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【舞台感想】みんながhappy!/宝塚歌劇星組博多座公演 『ME AND MY GIRL』

10月31日と11月2日に博多座にて宝塚歌劇星組博多座公演 「ME AND MY GIRL」を見てきました。
この公演は主役のビルと遺言執行人のジョン卿を、専科の水美舞斗さんと星組2番手の暁千星さんが役替わりで演じていました。
10月31日の観劇はソワレで水美舞斗さんビルの千秋楽、11月2日は大千穐楽で暁千星さんがビルを演じていました。

お二方とも初日に比べると余裕綽々。アドリブも満載でした。
11月2日の千秋楽では次回大劇場公演「RRR」のPRがチョイチョイ入っていて観劇の期待が膨らみました。
どちらのビルもパーティのレッスンの場面などで小桜ほのかさん演じるディーン公爵夫人マリアに対していく通りものアドリブを仕掛けて思わず公爵夫人も笑いそうになっていました。

暁さんビルは公爵夫人が目を離した隙に机の下にするりと隠れてしまいました。落ち着きのないビルならやりそうです。
急に消えてしまったビルに小桜さんは内心とても焦ったようですが、公爵夫人としてビルを探し心配し叱責していた小桜さんはさすがでした。
小桜さんの公爵夫人は怒っていてもどこか可愛らしいところがあるのですが、急に隠れてしまったビルにプンプンしながらもちゃんと舞台にいたことに内心ほっとしている様子もうかがえてさらにチャーミングさが増していました。
ジョン卿が30年以上愛し続けた理由がよくわかりました。
私も公爵夫人がさらに好きになりました。

この博多座公演でビルの役替わりという世にも稀なものを見ることができましたが、演じる人によってこんなにも印象が変わるのだなぁとあらためて思いました。
多動で落ち着かなくて礼儀知らず、でもその人間的な魅力で人々を巻き込んでしまう水美ビル。
危なっかしくて悪戯っ子、内省的で人々との関わりによって気づきを得て変わっていく暁ビル。
そんな印象をうけました。

「私が考える理想のビル」にしっくり合ったのは水美さんですが、暁さんビルと舞空瞳さんサリーの対はこれはまた「私の理想の一対」で、けっきょくどちらも好き❤というのが結論です。

舞空瞳さんはこの個性の異なる2人のビルとそれぞれに心を通わせて、はつらつと陽気に愉快に登場し、健気でせつない心情を歌にのせ、最後はメイフェアレディに大変身というヒロインのサリーを魅力いっぱいに演じていてとても素敵でした。
泣きそうなのに「笑ってるのさ」と言うときのお芝居などなど、本当に表情ゆたかで見ていて胸がきゅんとしました。

ジェラルド役の天華えまさん、ジャッキー役の極美慎さん、パーチェスター役のひろ香祐さん、ジャスパー卿役の蒼舞咲歩さん・・と役のひとりひとりが予想以上にクオリティの高いパフォーマンスで最高にたのしかったです。

それから輝咲玲央さんが演じたヘザーセットがもうこれぞ英国貴族の邸の執事!という感じがして内心たいへん興奮しました。
口には出さないけれど目がものを言っているところとか。目に映る人物ひとりひとりについて、尊敬、愛情、侮蔑・・等々思うところがあるようだけど、それを匿しつつ慇懃な物腰で余計なことは一切言わないかんじがとてもプロフェッショナルで好き❤と思いました。

そういえば、ふつう支配階級の人は邸の執事のことは敬称なしで姓を呼ぶと思うんですが、ジャッキーは彼を「チャールズ」とファーストネームで呼んでいたのが、なにか意味があるのかなと気になりました。邸の人間ではないから? 世代的なもの? なぞです。
それからアドリブだったのか、誰かが「チャーリー」と呼んでいたようにも思います。
(ミーマイは次々に物語が展開していくので思考を止める暇がなくて記憶が曖昧になります・・汗)

あんまりヘザーセットが好きすぎて彼の周辺、彼の反応だけを見ていたい気持ちも湧きましたが、そんなことは無理!(登場人物ひとりひとりが面白くて目が足りない!)
でも叶うなら「ヘザーセットの一日」とか「ヘザーセットの一週間」とか彼の目線でお邸の人々を見てみたいです。
(スカイステージでやりませんか?)

