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好きな人

好きな人はずっと好きな人だ。好きな人は、恋人にならない限り永遠に好きなままだ。
片思いに終わりは無いのだ。

(これは私が10年にのぼる片想いをどうにか成仏させようとして片っ端から想い人とのエピソードを書き綴っただけの文章であり、起承転結など無いです。ご了承下さい…)

19歳の頃、入ることに決めたサークルの初めての集まりが公園での飲みだった。新歓の時期が終わった6月に1人だけ遅れて入ったので、1つ上の女の先輩が話題を振ってくれいたのを覚えている。ほぼ初めて飲んだジンジャーハイボールに早速酔って、目をとろとろにしながら先輩達の会話に相槌を打っていた。
途中から初対面の新人との会話に飽きたのか先輩同士で話し始めており、誰の話かわからないや…などと考えていたら、公園の向こう側でキャッチボールをしていた人影が目に入った。
臙脂色のニット帽、暗いカーキのコートを着ていたかもしれない。少し猫背で、ふざけんなよとか言いながらボールを追いかけて走っている姿が目に留まった。暗いし遠いし顔も見えない。同じサークルかもわからない。3人くらいで遊んでいたようだけど、その中の1人だけが目に入った。
とろとろにした目で彼を眺めながら、この人の名前はなんて言うんだろう、と思った。

他の先輩に話題を振られながらもボール遊びの様子ばかりぼうっと眺めていた。

その少し後、やっぱり同じ公園で別の先輩に「誰か気になる人居ないの?まだわからないと思うから強いていうなら!」と訊かれたことがある。私はぼんやり浮かんだその人の面影を思い出したが名前を知らなかった。
仕方無いので特徴を答えたら、「あ〜いいよね〜」とあんまり興味無さそうに答えてくれた。訊いてきた先輩は女の人で、他に居た男の先輩達は不思議そうな顔をしていた。女の先輩は「なんだかんだいってあいつでしょ〜」と同意してくれた。私が名前を知りたいと思った気持ちが果たして好きというものなのかはわからなかったけど、そのふわふわした、あんまり本心から同意していない感じがとても良いなと思った。
初めて何人かでディズニーシーに行った時、帰り道が同じになった男の先輩に「あいつが好きなの?」と訊かれたことがあった。私は思わずはいと答えてしまった。
私はあの人が好きなのか。

合宿の最終日に行われるライブでは、初めてその人が楽器を弾いているところを見た。かっこよかった。うまいとか下手とかは素人過ぎて判断出来なかったけど、目に焼き付いている。今でも髪の感じから洋服、さらにその人がふざけてマイク越しに言っていた言葉まで鮮明に思い出すことが出来る。
何回も思い出してニヤニヤした。やっていた曲もセトリを見て覚えてすぐメモした。TSUTAYAに行って全部のアルバムを借りて聴いた。他の好きらしいバンドのCDも、最寄りの店舗にあるだけ借りた。その先輩と仲が良かった同期の男の子に他のオススメも訊いた。
飲み会では、どこにいるのかいつ帰ったのか必ず見ていた。
私はなんだかわからないけど、その人が居る飲み会では絶対ヘロヘロに酔っていた。その人が居ないとイマイチテンションが上がらないようであんまり酔わなかった(気がする)。

秋頃のライブで、同期の男の子と話していたら私の好きな人誘おうか?と言ってくれた。そしてその同期の子と、好きな人と、好きな人と仲の良い人でバンドを組んだ。私がボーカルだ。
男性ボーカルだったけど声は低いので歌えた、けど、スタジオでは緊張し過ぎて笑うことしかできなかった。もっと色んなことを上手くなりたかったなぁ。

