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【感想】踊る熊たち

冷戦から覚めた国々には、西側の価値観が到来した。
これまで熊に芸を仕込んで生計を立てていた人たちは、動物愛護の名の下、熊を奪われ失業する。
かつての飼い主は、古き良き時代に思いを馳せる。あの頃はみんな豊かだったと。
一方その頃、熊たちは酒を飲まされ、パンとジャムだけが食事で踊る芸を見せる生活から開放されて『踊る熊園』で、仮初めの自由を少しずつ与えられていた。
柵から出ない限りは、何をしても自由。
しかし、熊たちは時折、その自由が耐え難いかのように、かつてのように踊り始めることがある。

西欧の価値観によって、救われた熊と、体制から置き去りにされた人々。
自由競争の原理が働く世界で人々は戸惑っていた。
熊も人間も、スポイルされてきたように私からは見えたから、この対比は痛烈なまでに自由の代償について考えることができる。
熊は、拘束され決まった踊りをする代わりに狩りをしなくても食事を摂れる生活で野生を置き去りにした。
人間は、政府から与えられる仕事のお陰で、頭を使わなくてもずっと豊かな生活を送れたので、冷戦後の体制転換に適応できなかった。

自由は痛い。

日本は成功した社会主義国家だと言われることもあるらしく、実際そのように見受けられるところもある。
日本の経済状況を見ると、このぬるま湯で飼いならされた自分を熊たちに投影して背筋が寒くなった。

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