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A Cool History of the Word that Conquered the World

 10月に入ったがまだ最高気温が30度を超える日がある。外を歩くと汗で背中が濡れる。しかし、室内に入るとそこは別世界。極寒である。カーディガンやパーカーなど羽織るものを持ち歩くようにしているが、ノースリーブで頑張っている人もいる。
 今日も教室が寒くなってきたと思い、リュックからカーディガンを取り出して袖を通した。教室を見渡すと同じく寒そうにしている人がいる。歯がをガタガタ鳴らして凍えている。羽織るものはないようだ。"It's cold. I'm freezing."(寒くて凍っちゃいそう。)
 室内外の寒暖差が激しいと、風邪もひきやすいのだろう。学期が始まって一ヶ月ほどたって疲れも見え始めた頃だ。体調を崩す人が出てきた。"I have a slight fever. I have a temperature of 99 degrees, and my throat hurts" (微熱がある。熱は37℃少しで喉も痛い)というテクストメッセージを受け取った。"It's a slight cold"(軽い風邪だよ)と返した。"I might be too cold"(ちょっと冷たすぎたかもしれない)。
 coldと同じように温度が低いことを表す形容詞にcoolがある。二つの単語にはどのような違いがあるのだろう。面白いのは、coldは基本的にネガティブな状態を表すのに対し、coolはポジティブな意味にも使われることだ。顕著なのはこれらの形容詞が人を形容するために使われる場合だろう。"The professor is cold to students"(あの先生は生徒に冷たい)と"The professor looks cool"(あの先生素敵)では全然違う。
 この二つの単語は語源を同じくする(『ランダムハウス英和辞典』)。どちらも古い単語で古英語の時期から用例がある。coldの最も古い意味は、大気や気象条件が熱を欠いていて冷たいという意味だ。対してcoolは「温度が比較的低い」ことを表す形容詞としての用法が最も古いが、当初から「熱heatあるいはcold冷たさとは違い」極端さを免れていて「心地よい、あるいは爽快な」という含意があった(『オクスフォード英語辞典』)。出発点からこの二つの単語が表す冷たさには違いがあったのだ。
  coolは当初からポジティブなコノテーションを持っていたようだが、人や物について「素敵」や「いかしている」といった意味で使われるようになったのは比較的最近だ。 Online Etymology Dictionaryによれば、1933年までにアフリカンアメリカン口語英語でこの言葉が"fashionable"(流行の)というで使われ始めた。
 現在では広く承認を表す意味でも使われている。日常生活でもよく耳にする。先日もルームメイトに、"Do you think it's cool to put pans and pots into the cupboard?"(フライパンと鍋を棚にしまわない?)と聞かれた。ビールを飲みすぎて倒れそうになったフットボールの試合の帰りのバスでもcoolを耳にした。試合終了直後、家路に着く人で道路は大渋滞。少しでも早く帰ろうと無理な車線を変更して割り込んでくる車も多い。それに対してバスの運転手が、"That's not cool! That's rude. That's just not nice"(ダメだよ!失礼な。よくないね)と言っていた。
 同じくOnline Etymology Dictionaryによれば、この用法は1940年代後半までに広まったそうだ。サクソフォン奏者レスター・ヤングを中心としたジャズミュージシャンたちが流行らせた言葉だという説も紹介されている。
 いまでは日本語でも「クール」という言葉が定着している。フランス語のドラマを見ていてもC'est cool(いいね)という表現を頻繁に耳にする。中国語でも「酷」と書いて英語と同じように発音するそうだ。アフリカンアメリカン口語英語に端を発し、ジャズ奏者コミュニティによって広められた単語が世界中で使われるようになった。coolの意味の変遷は、a cool history of the word that conquered the world(世界を席巻した単語の素晴らしい歴史)を見せてくれる。

フットボールの試合の帰り道、渋滞に巻き込まれた。It's not cool to get caught in a traffic jam(渋滞に巻き込まれるのはやなもんです)


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