年末には、ある先輩の家でみんなで年越しすることになった。地元が地方の人は帰るから、関東圏に実家がある人達だけが集まっていたようだった。
私は同学年の女の子が1人も居なくてとても緊張していて、本当に縮こまっていた。
余談だがシーザーサラダのドレッシングを塩昆布キャベツの上にかけてしまったことは未だに忘れられない。本当に忘れたい。
基本的に先輩達がやっているゲームや紅白を見ながらダラダラお酒を飲んだ。その人のゲームをやっている背中が猫背で広くて、抱きつきたいと思った。好きだった。その時は緑のチェックのロングシャツみたいなコートみたいなのを羽織っていた。写真を隠れて沢山撮った。

皆んなが寝っ転がって電気を暗くして静かになった時、好きな人と地元が一緒の先輩が私に向かって好きな人の帽子を投げてきた。私はびっくりしすぎて反射的に投げ返してしまった。持ってれば良かった。クソデカ感情がいつも邪魔をする。

声が好きだった。ザラザラしたあんまり通らない声が好きだった。
歩き方も好きだった。猫背なのに肩で風を切るような歩き方をする人だった。
時間を守る人だった。バンドサークルの人なのに単位もちゃんと取っているらしかった。ふざけてる中に垣間見えるストイックさを尊敬していた。
私の知らない世界を沢山知っているところも好きだった。昔の音楽とか古着とか、今まで私が触れたことの無い世界の人なんだと思った。
髪が長いところももちろん好きだった。似た人を駅で見かけて、気を取られて階段を落ちそうになったこともある。
人を小馬鹿にして指差しながら喋るとこも好きだったけど、いざ自分にされると怯んでしまった。ただイジりたいだけでニヤニヤしているのはわかるのだけど、本当に自分の欠点を言われているようで悲しくなった。好きな人にはどちらかといえば良いところを見て欲しい…。

一度、勇気を出してどこかに行ってくれないかとメールをしたことがあった。(当時はガラケーだった)秒で返信が来て、「ういっす!!!!!!!!!!!」というめちゃくちゃ乗り気の内容だった。私がそのあつさにちょっとびっくりしてしまい、他の子に相談して4人でジョイポリスに行って貰った。
その時にジャンケンで勝ったとか負けたとかなんだかわからないけど、好きな人がガチャガチャを買ってくれたことがあった。ガチャガチャから出てきたのはくちぱっちのキーホルダーで、私はすぐ携帯につけた。LINEのアイコンもくちぱっちにした。急にくちぱっちが好きになった。
ちなみにあつい思いのスクショは残してある。儚い想い出。もうこの後この人から返信なんかろくに来ないよ。(遠い目)

大学のサークル棟でバンドの話などをする時に、たまたま隣になったことがあった。確か上下白い服を着ていたと思う。好きなアーティストを訊かれて、私はドビュッシーと答えた。「クラシック畑かぁ」と言われた。その先の会話は覚えていない。

あと、同期の男の子に誘ってもらってハードロックカフェに行ったこともあった。(私はその先輩を推していることをあらゆる人に言っていた)
同期の子とその知り合い?のイケメンと上野のアメ横に行って、アメ横でペティナイフを見て歩いてハードロックカフェに移動した。その時イケメンが自転車のサドルを抜いて近くの排水溝にさしてたのを見て、私と同期の子はドン引きしていた。
ハードロックカフェでナチョスを頼んでくれたけど、私はイマイチ食べ方がわからなくてあんまり食べなかった気がする。緊張しすぎてよく覚えていないけど、本当に有難い経験だった。(好きな人と同期の子と、初対面の治安の悪いイケメンが居たら誰だって緊張すると思う。)
同期の子ありがとう。この恩は未だに忘れていません。

3年生の先輩達が引退するライブの打ち上げでは、1年生同士で座っていたらその人ともう1人の先輩が私の隣に座ってくれた。
めちゃくちゃ嬉しかった。嬉し過ぎて死ぬかと思った。いつも以上に私は酔ってしまって、その人に注ぐビールをめちゃくちゃ溢していた。私の中に収まらない好きと同じくらい、ビールがコップから溢れ出ていた。その人は笑いながらちょっとびっくりして、ふざけんなって言いながらビールを拭いていたと思う。
そんな感じで楽しくお話ししていた時、急にその人が「おまえへの″好き″はこの辺で(下の方)、○○ちゃんへの″好き″はこの辺(上の方)だからな」とふざけて言った。
私は大変にショックを受けてしまった。なんてことだ。そんな、そんなのは失恋じゃないか…。

