のためには、都市計画の見直し、その実現のために土木建設業、エネルギー産業などの活動が必要となる。また、各コンパクトシティをつなぐ鉄道、航空、道路、情報通信インフラなどのネットワークを充実させることが、各コンパクトシティ自体と日本社会全体の活性化にとって重要である。
エネルギーのうち電力については、地熱発電、風力発電、潮力発電などの積極的利用や、水力発電の見直しなどが鍵となろう。水力発電は既設ダムの運用見直し、小水力発電の活用などにより、多くの可能性が眠っている(関心がある方は、竹村公太郎『水力発電が日本を救う -今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる-』東洋経済新報社、などを参照)。これらの電力は、原子力発電所や火力発電所のような中央集権型のネットワークよりも分散型ネットワーク、地産地消の方がより効率的であり、コンパクトシティと相性が良い。

持続可能で活力ある日本へ


上記に挙げた産業などの活動により、「コンパクト+ネットワーク」を実現することは、日本の持続可能性を高め、社会活力を維持する基盤を高めることになろう。
株式投資などの金融資産に投資する時、中長期で考えるならば、自分たちが暮らしていく社会がより良くなりそうな事業をしている企業に資金を回す視点で考えてはいかがだろうか。

20230117 執筆 主席アナリスト 中里幸聖




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?