鷹 輝政

東京大学農学部 水産学科出身。筑波大学博士後期課程に在籍。江戸時代の魚食文化・水産物流…

鷹 輝政

東京大学農学部 水産学科出身。筑波大学博士後期課程に在籍。江戸時代の魚食文化・水産物流通について調べてます。 ご連絡はこちら terumasa.taka[at]gmail.com

マガジン

  • 絵画で味わう江戸のさかな

    江戸時代の絵を鑑賞しながら、当時の魚食に想いをはせてみようという連載です。歴史好き、ご飯好き、魚好きが幅広く楽しめるものにしたいと思っています。

  • 日本橋魚市場沿革紀要を原典で読む

    明治時代に書かれた史料「日本橋魚市場沿革紀要」を原典で読みつつ、江戸時代の水産物流通を調べてみました

最近の記事

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これからどこまでを「江戸前」と呼ぼうか

「江戸前」 この言葉をきいて、皆さんはどの範囲を想像しますか? 東京湾全域でしょうか?品川や大森あたりの海でしょうか? お寿司に天ぷら、うなぎ。日本、特に東京・江戸の魚食文化を彩るこの言葉は、時代が変わるにつれてその定義を変化させてきました。 日本橋魚河岸が江戸後期に幕府に提出した「文政二年文書」では、「江戸前」を「品川洲崎の一番棒杭から深川洲崎の松棒杭を直線で結んだ内側」としています。不格好ですがあえて現在の地図上で境界線を引いて、その内側を見てみましょう。 狭い!

    • 江戸の魚食文化の記事を大日本水産会に寄稿するようになりました

      しばらく仕事や研究(私は仕事の傍ら筑波大の博士後期課程におります)でバタバタしっぱなしで、こちらのアカウントを更新できていませんでした。 江戸時代の水産物流通や魚食文化に関する記事は、大日本水産会の魚食普及推進センターで連載させていただけることになったので、こちらをご覧ください(だいたい月1本ペースで公開されると思います)。 また、江戸とは違ったジャンルの記事も会社のnoteで書いておりますので、こちらも併せて読んでいただけると嬉しいです。 引き続き物書きは続けていきま

      • 浮世絵のタコ料理を再現したら食べたことない味になった

        『絵画で味わう江戸のさかな』では、魚料理が出てくるさまざまな浮世絵を紹介してきた。絵で味わう江戸の魚(肴)というコンセプトで続けてはきたが、やっぱり実際に食べてみたくなる。 私は以前、江戸時代のレシピ(原文)をなんとか読んで当時の料理を再現するというチャレンジをやったことがある。その経験を活かし、今回は浮世絵に描かれたタコ料理を再現してみた。 これが今回扱う『江戸名所百人美女 日本橋』(三代目歌川豊国)である。長火鉢で燗をつけた日本酒を、タコの煮物らしきものをつまみに味わ

        • 絵画で味わう江戸のさかな【江戸の蟹、上方の酒】

          魚は日本酒に合う。刺身に煮物、焼き物に揚げ物、さまざまな魚料理が日本酒とともに食されている。その姿を描いている浮世絵も多数存在するが、その中でも一風変わった一枚を紹介したい。 喜多川歌麿の『教訓親の目鑑』俗ニ云ばくれんである。『教訓親の目鑑』は、「こんな子に育ててはいけない」という親向けの教訓を描いたシリーズものである。その一編である「ばくれん」とは、すれっからしという意味である。 絵を見てみよう。ギヤマンと呼ばれるガラスの杯で日本酒をぐぅっと空けている女性が描かれている

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        • 日本橋魚市場沿革紀要を原典で読む
          24本

        記事

          江戸時代の魚事典を原文で読んだら心が熱くなった

          魚の事典というと、今では本やWebサイトなど多くのところで見ることができる。実は、江戸時代にもそれはあった。魚鑑(うおかがみ)という本である。 挿絵とともに、133魚種分の産地や名前の由来、食べ方、どこが体に良いか悪いかというところまで書いた、実用的な本である。 ためしに1ページ読んでみよう。試みに「くろだい」の節を書き下してみた(一部文字が出なかったところはカタカナで記した)。 倭名類聚抄などの書物に登場していることや、チヌやカイズと呼ばれていたことがわかる(呼び名は

