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[15min.#03]90年代の東京オルタナバンドシーンについて15分話す/大久保潤

第3回目は、15分の参加者募集をした時に手を挙げてくれた、編集者でライターでバンドマンの 大久保潤(junne)さん。テキストサイト時代から「NOIZ NOIZ NOIZ」の人としてお名前は知っていたし、クラブやzine界隈などいくつもの繋がりがあるのに、ゆっくりとお話する機会が意外に少なかった不思議な間柄。これぞ15分でやりたかったことだわ〜とほくほくしてごはんを食べてきました。
いくつかのテーマ候補をお願いして希望を聞きつつつお店に集合したら、それらを受けた上での新テーマを提案してもらってまたほくほく。“90年代のオルタナバンドシーン”についてあれこれ聞けたことで、名前だけ知っていたバンドのつながりやジャンルの流れが見えてきて本当に面白かったです。そして持って来てもらったたくさんのzine/ミニコミに、紙ものはやっぱり情報として重要だと再確認。15分にはどう考えても納まらないお話だったので、ごはん中の話は別でまとめようかと思っています。お店は界隈で噂のビリヤニ居酒屋、ドバイビリヤニでした。
※このシリーズを始めた理由はこちらからどうぞ。

大久保:前に呑んだ時、90年代の関西テクノシーンの話をしてましたよね。同世代だしわかる部分もあるんだけど、ぼくが通ってきたバンドシーンとは随分違うなって思ったんです。去年ゲンロンカフェであった、ばるぼらさんと野中モモさんのテクノ系zineイベント(『日本のZINEについて知ってることすべて』発売記念)にも行ったけど、zineはたくさん買っていたのにライブハウス派というかオルタナ好きのぼくは知らないzineばかりだったしね。そういう、微妙に違ってる部分に面白さがある気がしたから、今日は「90年代東京のバンドシーン」の話をしようと思って来ました。

-- いいですね! そっち系についてあまり知らないのでぜひお願いします。
そもそも、その辺の音楽を聞き始めたきっかけはなんだったんですか?

大久保:大学1年でライブハウス通いを始めたのが最初ですね。今も特に好きなボアダムスと少年ナイフはぼくが高校生の頃メジャーデビューしたんだけど、CDを聞いてこれはすごいと思ってたら、界隈のバンドが毎月のように東京でライブをやるようになったんです。1993年頃に見に行くようになって、そのまま25年経った今でも同じことを続けている感じ(笑)。

-- それは筋金入りだなあ。では最初に衝撃を受けたバンドというとボアダムス?

大久保:見たのが後か先かで言うと、少年ナイフの方が若干先だったかも。でもどっちにしろ、見始めたのが1993年だからインディー時代からのファンに比べたら遅いほうですね。ボアもゴッドママのいた頃は見てないから。

-- たぶん、その頃が関西のオルタナバンドを東京でも見られるようになった最初期なんでしょうね。

大久保:そうそう。その辺のバンドは「異形の王国」ってイベントにすごく出てたんです。初代オーガナイザーの高瀬さんという男性と、お手伝いからのちにイベントを引き継ぐ森實(仁美)さんという方が運営してて、EYEさんやヨシミさん、山本(精一)さんなどボアのメンバーが新ユニットをつくるといちはやく東京に呼んでくれたり。イベント自体は高円寺20000Vや下北沢シェルターとか、都内のいろんなライブハウスを転々とする形でかなり長い間続いてたなあ。ぼくが小さいライブハウスに通い出すきっかけになったのもたしか「異形」で、想い出波止場とメルトバナナが出てたと思います。

-- なるほど。当時の東京オルタナ界ではこの「異形の王国」がすごく重要なイベントだったと。

大久保:ですね。あとは「FREE FORM FREAKOUT」。のちにレコード会社に入って日本のオルタナ系バンドをリリースするようになる小林(弘幸)さんが主宰で、サーファーズオブロマンチカあたりがよく出ていたかな。ちなみにこのイベントは、小林さんを手伝っていた飯島くんという人が引き継ぐんだけど、彼は90年代後半になるとガバやハードコアのDJになって恵比寿みるくでMURDER HOUSEというパーティを始めるんです。近年のRAW LIFEみたいにクラブDJとハードコアのバンドが一緒に出るパーティの先駆けだったんじゃないかな。メルトバナナとガバDJって組み合わせもあったし。

-- その組み合わせ、ものすごく恵比寿みるくを思い出させる感じですよね。わたしもKIRIHITOあたりはそういうパーティ経由で名前を知った気がします。DJの名前で興味を持って調べたら一緒に名前が並んでいたっていう。

大久保:確かにKIRIHITOは踊れますから。彼らもそうだけど、テクノが出てきた直後くらいから、バンドでも人力テクノって感じの踊れるところが急に増えてきたんですよ。

-- EYEさんもサイケテクノのDJをやっていたくらいだから、この頃はバンドからテクノに流れた人も多そうですね。

大久保:そうそうそう。ただボアに関しては、90年代後半にはとっくにリキッドルームレベルのバンドだったので別格感はありましたけど。

-- そういえばボアのライブ、東京ではどんなノリでした?

