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【みみ #17】障害当事者の看護師がつくるコミュニティ

高野 恵利那さん


 高野さんは、看護師のお仕事の傍ら、リアルではなく、インターネット上の仮想空間であるメタバース上に、聴覚障害者のコミュニティ『みみトモ。ランド』を創設し運営している。メタバースは、自身のキャラクターを表すアバターとして参加するため匿名性を保てる上に、仮想空間であるため時間と場所関係なく世界中の人とリアルタイムでつながることができる利点がある。

 紹介サイトには、こう書かれている。「欲しい情報が手に入り、息抜きになり友達ができる。前向きに生きるためのエネルギーチャージができる場所。」高野さん自身が小さい頃から、そんな場所を求め続けていたのかもしれない。


 高野さんは、幼稚園の年長のときに、中耳炎から両耳難聴になった。「その時から、“コミュニケーションとは何か”という人生の課題が始まりました」。難聴の程度は軽度から中度だが、学校の図書館で周囲の声が小さくなれば「ほぼ無音」。高野さんの場合は高音が聞きづらいため、「(友達の多くである)女性の声が早口だったり声が通らないと、何度も聞き返してしまう」。

 「相手が話していることが全部聞き取れない中で、相手にどういう風に話せば興味を持ってくれるかがわからなかった」。小学校時代に友達ができず、4年生の頃に友達の親御さんのお葬式に参列して「自分のお葬式には誰も来てくれないだろうな」と子供心に思った。6年生の頃に勇気を出して周囲に話しかけても「会話は成立しなかった」。新しい学校で「中学デビューしよう」と頑張ったがうまくいかず、逆にいじめにあった。3年生でやっと友達ができた。でも、「集団でのコミュニケーションの壁があり、愛想笑いばかりになった」。ずっとずっと「孤独感でいっぱい」だった。


 「将来、自分のような障害を抱えている人を手助けしたかった」から、現在の看護師を目指した。聴覚障害はうつ病発症リスクが高いと言われ、男性で3倍以上、女性で約2倍という研究結果もある。高野さんは、「小中学校時代は精神的にきつかった、それでもやってこれたのは、親のおかげと自身の負けず嫌い。でも耐えられない人も多いはずで、背中を押せれば。」と考え、大学で看護を学んだ後、現在の精神科で勤務するまでにも、障害を抱えかねない赤ちゃんもいる新生児回復室にも勤めて親御さんへの心のケアの重要性も学ぶなど、キャリアを積んだ。

 こうした病院勤務の傍らで、「患者さんは退院してからの人生の方が長い」ことが、高野さんの頭をもたげるようになる。病院の外でも障害のある方を支えるコミュニティやサービスが必要、それを自身の聴覚障害を梃子に立ち上げる。そんな想いが、冒頭でご紹介したメタバース上のコミュニティ『みみトモ。ランド』に育っていった。


 そのミッションは、「メタバースからリアルを快適に」。

 現在は右が中等度、左が高度まで聴力が低下した高野さんが直面するリアルは、こうだ。日本では、身体障害者手帳が交付されるのは、両耳高度難聴以上だ。手帳がなければ補聴器の購入費の助成が受けられない。高野さんは現在、両耳30万円以上の補聴器を全額自費で購入しており、補聴器は5年に1回は買い替える必要があるとも言われる。就職活動をすれば、聞こえにくいことがネックで採用されない一方で、障害者雇用のエージェントを頼れば「手帳がないとダメ」と言われてしまう。ろう学校(特別支援学校)に通っているわけではないため、同じ障害のある友人やコミュニティを持たず、情報収集できる場所もない。

 高野さんは、こうした「(障害者)手帳をもたない、障害のある多くの人」のリアルを快適にしていきたい。


 『みみトモ。ランド』を立ち上げる仲間は、SNS経由やそれを通じた紹介で一人ずつ増えていった。企業協賛を得てリアルイベントも開催した。今度は、人工聴覚情報学会が主催する『難聴万博2024』でも協働する。これからも、補聴器メーカーはもちろん、その他の業種の企業や行政など、認知度向上に向けて多くの協業を進めたい。

 「巻き込むパワーがすごいですね」と高野さんに投げかけると、「もともと聞こえていたら外交的だったはずなんです。置かれた“環境”は影響するなって」と返ってきた。この活動を進める中で、同じ障害に取り組む人たちとの“環境”ができる中で「普通じゃないからダメなのではないと気付いて、自己肯定感が上がった。だから、巻き込んでいけた」。


 「最終的には営利団体にしたい」と力強く話された。ボランティアではなく稼げて持続的なものにしたいから。でも、そこまでに課題も多い。意義に共感する以上に資金を得る営業や、企業協賛を得ても会計処理やフィードバックを通じた継続的な関係構築など、経営の基本的な知識や体制があるわけでもない中で、「(看護師の傍らで)隙間時間も取れず、不安も多い」と吐露された。それをお聞きした日、高野さんは夜勤明けだった。

 ここに、自分自身が社会課題に直面し、そしてそれを解決しようと挑戦する“理想的な起業家”の卵がいる。それを実際の起業に向けて導けるか、それもまた社会の“環境”次第だろう。高野さんや仲間の方々の挑戦の実現に向けて、ご協力いただける方々は是非ご連絡ください。私たちも応援していきます。


【参考】みみトモ。ランドさんは活動資金も募集されています。
    https://e7e1s2c.memberpay.jp/plan/item/97vzyug



▷ みみトモ。ランド




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