経営「者」ではなく、経営「チーム」が大事という話

「うちの会社の経営合宿においでよ」

先日、とある会社の役員から誘われて、二つ返事でOKして行ってきました。コンサルタントという仕事柄、経営合宿の事務局のお手伝いをしたり、前座で問題提起の講演したりする機会が少なくなかったのですが、今回の合宿は、本当にカルチャーショックでした。

「じゃあ、何を議論するかを決めようか」

「なんの準備もいらないよ」と言われ、まあゲストの僕はそうでしょう、と、本当に手ぶらで行ったら、なんと役員も全員事前準備なし。その場で、何の議論にこの2日間を使いたいか、の議論からスタート。ほんの30分で、論点と2日間のスケジュールを切り終えます。そして、論点ごとに議論のファシリテーターを割り振って、「じゃあ、始めようか」とスタート。

事務局が分単位のスケジュールを組んで、各役員がプレゼンをするので、その資料を必死で準備して、担当役員がプレゼンをして、質疑応答があって、事務局が必死に議事録をまとめる、という、いわゆる大企業の経営合宿との違いに圧倒されたのです。

「お互いの内面を知らないと、一緒に経営できない」

その場でセットされた論点の一つが、役員それぞれの強みの再確認。え、もうこの会社何年も経営していて、今更?と思ったりする寺田をヨソに、改めてお互いに尊敬できることの対話をします。

これまた大企業だと、合宿の夜の飲み会や、懇親ゴルフはあっても、改まって互いに自己開示をする場を持つこと、ってないですよねー、と感想を述べたところ、役員から出た言葉が、「お互いの内面をよく知らないと、一緒に経営なんてできないでしょ?」

チームメンバーか、ライバルか?

当然、会社の成り立ちや規模が違うので、一事例を礼讃するつもりはないものの、同じ日本人の経営者で何がこの違いをもたらすのだろう、と思いを巡らせていると、ちゃんと先に考えている人がいました。それも、寺田のよく知ってる大先輩の松田さん。

企業の持続的成長を、社長の在職籍期間ではなく、在職後の成長にも着目して、定量分析した結果、以下の2つのパターンを見出しました。

▶祟るメカニズム:
社長と幹部経営層との在職期間の乖離が大きく、社長だけに経験値が溜まる在職構造ほど、次世代の企業価値を毀損する相関が高い
▶託すメカニズム: 社長と幹部経営層が在職期を共有し、「経営陣の経験値」が高まる在職構造ほど、次世代の企業価値を代々継続的に向上させる傾向がある
松田真一 「経営リレー」論(前編)
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2016/10/cs20161009.pdf

この「祟るメカニズム」は、幹部経営層が次々に入れ替わることで、社長にだけ経験値が溜まり、幹部経営層は部門の利益代表から脱却できず、経営会議は形骸化することから生じます。結果、長期政権の経営者がいなくなった後、次世代の経営陣が企業価値を毀損してしまうのです。

これを乗り越えるために、松田さんが提唱するのが、経営者個人の選抜から、選抜後のチーム開発へのシフトです。

個を最後まで競わせることで名高かったGEですら、今やその弊害を修正し、チームの結束力の中で互いの能力を引き出す方法に方向転換している
松田真一 「経営リレー」論(後編)
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2016/11/cs20161106.pdf

この知見から、経営合宿の在り様も、隣にいる役員をどう捉えるか次第なのではないかと思い至ったわけです。

隣にいる役員を、社長選抜トーナメント戦のライバルと捉えてしまうと、片方の手で握手しつつ、もう片方の手で(おおっぴらにはできないので、こっそり)戦わざるを得ません。そうすると、経営合宿の場は、お互いの陣地や縄張りを一方的に主張して、お互いの領空侵犯を防ぐための利害調整の場になってしまいがちです。

一方で、チームメンバーと捉えると、チームが勝つという共通の目標に向かって何ができるかを考えたくなります。メンバーが集まることができる貴重な時間を使って、お互いをもっと知るもよし、普段話せない議論を徹底的にやるもよしかと。

じゃあ、大企業がどうやって経営チームを作って、経営承継をしていけばいいかが気になる方は、ぜひ松田さんの著作を読んでください。

https://www.amazon.co.jp/経営継承の鎖-「歴代成長」企業のDNAを探る-松田-真一/dp/4532321875

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