見出し画像

原田マハ著「楽園のカンヴァス」


「美術館好きならこの小説がおすすめよ!
絶対好きだと思う」と友人に勧められ
まんまとハマってしまった。

舞台はニューヨーク近代美術館(通称MOMA)、
フランス在住伝説の絵画コレクターの屋敷、
そして岡山県大原美術館。

主人公はかつてパリ在住の美術研究者で
今はシングルマザーとして
岡山県大原美術館の監視員を勤める。
そんな彼女が思いがけず、
ニューヨーク近代美術館のキュレーターと
アンリ・ルソーの絵画が真贋かどうかを見極める、
という壮大な鑑定対決が始まる、というもの。

通勤時間中、横浜市営バスに乗りながら読んでいるのに
脳みそは一瞬で
ニューヨーク近代美術館と
ルソーが暮らしていたパリのアパルトマンを行ったり来たり。


モンマルトルにはバトーラヴォワール(洗濯船)と呼ばれる集合アトリエがあった

アンリ・ルソー(1844-1910)
素朴派と呼ばれる画家。
パリ市の税関職員だったことから
別名 ”Le Douanier=税関吏”ドゥアニエ・ルソーとも呼ばれる。

生前は”へたくそな絵””日曜画家”と揶揄され
なかなか評価が得られなかった。

しかし画家たちが集まるモンマルトルのアパート”洗濯船”の中には
ルソーを高く評価する者がいた。

それがパブロ・ピカソだった。

このピカソとルソーの関係が物語のカギを握る最大のポイントとなる。

私が初めてアンリ・ルソーの絵を見たのはパリのオルセー美術館だった。
印象派やアール・ヌーヴォーなどの19世紀美術が並ぶ中
ひときわ異彩を放っていたのがアンリ・ルソーだった。


「蛇使いの女」オルセー美術館蔵


「蛇使いの女」
こんもりとした深緑の森の前で不気味にたたずむ女性と
神秘的に輝く月の対比に思わず足を止める。
これがどうしてパリのアパルトマンに暮らしながら
この絵を描こうと思ったのか、
不思議で仕方なかった。

フランスの美術展といえば1648年に設立されたフランス王立絵画彫刻アカデミーが主催する官展=サロンが主流だった。その後、民営化されたものの保守的な姿勢は変わらず、筆致を残す絵画や遠近法のない絵画、前衛的な絵画は排除される傾向だった。

ルソーはジョルジュ・スーラ、ポール・シニャックによって設立されたアンデパンダン展に出展した。無審査で誰でも自由に出品できる展覧会でのちにロートレック、マティス、セザンヌ、ゴッホなど現代美術に大きな影響を与えた展覧会となった。
出展作家の中にはポール・ゴーギャンもいたので
ゴーギャンがタヒチで描いた
「我々はどこから来たのか我々は何者か我々はどこへ行くのか」
という作品に代表するようなタヒチの習俗を描いた絵画も
目にしているはず。
エキゾチックで遠近法のない技法に共通点を感じるので
お互い影響があったのだろう。
美術史上でも二人の間で交流があったことは知られている。

ある画家の絵に注目することは
画家の生きた時代背景、住んでいた土地の空気感、
恋愛や仕事、芸術面で交流した人々を知ることになり
単なる平面の絵ではなく絵の背景にある物語が立体として浮かび上がる。

それがこの小説の魅力で、読み始めると一気にひきこまれ
読み終わると無性にルソーの本物の絵が見たくなった。

本当は今すぐ飛行機に飛び乗って
オルセー美術館とニューヨーク近代美術館に行きたいぐらいだ。

いつか再び訪れる日まで
どうか健康で元気に過ごそうと思う。
それが日々のモチベーションになったりもするから。

>>フランス雑貨ラメゾンドレイル




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?