          江戸時代の魚事典を原文で読んだら心が熱くなった

          絵画で味わう江戸のさかな【遊郭のバックヤード】

          これまで、江戸の遊女にフォーカスした浮世絵をいくつか紹介してきた。 きらびやかな服を着てうまいものを食べ、客をもてなす華やかな世界。喜びも大きいだろうがその気苦労はいかばかりか。彼女たちにも、ゆっくりと過ごす時間が必要だったはずだ。そんな時間に焦点をあてたのが、歌川豊国の見立源氏品定(みたてげんじしなさだめ)である。 絵を見てみよう。格子窓の外には屋形船や荷船が往来していることから、品川や洲崎あたりであると推測できる。8人の人物が登場しており、あるものは足の爪を切り、ある

          絵画で味わう江戸のさかな【遊郭のバックヤード】

          絵画で味わう江戸のさかな【かわいい子には寿司をあげよ】

          子どもは寿司が好きだ。休日にスシローやくら寿司を訪れてみると、寿司に大はしゃぎする子どもをなだめる夫婦の微笑ましい姿がよく見られる。 あまり知られていないが、浮世絵にも親子と寿司をモチーフとしたものがある。それが、歌川国芳の美人画『縞揃女弁慶』(しまぞろいおんなべんけい)である。 絵画上部には上記のとおり狂句が記されており、袖にすがって寿司をねだる子どもの様子が詠まれている。ここに表れる「松か鮓」というのは、江戸の寿司屋を指す。松下氏も紹介しているとおり、この店は握り寿司

          絵画で味わう江戸のさかな【かわいい子には寿司をあげよ】

          絵画で味わう江戸のさかな【蒲焼きと男前】

          連載早々、2回連続で女性が多く登場する絵画を紹介してきた。 今回は、男性のみに焦点をあてた絵画をとりあげる。歌川国芳の「かばやき 沢村訥升」である。訥升は『とっしょう』と読む。 沢村訥升は、歌舞伎役者の名跡を表す。特にこの絵で描かれているのは、五代目 沢村宗十郎の若き日の姿である。そのため、この絵は町の様子をそのまま描いたものではなく、歌舞伎絵の一種である。 絵のモチーフは絵中央「沢村訥升」の左に太く書かれた文字のとおり、鰻屋である。特に2文字目と4文字目が読みづらいか

          絵画で味わう江戸のさかな【蒲焼きと男前】

          サザエさんと魚食の伝統:「大衆魚」の誕生を読んで

          歌詞に見る食卓の情景「お魚くわえたドラ猫追っかけて はだしで駆けてく 陽気なサザエさん」 表記の一節は、日本の国民的アニメ『サザエさん』のオープニングである。誰もが口ずさむことのできるこの曲は、1969年の放映開始当時から使用されていた。東名高速が完成しアポロが月へ行った、高度成長期も終焉を迎えつつある年のことである。 この歌詞からは、当時の食卓における魚の消費のされ方が浮かび上がってくる。主婦が家計をやりくりしながら、日々家族の好みにあわせた旬の食材を鮮魚店で購入する。

          サザエさんと魚食の伝統:「大衆魚」の誕生を読んで

          絵画で味わう江戸のさかな 【錦絵の寿司】

          前回は、三代目歌川豊国が描いた品川松弁新広間祝・鯛の紅焼を取り上げた。 今回紹介したい絵は、同じく豊国が描いた見立源氏はなの宴である。錦絵の中でも珍しい、握りずしを描きこんだものとして知られている。 背景左には桜の花が見事に咲いている。背景右から中央部にかけては二階建ての家屋が配置されており、桜を観る女性や座敷での飲食に興じる男性の姿が各部屋から見て取れる。左側に消失点を置いた遠近法が使われていることがわかる。 手前には遊女たちとともに飲食に興じる男性の姿が描かれている

