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『鶴見祐輔資料』という本についてーある在野研究の成果

 今わたしの手もとに『鶴見祐輔資料』という本がある。この本の存在は以前から知っていたが、たまたま図書館で見つけたので借りてみた。この本は、鶴見祐輔の評伝、年譜、書誌で構成されており、特に本の313ページ中261ページを占めている年譜はかなり詳細まで調べられているように思える。私が述べるのはたいへん恐縮してしまうが、あえて言わせていただくと、著者の「ライフワーク」とも言える本であると思う。

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 著者は石塚義夫さんという方で、講談社出版サービスセンターというところから出版されている。また、奥付には「非売品」と書かれている。著者の方の経歴を確認してみると、公務員や税理士として仕事をしており、研究機関に所属する「研究者」でなく「在野研究者」と言えそうだ。もっとも、著者はこの本の序で自分は素人であると述べているため、このように書くのはどうかと思うが、『在野研究ビギナーズ』の「第六章 新たな方法序説へ向けて」によると、「在野研究」のすそ野を広く考えてもよいのではないかと書かれているため、ここでは著者のことを「在野研究者」として考えることにしたいと思う。話をもとに戻すと、出版社も私の聞き慣れない会社であったため、ウェブで調べてみると、どうやら自費出版を主に扱っている出版社であるようだ。この本の著者は、下記のブログで鶴見祐輔の評伝を公開しており、『鶴見祐輔資料』を出版した経緯を述べている。以下に抜粋してみたい。

(前略)私はこの60年間、鶴見祐輔伝の出現することを待ち望んだ。だがそれは遂に実現しなかった。私も既に75歳である。素人が下手な文章を書くことの非は承知の上で、私は隗より始めたのである。それは400字詰原稿用紙2,744枚(後に2,343枚に圧縮)に及んだ。それを全部本にすると5冊くらいになる。
 そのうち第2編第4章第1節の著作目録と第4編の詳細年譜の主要部分を収録して、『鶴見祐輔資料』という書名で平成22年12月に自費出版した。国会図書館はじめ全国の主要図書館899個所に寄贈してある。
 これは客観性の高い部分で、筆力の稚拙は関係なく、後世に鶴見祐輔伝を書こうとする者の良き資料となることを確信する。(後略)(この記事の著者の重要であると考える部分を太字とした。)

自費出版で各地の図書館に寄贈されたため、奥付に「非売品」と書かれていたようである。

 この本を読んで私が考えさせられたのは、まだ十分な伝記的な研究、基礎的な研究の蓄積がない人物の研究をすることの難しさだ。この場合、年譜、書誌の整理からはじまることになるかと思うが、上記に引用した「序」でも著者のたいへんな努力が感じられる。ひとりの人物に対して、長期間研究し続ける姿勢を、何かと目移りしやすい私はぜひとも参考にしていきたい。以下のように、私もほとんど調査されたことのないと思われる人物に関して調べることもあるがその後ほとんど進んでいない。。。(関心のある方は一読してみていただきたい。)

 今回紹介した『鶴見祐輔資料』が出版された翌年には、『広報外交の先駆者 鶴見祐輔 1885-1973』上品和馬という本が藤原書店より出版されている。また、CiNiiやGoogle Scholarで確認したところ、鶴見祐輔に関する論文も少しずつであるが書かれているようだ。以下の論文では、『鶴見祐輔資料』が言及されている。

余談だが、以下の論文は私の放送でも取り上げたことがある。

 今までの鶴見祐輔像は、良くも悪くも、その子である鶴見和子、鶴見俊輔の仕事や発言によって形成されてきたような印象を受けるが、現在ではテキストの読みなおしや交流関係の調査など鶴見祐輔を当時の時代に戻して再検討する研究がはじまっている。『鶴見祐輔資料』は、このような研究を進展に貢献するのではないだろうか。

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