正常な人間であれば「なんでそういうこと言うの〜」というやり取りが出来たのであろう。しかし私はそんな台詞を言える自信も無ければ余裕も無い19歳だったのだ。その上かなり酔っていた。コンマ数秒で涙が滝のように出てきて、それを見られるのが恥ずかしいのと失恋(?)の辛さで私はその場に立ち上がり、もう1人の先輩が「良いから座れ、な?」と優しく諭してくれているのにも関わらずメイクポーチを手に取ってトイレへ向かった。そしてめちゃくちゃ泣いた。もうよく知らない先輩の引退とか知らなかった。飲み会なんてどうでも良かった、廊下のところで1人で涙を流し続けた。

ドン引きである。好きな先輩も当時は20歳そこそこで、急にこんな泣きじゃくられたら困るし萎えるだろう。私は馬鹿野郎だ。酔ってたとはいえ自分のことしか考えられないのか。

一通り涙が収まってくると、同期の女の子が様子を見に来てくれた。本当に優しい。なんでみんなこんなに優しいのか。「戻ろう?」って言ってくれているのを「良い!」と言ってメイクを直して、私は他の席に座った。最悪の人間だ。
元の席には戻らず適当に机の無いところに座っていたら、誰だかよくわからない先輩にふくらはぎを揉まれていた。何もかもがどうでも良くてそのままにしていたら、その先輩を好きらしい女の先輩が来てその先輩を連れて行った。別に好きじゃねーし。ていうか誰だよ。
でもその後は他の先輩ともたくさん話せて、なんだか私は楽しい感じでその飲み会を終えることが出来た。
次の日、その人からメールが来ていた。私はなんて返信したか記憶が無いけど、やり取りは続かなかった気がする。

3年生が引退した後の、殆ど1年生と2年生しか居ない合宿では好きな人を見る為にその人たちが練習しているスタジオにお邪魔したりした。夜の練習ではパジャマを着ていて可愛かった。寝っ転がってベースを弾いていた。好きだった。ライブでも写真を沢山撮った。
1枚だけ、視線に気付いたのかカメラ目線の写真がある。少し目を見開いてくれていた。私のために目を見開いてくれていたのかは謎だけどなんかとにかく表情をつけてくれて(?)いた。私は喜んだ。

でも中高女子校で恋愛経験の無い私は、この後どうしたら良いのかわからなかった。

そんな感じで私の1年生は終わった。

2年生になった。後輩が入ってくる、というか入れなければならない。新歓だ。
新歓の活動にて、私は残念ながらその人とは別の管轄になってしまった。″○○ちゃん″がその人と一緒だった。
○○ちゃんに写真を送って貰って私は喜んだりした。
その人は相変わらず木の棒を引きずって歩いたり、ホームレスみたいな格好をしてベンチに寝ていたりして、どんどん好きになっていった。

後輩がどうやって入ってきたのか全く覚えてないけど、1人背の高い綾野剛似の男の子が入ってきた。
いけすかねえなぁと思っていたけど、中身は案外素直で可愛い奴だった。あとボンボンだったので1人暮らしの家が神楽坂にあり、色々とみんなにとってとても便利だった。

