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絵画で味わう江戸のさかな【江戸の蟹、上方の酒】

魚は日本酒に合う。刺身に煮物、焼き物に揚げ物、さまざまな魚料理が日本酒とともに食されている。その姿を描いている浮世絵も多数存在するが、その中でも一風変わった一枚を紹介したい。

喜多川歌麿『教訓親の目鑑』俗ニ云ばくれんである。『教訓親の目鑑』は、「こんな子に育ててはいけない」という親向けの教訓を描いたシリーズものである。その一編である「ばくれん」とは、すれっからしという意味である。

『教訓親の目鑑』俗ニ云ばくれん

絵を見てみよう。ギヤマンと呼ばれるガラスの杯で日本酒をぐぅっと空けている女性が描かれている。着乱れた着物と恍惚とした表情が特徴的である。

片手に握られているつまみはガザミであろう。江戸前のガザミは当時有名であり、日常的に手に入るものであったと考えられる。塗られた色からも、よく火が通り赤々としているさまが伺える。身だけでなく、殻に入ったミソはとりわけ日本酒にあったことだろう。

この日本酒、実は江戸で作られたものではない。上方からきた高品質のものであり、下り酒と呼ばれるものである。下り酒は特に今でいう大阪や兵庫周辺(伊丹や灘が有名)で作られた酒であり、樽廻船という船で江戸に運ばれていた。その数は年間百万樽を超えたという。

絵の中には遊び心が仕掛けられており、女性の着物をよく見ると下り酒の銘柄がマークとして入っている。どこの蔵が入っているか、もし時間があれば見てみてほしい。

剣菱のマークが着物に隠れている。この他にも、男山や七つむすめのマークもある。
ちなみに剣菱は東海道五十三次にも描かれている

江戸の美味い魚に、上方の旨い酒。子の将来を気遣う親の心もわからなくはないが、せめてこれを味わう間だけは、目をつぶっていてほしいものである。

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