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スーパースパイス、スーマック!

スーパーマン?シュマック?え、シュレック??

皆さんの頭の中がはてなマークでいっぱいになるであろう、この「スーマック(別表記スマック)」。

写真のような赤い粉で、ウルシ科の植物の実を乾燥させ挽いてできるスパイスです。中東で広く使われており、英語ではsumacという表記、アラビア語では summāq [سماق]というそう(アラビア語は私、さっぱりわからないためコピペでござります)。中東に近いここキプロスでも、スーパーなどで簡単に手に入れることができるスパイスです。

このスーマック、レモンのようななんともいえない酸味があるのですが、塩と混ぜるとあら不思議、あの「ゆかり®」にそっくりの味なんです!

「ゆかり®」の原料は赤シソと塩などの調味料なので、要はスーマックは乾燥させた赤シソに風味が似ているってことなんでしょうか(乾燥させた赤シソだけを口にしたことがないので、想像の域を出ないのですが…)。いずれにせよ、シソもゆかり®も手に入らないキプロスの飢えた子羊には、これは願ってもない朗報というわけです。

そして、「ゆかり®なんてすぐその辺で手に入るからね」という日本在住の皆さんにとっての朗報は、ゆかり®のスーマックとの類似点ゆえ、スーマックの中東での使われ方を知れば、ゆかり®を万年冷蔵庫睡眠調味料としての存在から救出できるかも…ということです。なんだか三島屋の回し者のように商品名を繰り返していますが、回し者でも流れ者でもなんでもなく、ただのシソに飢えた子羊です。

「最初はとんでもなく熱く恋焦がれていたの。爽やかで、そこはかとない刺激があって、しょっぱい加減が心地よくて…夢中になってしまったの。でもね、だんだんと刺激のない存在に思えてきてしまって…。ご飯にかけて、おむすびに入れて、キュウリと和えて。この繰り返しなんだもの。あたしがいけないのよ。刺激的で楽しい活用法を考えていないから。マンネリだなんて、怠惰な言い訳よね。妄想を現実に取り入れなきゃ…」

さてさて、ゆかり®と似た中東のスパイス、スーマック。最初の出会いはもう、これはこれは衝撃的でした。こんな出会いがあるなんて思ってもみない場所でのことでしたから…。

レバノンのとある山間部(ハリッサ)の村でのこと。修道院を訪れた後、近くの小食堂でレバノン風のピザとやらを頼みました。ガイドさんのおススメでしたけど、薄いパン生地にハーブミックスが載っているだけの地味で質素な見た目のもの。「何がそんなにおススメなのかね」と半信半疑で口にしたのですが…。次に出た言葉は、自分でも全く予想外の言葉でした。

「やーっばい、なにこれ!おいしい!なんだこれ、酸味がある!」

その後に浮かんできた思いも、予想だにしないもので。

「え、これ、なにかに味が似てる。なにこれ、なにこれ。あ、ゆかり®じゃない?ねえ、ゆかり®に似てるよね!ほら、シソのふりかけみたいなやつ」

猛烈に込み上げる「共感したい気持ち」をギリギリのところで抑えつつ、ゆかり®のことを知らない(知っていても特に強い関心のない)イギリス人旦那に日本語で話すことで、外国の地で得た高揚感を多少なりとも消化したくて必死でした。

ガイドさんは、おススメとは言ってみたものの、我々が食堂で実際に注文してくるとは思わなかったようで、車で合流したところ、「これ食べてみて」と例のピザを勧めてきました。「うわー、うれしい」とか何とか言って、いただいちゃえばよかったのかもしれないのですが、旦那も私もそういう即興演技ができるタイプでなく、正直に「先ほど食堂で食べまして、ええ。そりゃあもう、最高でしたよ」とお伝えしました。するとガイドさん、めっちゃうれしそう。「そうでしょ、そうでしょ。とってもおススメなの。残念、もう食べちゃったのね、じゃあ、これは私の夕飯にしましょ」で、ですよね…夕飯に取っておきますよね…。持ってけと強引に勧めないということは、ガイドさんにとっても大好物なのに違いない。なんということでしょう。