その後輩は活動によく来ていたので自然に仲良くなり、みんなでよくオールをしに家に行ったりしていた。
ある日、帰れなくなった人が後輩の家に行ったのだが、そのメンツが私と好きな人と後輩くんだった。
3人で鍋をしたりゲームしたりして、お腹が空いたから鍋の材料を買いにいこうと言って神楽坂を歩いた。私はその先輩を好きだと後輩くんに伝えていたので、一緒に歩きたいって話していたんだけど好きな人は1人で自転車で先に行ってしまった。なんで!!!
帰り道の途中に神社があって、私がおみくじを引きたいと言った。先に行っていた好きな人を後輩君が引き留めてくれてその旨を説明すると、「は?(意味わからん)」みたいなガチの怖い顔をした。こわ。そしたら後輩くんが全く動揺せずに「あれ」って私の方を指さした。後輩くんの好きな人は別に私の好きな人ではないので、そういうちょっと雑(?)な感じの対応が出来ることが羨ましいなと一瞬思った。
好きな人は私が目をキラッキラさせてるのが見えたのかなんなのか、ちょっとにやっとして後輩からお金を借りておみくじを引いてくれた。金払えよ。でも楽しかった。好きだった。

夏のBBQの帰りのバスで、泣いてたのを宥めてくれた先輩にピアノが弾けるか聞かれた。一応習ってると答えた。次の集まりに行った時、バンド表に勝手にバンドが書かれていた。私はキーボードボーカルだった。しかもキーボードと言ってもコードだけなどではなく結構ちゃんと難しい。しかも耳コピ。3曲もいけるのか…?

仕方なくネットでスコアの情報を調べると、プレミアがついていて1万円くらいする。学生にこの金額は出せず、色々調べたら国立国会図書館でコピー出来るらしいことが判明した。夏の暑い中赤坂見附から歩くと、16時で閉まっていた。まじかよ。また別の日の早い時間帯に挑戦すると、コピーは著作権の関係で半分しか出来ないという。奇数ページと偶数ページ、どちらをコピーするか訊かれた。
もう一回来たらもう半分コピーできるのかよ。著作権はどこに行ったんだよ。しかもそこそこお金がかかるし、時間もかかるらしい。
私はコピーをキャンセルし、ベンチに座って全部写真を撮った。個人的な利用だし、著作権の定義はどうせ一緒だ。

そして、ベースはなんと好きな人に決まった。まじか。初めての弾き語りで好きな人と組むの?まじで?やばくない?大丈夫かな。
めちゃくちゃ練習した。発表は夏合宿だ。合宿でも練習出来るので練習してこない人もいるけれど、このピアノを歌いながらは練習しないと無理だ。毎日ピアノを弾いた。スコアが無い曲は耳コピした。耳コピが完了しても1音も弾けるようになっているわけではないので、そこから練習は始まる。まじで頑張った。

というか、この先輩はきっと私が好きな人を好きなのに気付いていて、それを考えてくれていたのかもしれないと今になって気付いた。私本当に馬鹿だなぁ。

家のピアノで練習していたので、本番で借りた先輩のキーボードでは鍵盤が足りないことに本番まで気付かずめちゃくちゃパニクったけど、なんとか大きなミスも無く終えられた。今までこのバンドをちゃんと聴いた事なかったけど、好きになったと言ってくれた先輩も居た。嬉しかった。

そして成り行きを全く覚えていないのだが、綾野剛似の後輩が初めての彼氏になった。
いや覚えている、私の家で潰れて一緒に寝ていたら、「好きです、付き合って」って言われたから「良いよ」って言ったんだった。私はもう21歳になっていた。人生で初めての彼氏が出来た。

ある時、その日もホームレスみたいな格好をした好きな人は、飲み会で私が後輩と付き合ったと聞いてか、単に酔っただけなのか、深夜の明治通りに寝っ転がっていた。私は慌てて先輩の腕を掴んで起こした。死んじゃ嫌だった。そして手を繋げて少し嬉しかった。想像していたより手首が華奢で、柔らかくて、ひんやりしていた。

彼氏は背が高くてイケメンで金持ちの息子で早稲田。めちゃくちゃ良いじゃないか。プラスチックのコップにお湯を入れて、「(コップの)形が変わった!」と言っていた時は本当にびっくりしたけど。
その頃は先輩達が就活などであまり来なくなっていた時期だった。本格的に私の学年と1つ下の学年だけの活動になり、2人で居る時間も多くなった。
好きだったと思うけど、私には個人的にやりたいことも沢山あったので毎日会いたいわけではなかった。歌のレッスンにも行きたいし、寝る前にストレッチする日も欲しい。ダイエットもしたいから毎日お酒を飲んでるわけにもいかない。バイトもある。バンドの練習もしなくちゃ。大学の友達やバイト先の友達、高校の友達に会う予定もぎっしりだった。

