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PPP/PFI(官民連携)の積極活用へ

財政制約下で良質な公共サービスを維持するため、PPP/PFI(官民連携)は有効な手段の一つである。PPPは公益を確保しつつ、民間事業者の創意工夫によって、公共サービスの効率性・柔軟性を高めようとするものである。民間側から見れば事業機会の拡大でもある。PPPには様々な形態がある。コンセッション事業が注目され、実施例が増えている。

財政制約下での公共サービス維持


一段の高齢化進展に伴う社会保障関係費の増大、緊迫する国際情勢下での防衛費増額の必要性日本国存続に直結する少子化対策(子供が生まれなければ、日本人は自然消滅)、社会活力維持のための公共交通維持策それらの基礎となる国土強靱化、等々、財政需要は尽きない。一方、新自由主義礼賛、財政均衡至上主義といった主要国では既に古びた概念に基づいてバブル崩壊後の経済財政を運営してきた我が国は、時代に合わなくなった諸慣行と相まって、1990年代半ば以降、相対的に世界から後れを取り続けている。経済は概ね停滞し、そのため財政バランスは一向に改善しない。財政バランスの改善は増税ではなく、経済成長による税収増によってなされる(この点については、機会があれば論じたいと考えている)。
こうした状況下でも公共サービスを維持する工夫として、PPP(Public Private Partnership:官民連携)の取組みが進められている。なお、ここでいう公共サービスは、道路や上下水道などのインフラの建設・運営なども含む広義の意味で用いている。

公益確保と効率性・柔軟性


我が国を含む先進諸国では基幹的なインフラ整備は概ね完了しているが、いかに効率よく運営・サービスを提供し続けるかが課題となっている。また、時代の変化に対応した新たな課題や、老朽化に対する対応、人口変動などによる公共サービス需要の変動(地域的な変動含む)などに柔軟に対応することも求められている。
こうした課題への対応として、1980年代には公営事業の民営化が積極的に行われた。我が国では電電公社がNTTになり、国鉄がJR各社に分割民営化された。しかし、社会経済に必要な公共サービスの全てが民営化できるわけではない。
また、法規制などによりある程度コントロールはできるものの、完全民営化をすると公益を最優先に位置づけることは困難となる。公益を確保しつつ、いかに公共サービスの効率性・柔軟性を高めるかが求められている。

PFI法の制定


民営化以外の方法による課題対応策として、PFI(Private Finance Initiative:直訳すれば民間資金主導)、さらに対象範囲を広げたPPPが英国や豪州、ニュージーランドなど英連邦諸国を中心に実施されるようになった。我が国では1990年代後半からPPPやPFIの導入・活用が議論され、1999 年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(通称PFI法)が制定された。その後、PPP/PFIの実施状況や改善点等を踏まえつつ、数度にわたり法改正がなされており、直近では2022年に改正法が成立している。
PFIはPPPに含まれるものである。図1がPPPに関する概念図であり、指定管理者制度、包括的民間委託、公的不動産利活用事業、PFI法に基づくコンセッション事業、収益型PFI事業、サービス購入型PFI事業など様々な形態がある。本稿ではこれらの形態の全てには触れないが、国土交通省「官民連携事業(PPP/PFI)のすすめ(令和2年度版)」、内閣府「PFIの現状について(令和4年10月)」などで簡潔に説明されているので、関心のある方はそれらをご参照いただきたい。

図1:PPP/PFIの概念図

出所:国土交通省サイト「PPP/PFI(官民連携)」「官民連携とは」

なお、我が国の鉄道網は戦前から官民が競合したり、協業したりして整備してきた。他のインフラ分野でも同様の事例が見られる。そう考えると、官民連携と訳されるPPPは特別目新しいことではないとも言える。フランスでは19世紀以降、水道や鉄道分野などで民間事業者への委託が広がっていたそうである。
公共施設の維持管理業務(修繕や清掃など)を民間事業者に委託することなどは従前より実施されてきた。ただし、従来は民間側の創意工夫等が入り込む余地がないような仕様発注が基本であった。PPPは性能発注により、民間事業者の創意工夫を活かすことができる。民間事業者が主体的に公共サービス提供にかかわることにより、同じ公共サービスでもコスト削減を実現したり、同じコストでもより質の高い公共サービスの提供を目指すのがPPPである。

民間企業にとっては事業機会の拡大


PPPは民間資金や民間事業者の創意工夫を活かして、財政制約の下でも良質な公共サービスの提供を目指すものである。一方、民間資金や民間事業者の側からみれば、投資先や市場が拡大することと考えられる。今まで、行政が実施してきたため民間が事業展開できなかった分野、投資対象とならなかった分野に参入が可能となる。行政コスト(最終的には税金等によって賄われる)により実施されていた事業をPPPで実施することにより、受益者負担が明確になるケースもあるだろう。
内閣府「PPP/PFI推進アクションプラン(令和4年改定版)」(令和4年6月3日)によると、2022~2031年度の事業規模目標は30兆円である。内訳はコンセッション7兆円、収益型事業7兆円、公的不動産利活用5兆円、サービス購入型等7兆円、取組強化4兆円となっている。重点分野としては、空港、水道、下水道、バスターミナル、スタジアム・アリーナ、文化施設、大学施設、工業用水道、などが挙げられている。

コンセッション事業の進展


前述したようにPPPという発想自体は目新しくないとも言えるが、我が国ではPFI法により可能となったコンセッション事業が注目される。コンセッションは法的には「公共施設等運営権」とされ、公共施設等運営権制度、公共施設等運営事業などと使われている。
公共施設等運営権(以下、運営権)は移転可能なみなし物権であり抵当権等の目的となることとされている。つまり、金融機関等からの資金調達の担保として利用できる。ただし、運営権の移転には管理者等(多くの場合は地方公共団体などの公共主体)の許可が必要などの条件が付されている。
近年では、空港、上下水道などでコンセッション事業の実施事例が増えており、他の分野での展開も期待されている。2020年度末時点では、空港12件、水道3件、下水道4件、道路1件、文教施設6件、クルーズ船向け旅客ターミナル施設1件、MICE(※)施設4件、公営水力発電1件、工業用水道3件、その他の施設5件がコンセッション対象事業として挙げられている(既に運営事業を実施している案件からマーケットサウンディング(民間投資意向調査)段階までを含む。内閣府民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)「公共施設等運営事業の主な進捗状況」より)。

※「MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称」(観光庁サイト「MICEの誘致・開催の推進」より)

図2:コンセッション事業の事例

注1:空港については、ビル施設等事業の開始が先行しているケースもあるが、滑走路等の事業を開始した月を図示。
注2:北海道7空港は新千歳、函館、釧路、稚内、女満別、旭川、帯広。運営開始は順次であるが、空港そのもので一番早い新千歳空港の開始時期を図示。
注3:「上工下水一体」は、水道・工業用水道・下水道を一体でコンセッション設定。
注4:現在実施されているコンセッション事業の一部を紹介したものである。本図に挙げた以外にも事業実施中の施設が多くあり、実施に向けて手続きを進めている施設も多くある。
注5:2023年3月23日時点で入手可能な情報に基づく。
出所:内閣府民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)、国土交通省、運営権移譲側団体、各事業運営会社などのサイトから筆者作成。

20230324 執筆 主席アナリスト 中里幸聖


前回レポート:
人口減少下における持続可能な公共交通へ」(2023年3月15日)

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