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中小企業淘汰の時代に。

アーツアンドクラフツの創業から10年の間様々な事業を手掛けてきたが、ここ5年間はもっぱらith(イズ)というオーダーメイドのジュエリーブランドの立ち上げから育成に携わっている。

現在ブランドの代表を務めている高橋亜結というジュエリー職人とタッグを組んで、ほとんど何もないところから事業に携わり、今では全国8店舗、約70名ほどの事業体になったが、組織におけるメンバー構成とそれぞれの人材に求められる能力というのは、その成長段階によって変化していくということをリアルに体験してきた。

まだまだこれからの中小企業であるが、ここまでやってきた自分たちの実体験と、同じようにものづくりに取り組む自営の職人さんや工房グループなどや会社から持ちかけられる相談などを踏まえて、中小企業が競争力を磨いて飛躍していくために必要な要件を考えてみたい。

日本は中小企業が多過ぎる

様々なメディアでも話題になっているので目を通した方も多いかと思う。

――日本が低成長とデフレから抜け出せない原因として、人口減少と生産性の低さを挙げています。
経済成長は主に人口と生産性の2つの要因から成ります。日本は90年代から人口が減っているだけでなく、国際的に見た生産性の水準も大きく低下してきました。
日本で「生産性」というと、利益水準や残業時間の話だと捉えられがちですが、生産性とは通常、「国民1人当たりのGDP(国内総生産)」のことです。国際通貨基金(IMF)のデータを基に計算した日本の1人当たりGDPは4万4227ドル(2018年、購買力平価ベース)で世界28位。米国(6万2606ドル)やドイツ(5万2559ドル)を大きく下回り、先進国としては最低水準です。賃金水準も低迷しています。この20年間で先進国の給料は約1.8倍になっているにも関わらず、日本は9%も減っているのです。
一方で、技術力や人材の質では、日本は今も高水準にあります。世界経済フォーラムの人材評価ランキングでは、経済協力開発機構(OECD)加盟国中4位(16年)でしたし、国際競争力ランキングでは世界5位(18年)です。

生産性、そして賃金水準は低下している一方、人材一人一人の評価はいまだに高水準にあるという。

結論を言うと、日本は中小企業が多過ぎるのです。より正確に言うと、小さい企業で働く人の割合が高過ぎて、かつ、大企業で働く人の割合が少な過ぎるのです。これが、生産性に関する様々なデータを分析し続けて達した結論です。

中小企業が多過ぎる(日本の企業の99.7%は中小企業)ということが、生産性の低さの主要因である、という。

下記の図は世界各国の生産性(右軸)と、20人未満の企業に勤める人の割合だが、小さな企業に勤める人が多いほど生産性が低くなっているということを示している。

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――企業規模と生産性の相関性を引き起こす要因は?
最も重要なのは「賃金」です。世界のどの国のデータを見ても、企業規模が大きくなるほど従業員の給料は高くなり、小さな企業ほど低くなります。小さな企業で働く人は、大企業の人と同質・同量の仕事をしても、受け取る賃金、つまり生み出す付加価値が低くなってしまうのです。
企業の規模は、生産性の向上とも密接に関わっています。最先端技術を導入しようとすれば専門知識を持つ人材が必要ですし、海外拠点を持とうとした場合も同じです。研究開発への投資余力も不可欠です。また、人材が豊富にいれば、社員は自分の得意とする仕事に特化して高付加価値を生み出すこともできるようになる。アダム・スミスの時代から指摘されているように、組織が大きくなれば労働分割による専門性の向上が引き起こされるのです。一方で、ギリギリの資本や人材でやりくりしている中小企業には、こうした余力はないのが実情です。

統計的に見ると企業規模と生産性に相関性があるということは疑いようのないことだと思うが、より個別的にみると中小企業の中にも、高い生産性をあげている会社もあれば、そうでない会社もある。