大久保:もうほんとに別格。お客さんもクレイジーで、リキッドルームですらライブ中は猛烈なモッシュが起こる感じでした。ちょっと遡るんですが、実はぼくが最初にボアを見たのは「異形の王国」より前で、日比谷野音であった「イグアナラマ」だったんです。これはジェーンズ・アディクションがアメリカでやっていた「ロラパルーザ」をお手本にした、オルタナとヒップホップを混ぜたようなフェスなんだけど、野音って基本的に椅子席ですよね。なのにボア直前のジーザスリザードくらいからお客さんが最前の柵をガンガン乗り越え始めるわ、ボアが始まるとコンクリの椅子の上でサークルモッシュが起こるわで、ものすごく危ない盛り上がりをしてたんです。さっきの聞き始めたきっかけにも繋がるんだけど、そういう、まだ東京では見たことがなかっためちゃくちゃなノリに衝撃を受けたのが大きかったんですよ。

-- 大変な様子が目に浮かぶよう……。

大久保:ミニコミやzineを買い始めたのも、この周辺の音楽に興味を持ったのがきっかけですね。この頃はテクノのzineがたくさん出ていたと思いますけど、インディロック系もかなり出ていてディスクユニオンにいろいろ扱いがあったからよく買ってました。なので、その頃のzineもいろいろ持ってきましたよ。

-- おおお! すごい!

大久保:まず、有名なところで「G-Modern」。最初の8号目くらいまではまとめて買ったから完全なリアルタイムではないけど、それ以降は追っかけてたのでうちには創刊号からほぼ揃ってます(29号で休刊)。明大前にあったモダーンミュージックというレコード屋さんが出してたzineで、灰野(敬二)さん始めサイケやプログレッシヴ、フリージャズ系の作品をたくさんリリースしていたPSF Recordsも運営していて、それ界隈の人は足を向けて寝られないってくらい重要なお店です。あとは「G-SCOPE」とか「ex:it」とかも。

-- おおおお! 「G-SCOPE」は何冊か持ってますよ。「ex:it」も1冊くらい持ってるかな。京都や大阪でも売ってるのを見かけましたから。

大久保:「G-SCOPE」は大阪ベースですもんね。「G-Modern」や「ex:it」は当時の東京のzineでも大手だったから関西でも売ってたんだと思います。

-- (記事を見て)メロンマンはダブのバンドだと思ってたから、クラブ系じゃないzineで見るとなんだか新鮮ですね。メルトバナナと並んで載ってたりとか、バンド界隈も混沌としてたのがわかる感じがします。あとこのギューンレーベル、名前は知ってるのにきちんと聞いてこなかったんです。

大久保:ギューンはジャンルでいうとサイケですかね。初期のカセットはものすごく買ってましたよ。超初期の羅針盤のライブ録音やヰタ・セクスアリスとか、ディスクユニオンにわりとたくさん入ってたので。

-- ディスクユニオンの名前が何かと出てくるのがすごい。当時の情報入手場所として一番重要なお店だったんでしょうね。こっちの記事の大友良英さんはソノシートを持ってるし、ターンテーブルの時代ですね。

大久保:当時ディスクユニオンでは田畑満さんが働いていて、店のフリーペーパーでサイケのレコード紹介を書いたりしてましたね。そういえば、佐々木敦さんを知ったのも同じ頃です。90年代前半からメジャー誌の『クロスビート』で、大友さんとかこういう音楽ばかり紹介していた人で、やっぱり気になって(笑)。

こっちの「木乃伊」もぜひ。ぼくより少し上の年代の女性二人が出していたんだけど、かなり好きなミニコミだったんですよ。あ、年上の女性といえば「異形の王国」の森實さんは毎回チラシの裏面に「元●●の■■が新バンドを結成」みたいな感じでインディーシーンの最新ニュースみたいなのを載せてたんですよ。ライブ企画自体も隔月とかそのくらいのペースだったからヘタな雑誌よりずっと情報源として重宝してました。さすがにあれは手元に残ってないんだけど、いま思えばすごい貴重だったかも。

-- へえ!

大久保:ハードコアの中でもグラインドコアやファストコア、いわゆる速い系が出てきた頃で、zineもいろいろ出てきたというね。

【15分話してくれた人】
大久保 潤(junne)
編集、執筆、ギタリスト。1975年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部英文学専修卒業。メディア総合研究所や編集プロダクションを経て、現P-Vine/ele-king books。佐々木敦 著『「4分33秒」論「音楽」とは何か?』、堀越英美 著『女の子は本当にピンクが好きなのか』など書籍を多数編集、また『ele-king 少年ナイフインタヴュー 』や『TRASH-UP!! イライザ・ロイヤル・ヒストリー』などの記事では自ら取材・執筆を行う。スカムパンクバンド大甲子園/即興ストーナーロックバンドGalaxy Express 666/スペースロックバンドFilthのギタリストとしても活動中。
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