彼氏はボンボンだからバイトをしなくても毎月お母さんからお金が振り込まれるらしくて、いつも暇と言っていた。前期に取った単位は6単位だった。いつも、暇ーと連絡が来て、一緒にいようと言った。
私のバイト先が彼氏の家からの方が近かったから、バイト帰りも学校帰りも飲みの帰りも、彼の家に帰った。

そんな風に過ごしていた時、私が1年生の時に飲み会で泣いたのを宥めてくれた先輩から連絡が来た。

「あいつ来るけどもんじゃ食いに来る?」

その時もやっぱり彼氏と居たけど、私は行った。なんなら彼氏を連れて行った。ニッコニコだった。ニコニコだったのでとても高い塀の上を歩いた。馬鹿なのだ。後から聞いた話だとパンツが見えていたらしかった。

馬鹿野郎だ。最低だ。人の気持ちを何だと思っているんだ。サイコパスだ。死ねば良いのに。

私はこの頃から、好きな人の夢を定期的に見るようになる。そして彼氏が居たりするタイミングだと罪悪感に襲われることにもなる。

その時も好きな人の夢を見てしまった。隣に彼氏が寝ているのに。私は向上心の無い暇暇星人に幻滅してきていたし、彼は私の人の気持ちが考えられないところを嫌いになっていただろうし、元々お互いもう終わってると思ってたら気がするけど、いよいよもうダメだと思って別れた。
別れた次の日もやっぱりその人の夢を見た。
寝ぼけた頭で、(やばい、また彼氏がいるのにあの人の夢を見てしまった…)と思って目を覚ました。
そして「そうだ、昨日別れたんだった!良かった!!」と起き抜けに口に出して安心をした。

後輩と別れたすぐ後に色んな先輩達と熱海に行くことがあって、ここでではないけれどこの直後に私はまたしても別の人と関係を持ってしまうことになった。馬鹿だ。あり得ない。
その人には一応、別に好きな人がいることは伝えていたつもりだった。別に付き合ってとか言われてなかったし、お互い好きな人に振り向いてもらえない(その人は振られたばかりだった)から傷の舐め合いなんだと思ってた。
というか、そもそもはじまりがグラデーションだったので自意識過剰だと思っていた。
よくわからなかった。むしろ付き合ってるなら別れて欲しかった。終わらせてくださいと何回も言ったことを覚えている。好きでもない人に体を許したことと、それによって更に好きな人が離れていってしまったことに私はどんどん憔悴した。そして痩せていってしまった。

自分の引退する区切りのライブでは、泣いてるのを宥めてくれた先輩と好きな人を誘った。そして私がキーボードボーカルのバンドをもう一回やった。ドギマギしちゃうよね、みたいな歌詞のある曲をやって、伝わって欲しいなと思いながら歌った。伝わるわけないよね。

そんな病んだ状態で就活を迎え、大学生活も終わってしまった。とんだ馬鹿野郎だ。なにをやっているんだ。今ならわかる、ちゃんと断りなさい。

なんだかよくわからないままその人とズルズルと一緒に居た時期に、好きな人に何度かLINEをしたことがある。その度に塩対応の返事が来たり無視されたりで本当に辛かった。一度どこに居るか訊いたらチェコと返事がきたことがあった。今から行くと返事をした。本当に行こうと思った。本当に行きたかった。
好き過ぎて酔った時にしかラインが出来なかったことも良くなかった。基本的に人間性がダメだ。本当に。若さでどうこうなる範疇じゃない。
今思い返すと私が悪いんだと一目瞭然だけど、その時はバレてないと思ってたし付き合ってなかった(と思ってた)から、2度目(?)の失恋を経験したことになった。自分が悪い。

