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教育者や指導者は叱った効果を過大評価しやすい

 この前、研究員の面接をしたんだけど、改めて自分の研究・教育のスタンスをまとめてみたら興味深かった。10年後や20年後の自分はどう思っているのか・・。
 これに関連して思い出したのが、教育における「統計学的回帰現象」。
 とても面白い現象だと思っているので、以下、良かったらどうぞ。

結論

 いきなり結論から。
 
教育者や指導者は、叱った効果を過大評価し、褒めた効果を過小評価する傾向にあります。つまり、叱ったら生徒に良い効果があった、褒めたら悪い効果が生まれてしまった、と勘違いしやすい。これは指導者の性格や性質がどうこうではなく、人の性質とは無関係に、統計的な問題からこの現象が自然と起こってしまいます。


A君のテストの得点が図のように分布していると仮定します。

テストの点数のばらつき(仮定)

 A君は、60点くらいの点数を取ることが多い。
 でも、毎回同じ点数を取るわけではなく、「バラツキ」のため、95点などの高得点や、25点などの低い得点を取ることもたまにある。これはA君の能力が上下しなくとも、「バラツキ」のみによっても起こる。(※能力の向上は、この図を全体的に右にシフトさせることなど)

 A君が25点付近の点数を取ったとき、多くの教育者は叱る、もしくは注意する。
 そして、その次のテストでは、ほとんど場合、点数は良くなる。25点付近を取るのは非常に希で、60点くらいを取ることが多いので、必然的にこうなる可能性が高い。叱られたから頑張った訳でも、能力が向上した訳でもなく、「バラツキ」のみによって起こる。
 しかし教育者はこれを「叱った効果があった」と勘違いしやすい。つまり教育者は全般的に、「叱った効果を過大評価しやすい」傾向にある。これは「バラツキがある」と仮定した場合、必ず起こる現象と言える。(そして多くの場合、バラツキはある)

 一方、A君が95点付近を取ったとき、多くの教育者は褒める。
 これも同様に、バラツキのため、次のテストでは点数は下がることが多い。そのため教育者は「褒めたために点数が下がってしまった」のように、「褒めた効果を過小評価しやすい」傾向にある


 この横軸は点数でなくとも、各種のスキル、資料などの完成度、道徳的な行動、などいろんなものに当てはまります。教育者は統計的バラツキに一喜一憂せず、図全体を右にシフトさせるように誘う役割を担うべき、とも言えるかもしれないし、「バラツキを考慮に入れた指導が必要」とも言えるかもしれない。


そのほかの統計学的回帰の例

 ちなみに上記の例は統計学的回帰現象のごく狭い例で、一般的には、「不完全な相関関係のある2変量において、一方が極端な値である場合、もう一方は平均すればより中心の値になる」と定義されてます。
 例えば、

 あるテストの点数が95点以上の人たちを集めてきて、その人たちの次のテストの点数の平均値は、95点よりも低くなる(より中央値に近づく)

 身長が190cm以上の父親たちを集めてきて、その息子達の身長を平均すると190cmよりは低くなる(より中央値に近づく)

 など。

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