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神様のボート

江國香織著。
母と娘が数年前に居なくなってしまったパパである男を探していろんな町を彷徨う話。
この物語は母の視点と娘の視点の繰り返しによって綴られている。
私は母の視点のほうが好きだ。「母」の視点というより「一人のいなくなった男を愛している女」の視点である。
そういや子供を産んだ瞬間に女は母親って生き物になるわけではないのよってだれかが言っていたな。

男が最後に発した言葉、絶対に探し出すから待っていてという言葉。この言葉を女は信じてずっと生活を続けている。
この言葉が発されたときに既にその目的は達成されているのだと女は言っている。この男の人に会うために旅を続けているこの女の行動と矛盾しているように見えるが、私はこれが愛なのだと思う。
本の中の彼女の言葉を借りるなら「過去のことは箱にしまってしまうが決してなくなるということではない」のだ。決していなくなるわけではない。その人に出会った瞬間にそれ以外の生活は「その人がいない生活」になってしまうのであった。ひどい苦しみである。

この小説の最後には救いがある。
救いが欲しいなどとおこがましいことは思わないが、私も次いつ会えるかわからないあの子のことを思い浮かべて日々の生活をもうすこし前向きに続けてみようと思えた。

誰かをを骨が溶けてしまうまで愛したことのある人にぜひ読んでもらいたい一冊。

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