童貞

第13回 それは雑草のように

「日常」の世界にいたとしても、
心だけが「非日常」に出かける時がある。

家から駅までのなんでもない道のり。
その子は確かに輝いて見えた。
涼し気なショートカットにキャップを載せて、
空の青、雲の白、シャツの白と、ジーンズの青。
まるで、白い画用紙に青いペンを引いたように。
空と、道と、君とが、一直線につながる。
いつもの道のりが、まるで絵画の世界のように見えた。

これは僕が一目惚れした、ただの恥ずかしい話である。
しかし、それも夏なら小粋なものではないか。
雑草は、夏にいきなり勢力を増す。
恋もまた、夏にいきなり勢力を増す。
今まで、何処になりを潜めていたのかというくらいに。

夏の熱気に、脳内まで沸騰しているのかもしれない。
しかし、今日芽生えた恋草もまた、
雑草のように、抜いても抜いても根が残るものである。
いつか、ひまわりのように、燦然と花開きますように。
そう唱えて僕は、名も知らぬ君への恋草を抜いたのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?