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わたしのこと。 #4 なぜカメラを買おうと思ったのかというはなし。

好きな演出家は?と聞かれて、必ず答えるひとが1人だけいる。ジャムセッションの西沢栄治というひとだ。かれこれもう10年以上は言い続けている。
今でこそ頻度はかなり減っているが、わたしはキャリアの中で一番多くの時間を舞台に費やしてきた。たまたま入った事務所が舞台の制作もやっていたからで、入所当初やっていたレッスンも舞台向けのものだった。稽古も含めると1年の3分の1から半分くらいは関わっていた時代もある。
西沢さんと出逢い、わたしは演劇が大好きになった。板の上で生きる喜びを感じた。
彼の演出方法は独特で、口で説明するのが難しいが、あえて表現するなら、「アトラクションのよう」である。
最初から最後まで、乗り物に乗っているようなのだ。稽古をしながら何度も感動してしまう場面があり、鳥肌が立ってしまう。
彼は遊びやゲームのなかからシーンを作っていくのがとても上手い。セリフ、というよりベクトルを整理するイメージなのだろう。稽古をはじめる前にいろんなゲームをする。ことばを投げたり、身体を使ったり、リズムだったり、様々だ。
たとえば、10円玉を手の甲に乗せて、相手の10円を落としたら勝ち、というゲームをする。それ自体は意味もないし難しいものではないが、全員が本気でやると人数もいるので、駆け引きやスピード、360度周囲を見る力など結構なエネルギーを使う。とても演劇的だ。そのうちに、人が間引かれていく。だんだんと人が減り、わたしともう1人ある俳優が残される。1対1だ。ただ遊んでいるわけでもないので、途中から何か意図があるのだな?とゲームをしながらも探る。
すると、ポーンと、あるシーンのひとことめのセリフが飛んでくる。なるほど!この状態であのシーンをやるのか!
シェイクスピアの愛の駆け引きのシーンである。
シェイクスピアの劇はセリフが長いので、喋る方も聞く方も、長い球を投げ、受け取らなくてはならない。その間、身体が止まらないようにするためのワークに切り替わったのだ。
何しろゲームもしながらだからとても難しい。が、攻めるセリフの時は自然と押せ押せになり、ひるがえしたり、逃げたり、離れたり、色々なことになる。
足を止めないよ!止まらない止まらない!相手の10円取るよ!ヒソヒソ声でやってみて!こんどはオーバーにいくよ!などと声が飛んでくる。身体はことばに反応しながら、空間をいっぱいに使ってやり取りする。途中どういう訳か、発する言葉と動きが真逆になっていたりして笑いが起こったりもする。なんだこれ。ふぅ。
それが終わると10円玉をしまい、おなじことをやってみる。そして小休憩。今のことを踏まえて考えろ、ということだ。休憩がおわるともう次のシーンである。宿題!
ひとのシーンを見ていても、うわぁ…そんな風になっていくのか…と唸ってしまう。
はい、はじめ!などといってはじまることはほとんどない。休憩終わりになにか違うことをやっているようで、いつのまにかシーンに突入していることがほとんどだ。あ、始まってる!と気づいた瞬間スッとピットインする。だから乗り物のようで、アトラクションのようなのである。毎度ゾクっとする。戦士たちの顔はカッコいい。
こんな風に過ごす毎日は、とても充たされていて、美しく、幸せしかない。たとえ良くできなくて、悩んでいても、だ。
稽古が進むにつれ、うねりは大きくなり、エネルギーの塊になる。彼が演出する舞台はいつもそんな感じだ。


そのなかでもひときわ幸せだった期間があった。2015年俳優座劇場で「四谷怪談」をやった時だ。
怪談という暗いイメージをぶち破り、誰かを一途に想う気持ちに溢れた青春劇だった。わたしはお岩の恋敵、お梅という役をやった。お岩と伊右衛門はすでに夫婦。叶わぬ恋なら自害してやる!とナイフを取り出し皆に止められるのだが、止められても止められても、次から次へと胸元からナイフが出てくるので、3本目でさすがにクスクス笑いがきて、4本目で毎回爆笑だった。
おじいちゃんから乳母まで一家総出、物凄い圧で結婚を迫りつつ、分が悪くなるといつの間にかまたナイフを握って構えている、狂った一途ちゃんだった。ちなみに台本では1本だったが(というかそんな但し書きはない)、いっぱい出てきたら面白いかもと思って100均でバターナイフを買い占め持っていき、何本出せるかやってみたら、ここも出せる、ここも出せるな!となって、最終的に4本出せた。江戸口調のセリフは変えていない。伊右衛門はとうとう根負けし、お岩から奪ってしまった。ごめん。

胸元に何本もナイフを仕込んでいる。死ぬ気満々。
衿元に仕込んでも
スッと順番に取り出しやすいようにポケットを細工した。
元はバターナイフです。
花嫁衣装。
せっかく夢が叶ったのに、婚礼の日にお岩が乗り移っちゃって、うわぁぁ!となった伊右衛門にすぐ斬られちゃうの、悲しい。

いま振り返っても、本当に楽しかった。初日が終わってホッとしている時に、感動した演出家自身が、目に一杯涙をためて楽屋まで駆け込んできたのも忘れられない。すべてが愛おしい芝居だった。
そしてだ。
千穐楽も無事終わり、楽しかった打ち上げもお開きになって帰宅し、深い満足感のなか泥のように眠って…
翌日起きたら、もうダメだった。ぜんぜんダメ。
襲ってきたのだ、とてつもない孤独が。
きのうまであんなに夢のように楽しく、毎日会っていたみんながもういない。劇場にも行かない。もうあの体験がない。毎回芝居が終わると寂しくなるのだが、ちょっとそんなレベルではなかった。走っていた道が突然スコーンとなくなって、空中に放り出されたようだ。

まずい、これはまずいぞ。

今回ばかりはとても社会復帰できる気がしない。
これは何か新しいことをはじめるくらいの事をしないと、到底無理だ…
ぼんやりとした頭で「なにか」を探した。紛らわせるための「なにか」を。
そしてふと、誰かに言われた言葉を思い出した。

「写真、やったらいいのに。センスあると思うよ。」

どこかの回でも書いたが、わたしはブログを書いたりするのが好きで、携帯で写真を撮るのも大好きだった。アプリを駆使して結構上手に撮っていた方だと思う。すでに何人かに写真を勧められていたりもした。
でも仕事柄、専門家がたくさんいる分野に、自分が今から手を出してみようというアイデアがなかった。

そうか…カメラかぁ…アリかもなぁ。
こんど電気屋さんにでも行ってみようかなぁ…
もうすぐ誕生日だし…

正解はわからないけれど、わたしはなんとなく意識してカメラを見だした。
2015年、秋のことである。

やっとみなさんお待ちかね!カメラの文字が出てきました!最初のカメラを買うまで、もう時間の問題…!


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