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「問いと対話の研究会」を始めます。(『対話をデザインする』読書会レポート)

こんにちは。TOI|Think Out Insideのマツイシです。
普段、「Think Out!」という哲学対話のプログラムを、
友人たちとともに月イチで運営しています。
(Think Out!についてはこちらを読んでいただくとわかります)

このたび、その哲学対話の活動と並行して、
新たに「問いと対話の研究会」を始めることにしました。
このnoteは、研究会を始めることになった経緯と、
昨日やってみた実験結果のシェア、
そして次回の告知をするために書いています。

1.経緯:そもそもなぜ研究会をやろうと思ったのか。

「問うこと」、そして「対話すること」の重要性は、
このnoteを読んでいる方ならもうすでに認識されているかもしれません。
明確な答えが存在しなくなった時代に、
「問うこと」はかつてなく重要さを増しているということ。
そして、問いから始まる異なる他者との「対話」もまた、
かつてなく必要とされているということ。

僕らはこれまで、「Think Out!」という場をつくることによって
問いと対話の実践の場を生み出してきました。
日常生活ではなかなか難しい行為を、
見ず知らずの他者とともに実践できる場所。
もちろん、すでに全国各地さまざまな場所で行われていますが、
より自分たちが理想とする形を追求すべく、
つたないながら何度か開催してきました。

そうしたなかで、問うこと、そして対話することの
はかりしれない価値を強く認識すると同時に、
その難しさも、身をもって感じることになりました。

まず、問い、とひとくちに言っても実にさまざまな問い方があります。
問う内容だって、個人的なものから概念的なものまで多岐にわたる。
もちろん、どれが良くてどれが悪い、ということではないのですが、
ある種の問いは参加者全員を思考の深みにいざない、
対話終了後も心の片隅に居座り続ける一方で、
そこまでの深みをもたらさない問いも確かにある
のです。

それは同時に、対話の難しさでもあると思います。
問いを出発点として始まる対話は、答えがない問いだけに、
「こうすればいい」という決まったやり方があるわけでは全くない。
それなのに、初めて会ったばかりの人どうしが
気まずさを乗り越え、先入観を乗り越え、
共同で問いを考えるという楽しくも困難な作業を遂行しなければいけない。

そこに、ファシリテーターが介入して
問いや対話を操作するのでは意味がないと思っています。
そうではなく、深い問いや対話が自然と生まれる環境を作り出すことのほうが、参加者にとっては大きな意味があると思うのです。

では、どうしたら深い問いが生まれる場所をつくれるのか。
どうしたら、深い対話が生まれる場所にできるのか。

いままでは、梶谷真司さんの『考えるとはどういうことか』をテキストに
見様見真似で哲学対話をやってきたけれど、
もっと問うことそれ自体、対話することそれ自体について、
その本質を理解する必要があるんじゃないだろうか。

そこで思い立ったのが、この「問いと対話の研究会」でした。

2.実験:やってみてわかったこと。

研究会と言っても、アカデミックに研究発表をするのではなく、
先人たちの叡智をインプットし、実践に落とし込むための場所として考えました。
メディアがメディア論を語って悪質なコンテンツを垂れ流していては意味がないように、
あくまで実践にフィードバックするための研究会です。

まあ、平たく言うと読書会ということになります。
参考文献をみんなで読んできて、問いと対話についての知見を共有し、
それをどう実践に活かすかを考える場所。

まずは実験として、「Think Out!」のメンバー3人で、
細川英雄さんによる『対話をデザインする――伝わるとはどういうことか』(筑摩書房)という本を題材に
研究会をやってみることにしました。

細川さんは、言語文化教育論を専門とされる研究者。ベトナムからの留学生を対象にした対話のワークショップや、ハンナ・アレントについて語る会、拠点とする八ヶ岳の地域の方々との対話をもとに、この本を執筆されました。
たまたま、渋谷のSPBSという書店で手に取り、目次を見て「これはThink Out!の参考になるかも」と感じて買っていたけれどまだ読めていませんでした。
研究するにはまず理想的な本ではないでしょうか。

で、実験してみた結果。
これが、実に大きな収穫があったんです。
本を読みながら、そうか、あれはそういうことだったのか!と何度膝を打ったことか。

この本がもたらしてくれた気づきは山のようにあるのですが、
その一端をご紹介すると、たとえば次のようなことが挙げられます。

1.対話は、人が「生きるテーマ」を見つける装置となりうるということ。
2.豊かな対話のためには、一人ひとりが「自分の言葉」で話すこと。
3.最初にその人ならではの気づきがあり、それを出発点とした対話を通じて、「自分のテーマ」へと発展していくということ。

1などは、これだけ聞くと眉唾ものに思うかも知れません。
しかし、同書の著者である細川さんは自らの体験を交えながら本書の大半を費やし、
それがいかに現実的な可能性を伴ったものであるかを語っています。