          絵画で味わう江戸のさかな 【錦絵の寿司】

          絵画で味わう江戸のさかな 【品川で食べる鯛の紅焼】

          新しく連載を始めることにした。テーマは表題のとおり、絵画から江戸の魚を味わおう、というものである。 これまで史料を原典で読みつつ江戸時代の水産物流通について調べ、記事に起こしてきた。これも、もの書きの端くれとして大変勉強になったのだが、文字がずらずら並んでいくだけで味気ないものとなった。 ならば、江戸時代の絵を鑑賞しながら、当時の魚食に想いをはせてみようではないかということで企画したのが今回の連載「絵画で味わう江戸の魚」である。当時の味を想像しながら読んでもらえると嬉しい

          絵画で味わう江戸のさかな 【品川で食べる鯛の紅焼】

          平安時代の魚料理を再現した

          ちはやふるを見て思いました。 「かるたにはあれだけ多くの歌人が出てくるのだから、一人くらい魚好きがいるのでは?」 調べたところ該当者がいました。「あらざらむ...」を詠んだ和泉式部という女性です。歌の名手として知られますが、大変ないわし好きという話も残っています。 猿源氏草子という室町時代の本には、和泉式部がいわしを食べていたところを見つかり、恥ずかしくなって慌てて隠すといわれるシーンがあります(諸説あるものの)。当時いわしは庶民の食べる魚で、高貴な方が口にするのは卑し

          平安時代の魚料理を再現した

          万葉集に詠まれた魚料理を再現してみた

          万葉集に、長意吉麻呂(ながのおきまろ)という方が読んだ鯛の歌があります。 これで「ひしほすに ひるつきかてて たひねがふ われになみえそ なぎのあつもの」と読みます。 (「こんなお吸い物とかじゃあなくってサ、醤酢に蒜いれたやつで鯛が食べたいのヨ」という願望をうたっています) 今回のレシピは「醤酢尓蒜都伎合」のたった七文字です。ひしお(みそ・醤油のご先祖さま)を酢に溶いたものに、ノビル(今回はにんにくで代用)を砕いたものを混ぜて鯛につけ完成です。 これを作った夏の日はもう

          万葉集に詠まれた魚料理を再現してみた

          戦国の魚料理「鯉の陣中漬け」を再現してみた

          日本では、農民から天皇まで色々な方がさまざまな場所で魚を食べてきました。古くは戦国時代、合戦の場においても例外ではありません。 今回は、織田・徳川軍と長篠の戦いで激突した武田軍(甲陽軍鑑で有名ですね)は甲斐国に伝わる陣中食(合戦の際に食べる糧食の一種)、「鯉の陣中漬」を再現してみました。 作り方は簡単です。まず鯉をさばきます。よく揚げた上で、醤油とみりんをベースにしたタレに2, 3日漬けます。引き上げたあと、味噌に1か月ほど漬けて完成です。 (調理の際は保冷をはじめ衛生

          戦国の魚料理「鯉の陣中漬け」を再現してみた

          日本の漁船でStarlinkが使えるようになりそう〜海外事例と国内での活用〜

          日本の領海外でもStarlinkが使えるようになりそう総務省は12月25日、電波法関係審査基準の一部を改正する訓令案を発表しました。訓令案は船舶などに搭載される「非静止衛星通信システム」(Starlinkもこれに含まれます)の無線局について、領海外でも通信できるようにすることが盛り込まれており、2023年12月26日から2024年1月29日まで案に対する意見聴取(パブリックコメント)を実施するそうです。 通信の速さは下りで40〜220+MBPS、上りで8〜25+MBPS、

          日本の漁船でStarlinkが使えるようになりそう〜海外事例と国内での活用〜

          サワラが準絶滅危惧種に指定された件について、IUCNの原文を読んでみた

          サワラが準絶滅危惧種に指定されてしまったサワラ(Scomberomorus niphonius)が準絶滅危惧種に指定されたニュースは既にご存知のとおりかと思いますが、IUCNの原文を自分でちゃんと読んでみたらいろいろと気づきがあったのでシェアします。 ちなみに、IUCNレッドリストにおける準絶滅危惧種(Near Threatened)の定義は、「現時点では満たしていないが、近い将来、深刻な危機・危機・危急のカテゴリーに合致する、あるいはすると考えられる」というステータスです

          サワラが準絶滅危惧種に指定された件について、IUCNの原文を読んでみた