レバノン風ピザにまぶしてあったハーブミックス。これはザータル(あるいはザアタル。英語表記Za'atar。アラビア語でزَعْتَر)と呼ばれているもので、よくある調合は、タイム、スーマック、炒りゴマ、塩がミックスされているものです。‎他にオレガノが入っているものもあれば、マジョラムが入っているもの、タイムも含め前述のハーブ全てが入ったものもあり、好きなようにアレンジができるようです。

用途としては、上記のピザのようにパン生地にオリーブオイルとあわせて塗る他、ドレッシングに、肉・野菜のグリルの調味料に、あるいはひと味違った米料理(ピラフや米サラダ)を楽しみたいときの魔法のスパイスとして…などなどなんでもこい!です。中東ではその他にも、ひよこ豆のペースト「フムス」の上にふりかけたり、水切りヨーグルトからできたクリームチーズの上にトッピングしたりして、日常的に使われているようです。

ザータルを使った私の最新ヒットレシピは、じゃじゃーん、「新じゃがのザータルまぶしロースト」です。ザータルとオリーブオイルをたっぷりかけて、オーブンで焼くだけの簡単レシピ。オーブンがない場合、フライパンで焼いたり、揚げ焼きにするような形でもいけると思います。そしてこれ、スーマックの代わりに、ゆかり®を使ったら日本でも簡単にできると思うんです。乾燥タイム、ゆかり®、炒りゴマをすり鉢でまぜまぜし、日本風ザータルの完成。これと油を新じゃが(ふつうのジャガイモでも)にこすりつけて焼くって訳です。こりゃぁ間違いねぇ。

スーマック単品での用途でよく知られているのは、中東の代表的サラダ、ファトゥーシュ(英語表記Fattoush。アラビア語でفتوش)。酸味があって爽やかなドレッシングに、トッピングのクリスピーな揚げピタパンとしゃきしゃきの野菜との食感が繰り広げるオーケストラ。もうなんともいえず、クセになる味なのです。このサラダのドレッシング、あるいは揚げピタパンの味付けに、スーマックが一役買っています。ということは…もうお分かりでしょう?そうです!酸味のあるドレッシング作りに、ゆかり®が使えるんではないでしょうか。いつものサラダのドレッシングにゆかり®ちゃんをプラス、さらにサラダの具材としてカブやミント、パセリなんかを加えれば、中東風サラダの出来上がりでございます。

スーマックはなんでもビタミンCやポリフェノールなどの抗酸化物質を多く含み、高い抗酸化力を誇るとか。赤シソにも各種ビタミンの他、シソニンと呼ばれるポリフェノールが含まれており、風味の共通性だけでなく、スーパースパイス・ハーブとしての高いポテンシャルにも類似点がありそうです。両者とも薬効があるとして民間療法などに取り入れられてきた歴史は、さもありなん。現代人も美味しい料理に飲料に取り入れて、効能をありがたく享受しない手はありません。

海外では(特にキプロスのような離島の地のような外国では)、日本の食材に想いを馳せる日々が続きます。住みたてほやほやの頃は特にそう。あれがあったらこれが作れるのにな、早く友だちよ遊びに来い。郵便で食材を受け取れないこともないようなのですが、やはりそれなりにコストも時間もかかりますし、シソなどの生鮮食品はもちろん送ってもらうことができません。そんななかで、スーマックのような思いがけない食材との出合いは、まるで山のなかで最高のお刺身をいただいちゃったときのような、「え、うそ、こんなことってあるの?!」という幸せな気持ちをもたらすのです。

スーマック、ザータル、ゆかり®。三者が三様にいろんな家庭の食卓で活躍されんことを願って。いや、だから回し者じゃなくて、飢えた子羊ですってば。ではでは、ごきげんよう~。

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