 自分にとって、この話題はどのような意味があるか、この話題について対話することで、結局、わたしはどのような解決を望んでいるのか、といった自分自身の深いところにある〈何か〉、この何かが、それぞれの人にとってのテーマです。
 自分に向き合うとは、このテーマと自分との関係、すなわち、自分自身の立てたテーマが、自分の本来の興味・関心とどのようにつながっているかを通して、自らを相対化し、自らが何者であるかを自覚することなのです。
 この世で生きていくということは、自分のしたいこと、やりたいことをどのようにテーマ化し、それについて他者とともに実現していけるか、ここに考える個人の使命があるといえるでしょう。対話の活動とは、そうした個人の使命を、ことばによって引き受け、他者とのことばの活動の場を形成する営みだということなのです。(pp.038-039、強調筆者)

これを読んだ運営メンバーたちが強く感銘を受けたのは言うまでもありません。

対話が、異なる考えを持つ人とコミュニケーションをとること、
それによって分断を乗り越えうる、といったことは概ね理解していました。
でもそれが、まさか「生きるテーマの発見」などという
究極的な作用をもたらすなどとは考えもしなかったというのが正直なところです。

そして2は、ではいかにして対話を通じて「生きるテーマの発見」に
至ることができるのかという意味で、大切なことが何かを示したものです。

 […]対話という表現活動において大切なことは、それぞれ一人ひとりの活動にそれぞれのオリジナリティをどのように表現するかということになるわけです。言い換えれば、個人一人ひとりの中にあるものをどのようにしてそれぞれが認識できるようにするか、という課題なのです。
 そのことを自覚的に行うために、対話という行為は、一人ひとりの「私」を通して行われなければならない、つまり「あなたでなければ語れないこと」を話すのだ、ということになります。これが、対話の中でオリジナリティを出すということです。
 このことにより、自分のことばで語られた内容は、必ずや相手の心に届きます。これが、話の内容を意味を明確にする、すなわち、わかりやすく話すということにつながるのです。(pp.051-052、強調は引用者)

実はこのようなことを、僕らも「Think Out!」でルールとして設けていました。
問いは、あくまで自らの経験に基づいて、切実なものとして提示してほしいということを、参加者の方々に最初にお伝えするのです。

それは、これまで参加した哲学対話や主催している「Think Out!」で
切実な問いであったほうが対話がしやすかったから、
という経験則的な側面をもったルールだったのですが、
それこそが「生きるテーマの発見」という究極的な作用をもたらすのだということを知って、
その大きな意義を再確認した次第です。

とはいえしかし、「生きる目的を発見するための切実な問い」なんて言うと、
いやいや、そんな切実に問いたいことなんて
多くの人はそうそうないんじゃないかと思ってしまうところ、
本書は「最初は日常の気づきから始めればいい」と教えてくれます。

 相手とのやりとりを通じ、対話の関係が生まれるとすれば、それは、まずあなた自身の興味・関心とのかかわりというところからでしょう。相手からもたらされた話題と自分の興味・関心とのかかわり、これこそが、対話の始まりということができます。
 その漠然とした話題と興味・関心との関係から、あなたの問題関心も始まります。この場合の問題関心というのは、対話をすすめるために必要な、あなた自身のその問題への関心ということです。
 問題への関心というのは、日常生活の中での、さまざまな小さなヒントによるものが多いことがわかります。
 […]
 こんなふうに、日々の生活や仕事の中で、「おや」と思うことや「なんか変だな」という疑問から、自分の問題関心は発見できるものなのです。(pp.132-133、強調は引用者)
 だからこそ、対話というのは、限られた人だけが行う、特別な行為なのではなく、すべての人が自分の中の課題をそれなりに展開させるために行うものだということができるでしょう。しかも、そうした対話の芽は、あなた自身の生活や仕事のこれまでの経験の中にすでに潜んでいると考えることができます。(p.134、強調は引用者)

「ちょっと気になること」には、紛れもなくその人固有の生のなかにある。
それを大切にして、ではどうして気になるのか、と問い、
対話を通じて思考を深めていった先にあるのが、
その人の生の核心にあるテーマだというわけです。

この、『対話をデザインする』という本の読書会は、
「ちょっくら実験してみるか」と思って気軽にやってみたにしては
「大成功」だったと言って差し支えないでしょう。

これは、本格的にやらない手はありません。
というわけで、「問いと対話の研究会」を正式に始めたいと思います。

3.次回予告:オープンにやります!

◯対象本
苫野一徳『はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)』
https://www.amazon.co.jp/dp/4480689818/

◯日時
2019年9月7日(土)10時〜12時

◯場所
四谷地域センター11F
地図:https://goo.gl/maps/APpYErCvhz9bexA58

◯参加費
400円/人(会場費です、すみません)

詳細・お申し込みはこちらから。
https://www.kokuchpro.com/event/e77004fdf4b15f942e9696ee220bd858/

ついでに告知!

「実践の場」として、次回の「Think Out!」もぜひ。
すでに4名の方からお申し込みいただいてます(8/5時点)。

〈頭のワークアウト〉Think Out!〈テーマ「生きる」〉
https://www.kokuchpro.com/event/thinkout002/
日時|2019年8月24日(土)10:00-12:30(9:45開場)
場所|吉祥寺バツヨンビル(吉祥寺駅徒歩5分)
地図|https://goo.gl/maps/zCP1hywxBMcuCDoL6

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