見出し画像

アーティストとの関わり方 −レコード会社とプロダクションの違い− / 対談 with 黒岩利之 # 1

平良 真人( @TylerMasato ) の対談シリーズ。
今回のお相手はスマイルカンパニーの代表取締役社長の黒岩利之さん。

画像2

黒岩利之(くろいわとしゆき)
ソニーミュージック・エンタテインメントに入社後 デフスターレコーズ の立ち上げに参加。
2003年以降はワーナーミュージック・ジャパンの宣伝部長として活躍。
2017年 株式会社スマイルカンパニーの代表取締役社長に就任。

立派な大学を出た人にアーティストをやらせて良いのか
〜マネジメントの覚悟〜

平良真人(以下、平良):まずは黒岩さんのキャリアをお伺い出来ればと思うのですが…

黒岩利之氏(以下、黒岩氏):
大学卒業後ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社しました。
入社後は様々な部署を一通り経験した後にデフスターレコーズの宣伝チーフとして、平井堅やCHEMISTRYなど当時のJ-POPシーンを賑わすアーティストの担当を何年か務めました。
その後、34 歳の時にデフスターレコーズの代表である吉田敬さんがワーナーミュージック・ジャパンの代表取締役社長にスカウトされたタイミングで、僕も一緒に移籍し、ワーナーミュージックで突然の宣伝部長になりました。

平良:それまではマネジメント経験がなかったのですか?

黒岩氏:
そうなんです。そこで初めて部下をマネジメントする経験をしました。
部下と言っても自分より年上の方が多い環境だったので沢山勉強させていただきつつ、様々なアーティストに関わりました。
その中で、1 番キャリアがあってレジェンドクラスのアーティストである山下達郎さん・竹内まりやさんの制作宣伝担当に任命され、宣伝部長と兼務で一緒にお仕事をしていくうちに、ご本人達から信頼を得て、その後ご縁もありお 2 人のマネジメント会社でもあるスマイルカンパニーの社長に就任した形です。

平良:マネジメント会社に移る決断をした理由はなにが1番大きかったですか?

黒岩氏:
時代の変化を実感しているタイミングで、アーティストが何年も魂を込めて作った 3,000 円のアルバムよりも Tシャツが売れるような状態を目の当たりにし、レコード会社でできることを考え直していた時期だったんですね。ちょうど僕もパッケージ以外のビジネスも担当していたので、実践の場に移せる良い機会だなと思いました。

平良:実際、マネジメント会社の代表になられてレコード会社との違いはありますか?

黒岩氏:
レコード会社は音楽を売るために存在しているのでアーティストの人生に責任を取る程の重圧は無く、どちらかと言うと1を10にするビジネスモデルなのですが、マネジメント会社は10年単位で育てる覚悟が必要なんですよね。
例えば、立派な大学を出た人にアーティストをやらせて良いのかとか、人生に対して責任を伴うので、やはり覚悟が違う気がしますね。

平良:考え方だけでなく売り方にも違いは出てきますか?

黒岩氏:
そうですね。レコード会社はいくつかある選択肢の中からプライオリティを決めて売り出すやり方で、グロスで売上を追っているので売れたアーティストの利益を原資に新人に投資するようなダイナミックさがあります。
一方でプロダクションの場合は、所属しているアーティストそれぞれが生きていける状態にしなければいけないので、売り上げが大きい小さいだけではなく、アーティスト毎にクリアしていかなければいけない目標や利益があって、堅実に足元を見ながら 0 から 1 の育成を進めていく形になりますね。

例えば、fanicon を始めた ELISA に関しても、彼女が今やるべきことを実施した上でビジネスとして成立させ、彼女自身も食べていけるようにしないといけない。そこに試行錯誤が必要で、今は fanicon がその突破口になるんじゃないかなと勝手に期待しているところでもあります。

平良:ありがとうございます。
レコード会社よりもプロダクションの方がより 1 人 1 人の決断が重くなるんですね。

画像2

10年後の未来が見えない人とは契約しない

黒岩氏:
レコード会社は契約期間があるので相性が合わなければお互いに契約を切ることも可能ですし移籍なども考えられます。でも我々にとっては解約や移籍は長年育ててきたアーティストの数を減らすことにもなり、その人の人生にとっても大きな問題になる。そう言う意味でも契約に慎重な判断が必要になります。

平良:その慎重な判断をする上でどんな点を大事にしているのですか?

黒岩氏:
1 番大事なのは 10 年以上一緒に歩めるかどうかですね。
レコード会社の時は売れそうだからやってみようみたいな判断ができたのですが、やっぱり所属アーティストとなると、目先の売れる売れないよりも、長い目で見て活動できるかはとても大事な判断基準になります。
例えばチャンネル登録者数の多い YouTuber で少し頑張れば武道館も埋められそうなアーティストがいたとしても、これから先の 10 年間を考えた時に業界の中で立ち位置を獲得できるかが見えない場合はやっぱり契約することが無責任に感じてはしまいますね。

平良:スマイルカンパニーとして 10 年一緒にやってみたいアーティストはどんな人ですか?

黒岩氏:
スマイルカンパニーの社風を考えると、まずシンガーソングライターであることはとても重要なファクターだと思っています。ヒットポテンシャルの高い楽曲を作り続けられるスキルがあるかは大事にしている点ですね。
次にボーカリストとしては声質。歌が上手い下手よりも声に魅力があるかどうかかなと思っています。歌の上手い下手は機械でなんとでもできる時代でも声質はその人にしか持っていないものなのですごく気になりますね。
そこに付け加えるとすると、表現の場としてのライブがエモーショナルかどうかも見ています。
小さなライブハウスの 10 分のステージの中にその人の生き様や表現欲求などの衝動が垣間見えるかがその先の 10 年に繋がっていく気がするんですよね。

ただそれらは主観的な部分もあるので僕だけの感性で決めるというよりは、スタッフの中にこのアーティストと心中します!と言える人が出てくることも大事かなと思っています。

平良:なるほど。所属契約は社員さんの合議制で決まるものなのか、誰か 1 人の意志が尊重されるのか、どのように責任が生まれているのか気になります。

黒岩氏:
相対的よりは各マネージャーの熱量を大事にしています。僕自身は良い音楽や売れる音楽を見分けるよりも制作側でどう売るかを考えてきた人間なので、現場のマネージャーの音を聴く能力の高い人の意見を参考にしています。信頼したスタッフの熱意をやっぱり重要視していますね。

平良:そうなると一緒に働かれてるメンバーの方々が、先程の契約の際に大事な 3 つのポイントをしっかり認識されているってことですよね?

黒岩氏:
特にカルチャーを押し付けているわけではないんですけど、みんな基本的な感覚として持っていますね。

つづく


< 関連記事 >
アーティストマネジメントの組織と計画設定 黒岩利之 対談 # 2
ファンとの向き合い方と温度         黒岩利之 対談 # 3
fanicon は、アーティストやタレント、インスタグラマー・ユーチューバーなどのインフルエンサー( アイコン)の活動を、コアなファン( コアファン )と一緒に盛り上げていく会員制のファンコミュニティ アプリです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?