その違いを生み出すものは何か。私なりの実体験から見出した要件が2つある。

1.高いレベルの現場仕事ができるかどうか

そんなの当たり前じゃん、と思われるかもしれないが、これがまず大前提だ。ものをつくる、ものを売る...、事業として継続的に存在していくために絶対に必要になるのが現場、もしくは現場仕事

ここが優れていれば優れているほど高い生産性に繋がりやすい。

例えが良くないかもしれないが、いいピッチャーほど年俸がよい、至極当たり前のことであるが良い会社、となるための大切な条件である。

そして、アトキンソン氏の指摘にもあるが、一般的に日本の企業や人材は、総じてこの現場仕事のレベルが高いように思う。

ちなみに、うちの会社では現場で活躍する人材を「つくる人」と定義している。価値を創る行為はこの「つくる人」にもって生み出される。

2.良質なマネジメントが機能しているかどうか

良質なマネジメント、というのは

企業体としての戦略性を持って、生産性向上のためにスタッフそれぞれの仕事を全体最適化していくことができる仕組みや人材

とでも言おうか。

優秀な人材がいるのに生産性が上がらない、一人一人は真面目に一生懸命やっているのになぜか良い結果につながらない。

こういう状況が生まれる最大の要因が、良質なマネジメントが機能していない、ということだと思っている。

個人事業主や小規模企業の場合、まずは社長がこの役割を担う必要があるが、そもそも社長になるような人は個人として現場に強いタイプだったりする場合が多く自分自身が現場でなんとでもできてしまうため、社員の力を全体最適化して仕組みを作ろうというような意識が薄かったり、そもそも苦手だったりすることも多い。

私たちの主戦場であるジュエリー業界でもこのような会社をたまに見かける。腕のいい職人もいる、仕事も真面目なのに経営は苦しい。けれども何をどうして変えていけばいいのか、具体的にどう動けばいいか袋小路にハマってしまっている企業は少なくない。

右肩上がりの経済状況であれば、とにかく現場さえ回っていればなんとかなったかもしれないが、国内経済規模が縮小、欧米、中国はもとよりアジアやアフリカなどの国々とその企業や人材がメキメキと台頭してくる事業環境のなかでは、明確な目的や目標を定め、優秀な現場を、その目的・目標に向かってきちんと機能させるマネジメント能力がなければ、せっかくの優秀な現場力があっても活かすことができない。

「つくる人」を活かす人材を、私たちは「つなぐ人」と定義している。

大きくくってしまうと経営全般ということになるかもしれないが、その中でもマーケティングやブランディング、ITや生産管理など専門分化していく。

大企業のようにそれぞれの専門家や専門部署を持って、というわけにはいかないから、「つなぐ人材」というのは、外部のリソースをうまく活用しながら現場力を高めるために全体最適を生み出せる人材、ということになる。

日本は、まだまだ楽しくできる

アトキンソン氏は中小企業のあり方や小規模でいたほうがメリットがあるような国の政策に警鐘を鳴らしているが、同時に日本には優れたものづくりや海外からみても魅力的な歴史や伝統など、競争力の源となりうるストロングポイントがあると主張している。

私自身もまさに同意見。年に1-2回海外に出向く機会があるが、様々な面において、あれ日本のほうが全然良くない?と感じることも少なくない。

人口減少は大きなトレンドとして不可避だろうし、それに伴う経済規模の縮小、そして相対的な存在感というのは低下するのは避けられないことかとは思うが、可能性をきちんと見極めて、適切な形で伸ばしていくことができれば、まだまだ日本は魅力的な国になれると信じている。

その鍵を99.7%の中小企業が握っている。

私たちの事業も、ジュエリー職人の高橋を筆頭に優れたと現場人と、もともとコンサル屋、広告屋、IT屋など比較的マネジメントを理解している我々創業メンバーがうまく機能しあうことで、今に至る成長がもたらされたんだろうと思う。

つくる、つなぐ。

そして自ら実践し、そこで得たものを共有していく。

自分たちの取り組みがひとつの指針となり、また社会の役に立てればと思う。

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