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【め #12】ストⅡで視覚障害者が健常者に勝利

水本 剛志さん(後編)


前編から続く)


 「本来であればどんな製品も“障害の有無に関わらず利用しやすく”あってほしいが、一部配慮してはいても、本来の意味でユニバーサルデザインではない製品も多い」と話された水本さんから、少し事例を話してもらった。例えば、ある日本の大手電機メーカーA社の製品は音声読み上げ機能を搭載するも精度が十分ではなかったり、逆に同B社は読み上げ精度は良くても操作そのものが複雑になってしまったり、さらに同C社はそもそもそうした機能を持つ製品の開発から撤退してしまったそうだ。

 どの社にも事情があることは言うまでもなく、完璧な製品をつくることは大変であることは百も承知。でも、誤解を恐れず言えば、水本さんは「開発者のやる気」に期待をされた。


 その例として出されたのが、無料音楽再生ソフト『聞々ハヤえもん』。もともと視覚障害者のために開発されたアプリではなかったが、『VoiceOver』機能を使って利用するユーザーの存在を知るや、開発者の方が常に『VoiceOver』対応を意識されている。

 同様の例は、ゲームの世界にもあると教えてくれた。その年代の男子であれば誰もが一度はやったことがあるであろう、カプコン社の対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター』。今年、格闘ゲームの世界的な祭典『EVO2023』の予選で、盲目のプレーヤーが晴眼者に勝利するニュースが話題をさらった。ゲームに、対戦相手との距離を音で知らせるなど様々な「サウンドアクセシビリティ」が実装されてきた結果だった。

 水本さんが「開発者のやる気」と表現したのは、即ち開発者が視覚障害のあるユーザーの声をくみ取れるかどうかではないか。前述の無料音楽再生ソフト『聞々ハヤえもん』は、『VoiceOver』機能を使って利用するユーザーからのtwitter(当時)での連絡がきっかけだった。同様に、対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター』についてもイギリスのユーザーからの手紙をきっかけに、バリアフリーeスポーツを推進するePARA社の障害当事者と協力してアクセシビリティの実装を進めたと記事で知った。


 水本さんに、妄想でもいいのでと前置きした上で、テクノロジーに実現してほしい未来について聞いてみた。

 「漫画を読んでみたい。パッと手に取って、パット読んで、パット情報を手に入れてみたい」。前述したゲームの世界ではそれができたのではないか。他のエンターテインメント業界でもきっとチャレンジできるはずだ。

 「行ったことがないところに一人で行くことがものすごくストレス。だから足の赴くままに散歩するなんてしてみたい」。現在、全盲の浅川智恵子さんが館長を務める日本科学未来館が「AIスーツケース」という取組を進めている。視覚障害者を目的地まで自動で誘導するスーツケース型のロボットで、様々な場所で実証実験が行われている。こうした取組に「衝突検知や自動運転の技術をもつ自動車メーカーも参画してくれたらもっと開発が進むのではないか」と水本さんは思う。


 こうお話しして、何より水本さんの情報感度の高さに驚かされた。情報入手は「ネットか、XやInstagramなどのSNS」だそうで、その発言からもデジタル化やテクノロジーが視覚障害者にもたらした恩恵を感じることができる。特に、Xでは『見えなくても使えるiPhone』や、YouTubeでは『Accessibility Stream』から数多くの情報を得て自身のアクセシビリティを改善していると教えてくれた。


 水本さんのお話をお聞きして、障害のある当事者の声が開発者に届き、共に新しい製品や改善が生み出され、それが障害の有無を問わないユニバーサルな世界を実現し、それが当事者の耳に届いてまた新しい声が生まれるサイクルを感じた。そんなサイクルに、弊社が取り組む『Inclusive Hub』も少しでも貢献していきたい。



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