ところでプログラムによると舞台はメイフェアのヘアフォード家の邸宅ということらしいのだけど、冒頭で招待客がトランクを積んだ車に乗り込んでヘアフォード邸での休日の滞在を楽しみにしていると歌っていたり、彼らが領地内でクリケットやテニスやガーデンパーティをしていたり、ビルが狩りや乗馬をしていること、階下にたくさんの使用人がいること、領地内にパブがあることなど(パブの客がビルのことをご領主様と呼んでいる)を見ると、舞台となるお屋敷「ヘアフォード・ホール」はロンドンの邸宅(タウンハウス)ではなくてロンドンから車で小一時間くらいの郊外のカントリーハウスだと思うんです。
たとえば「ダウントン・アビー」に使用されたハイクレア城みたいな。

上級階級といっても皆が皆、カントリーハウスを所有しているわけではないと思いますし、時代的(1930年代)にもカントリーハウスは手放してロンドンに常住している貴族も多いと思うんですが、ヘアフォード伯爵家は領地とそこに歴史ある屋敷を所有している由緒正しい貴族ということだと思います。

その継嗣が他人のポケットからモノを掏るのが特技というランベス育ちでコクニー訛りの行商人ときては、反発が強いのが本当だと思うんです。
ジョン卿が難色を示すのは当然だし、ジェラルドが繰り返しビルの訛りについて言及し我慢がならないと口にするのもまあそうだろうなぁと思うのです。

ですが、ビルの信じられない無作法さを見ても兄の息子なら伯爵に相応しい紳士になる(血筋が必ずものを言う)と公言する公爵夫人も凄いし、お金持ちの伯爵であれば無作法さは不問にできるジャッキーも凄いと思いました。
2人ともとてつもなく器の大きい寛容な心の持ち主なんじゃ・・? それこそ血筋?

ジャッキーのような英国の上流階級の娘にとって爵位と財産がある貴族の長男と結婚できるかどうかは人生の最重要課題。
なりふりかまわず「自分のことだけ考えて」行動するのは至極当然で、現代の受験や就活以上に一生を左右するシビアな問題なのですよね。
自分の力を100%発揮して幸福を掴もうと努力する心意気は立派だと思いました。
こんな彼女ならおそらくこの先の世界の変化にもついていけそうな気がします。仕事に就いても成功しそうです。

ビルだって「伯爵家を継ぎ愛するサリーと結婚してハッピーエンド」のその先は・・その領地やお屋敷を維持していくのはかなりの困難になりそうな時代です。
数年後には第二次世界大戦が勃発しますし英国もこの先いろいろな問題が待ち受けているわけで。
などど、ついつい暗いことも考えてしまいますが、ビルならなんでもやれそうだし、職業を持つことにも抵抗がないだろうし。セールスなんてお手の物じゃないかなと思います。
この時代にビルを第14代伯爵として迎えたことはヘアフォード家にとってなにより幸運といえるかもしれないなぁなんて想像しました。

サリーもジャッキーもたくましくて頼りになりそうです。
2人でメイフェアにブティックを共同経営したりしてたらいいなぁ。
あ、たぶんジェラルドは働いていないと思います・・笑。
でも彼は彼でなんとなくそこにいるだけでいいような・・誰かの対話の相手であったり時代を共有する仲間であったり、その存在が関わる人の安らぎになりそうだなと思います。なにより突っ走るジャッキーを引き留めたりは彼にしかできない役割じゃないかなと。

そんなふうに時が経ってもみんながハッピーでいたらいいなぁと想像しています。

2023年の10月に博多座でこの星組公演「ME AND MY GIRL」を見れたことはずっとずっと私の大切な思い出になると思います。

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