その後は銀行に入り、銀行でひたすら灰色の世界の中で白い紙に黒い文字が書いてあるのを見ながら作業をしていた。
友達に一緒の銀行に入った人を紹介して貰って付き合ったりしたけれど、その人は木の枝を引き摺らなかった。ホームレスみたいな格好もしなかったし、酔ってケチャップを投げないし、道路に寝っ転がらなかった。
ただ、一緒にシンゴジラを観ていたらほぼ全てのビルの名前を言えると言っていて少し好きになった。実際にそのビルの前を通った時、ちゃんと教えてくれた。
でもその後1年程経って、私は「好き」がわからなくなっていた。もう25だしこのまま結婚してしまうかもしれない。どうしよう。
1個前の彼氏?も、好きかはわからないまま終わってしまったし、寂しいから孤独を埋め合ってるだけの関係だったと思っている。
今は仕事で忙しいし、休日も歌の練習があまり出来なくなってきたし、恋愛やトキメキに使うエネルギーが無くなっていた。むしろその方が楽だった。
返信が来るとか来ないとかで一喜一憂してテンションが上がったり下がったりしないで済んだ。
淡々と同じような日々をおくる。これもまた人生なのでは?むしろこれが人生なのでは。こんな日々がずっと続くのだろうか。それはきっと良いこと…いやどうなんだろうか。

そんな時、また夢を見た。もちろんその人の夢だ。何回見れば気が済むんだ。

こんな気持ち、久しぶりだ。3年ぶり?
びっくりだ。こんな気持ちがまだあったのか。
毎日のタスクに追われ、目指すものを忘れていく一方だったこの心に、こんな煌めきが残っていたのか。

好きってなんだろう?と、初めての彼氏が出来てからずっと考え続けてきた。
居なくなったら寂しいから好き?他の人とは出来ないようなことが出来るから好き?別の女の子と仲良くしているのが少しでも嫌だったら好き?

違う。わかってしまった。好きって、好きとしか表現が出来ない。他人なんかそこに必要無い。考えなくてもわかることだった。いや、思い出してしまった。

連絡をしてみようか。返事来るかな?また無視されちゃうかな。
何回振られればわかるの?3回目だよ、もう無理だよ。

そんなことを考えていた半年後、夏休み前に自分含め3人でカラオケに行っていた時のことだった。
酔っていて成り行きは全く覚えてないが、カラオケに居たらなんと好きな人から電話が来て、カラオケに居ると伝えたらカラオケに来た。
そして来るなり寝て、私はそれを足でつんつんした。お腹が柔らかくて気持ちよかった。やっぱり思ったより華奢で、少しひんやりしていた。
カラオケを出たけど始発が無くて、駅のシャッターの前でみんなで座った。好きな人はその辺の本物のホームレスと仲良くなっていた。好きだった。そして気付いたら居なくなっていた。

それを良いことに私はまたまんまと頬を上気させながらLINEをしたのだ。案の定返信は遅くて、しかも2人では飲んでくれないということで、誰か飲んでくれるもう1人を必死になって探した。
好きな人の住んでいる場所が小田原らしくて、飲む場所は横浜を指定された。私たちのサークルとは無縁の場所で、そこまで来てくれる人を探すのにも本当に苦労した。家から1時間くらいかかった。別に行きますけど。

やっとのことで1人の先輩が来てくれることになり、私は横浜へ向かった。20時から飲んだら絶対帰れない。片道切符だ。
来てくれることになった先輩は仕事が長引いてるとのことで、私は1人で1時間くらい横浜駅をうろうろした。同じ人に3回ナンパされた。毎回違う声掛けで語彙力凄いなと思った。
やっと先輩が来て2人で適当にお店に入って30分くらい経った頃、やっと好きな人は来た。
どこかで飲んでいたらしくすこしヘラヘラしていて、迷わず私の隣に座った。好きだった。私はその人が来てからすぐに酔って、本当にほとんど記憶が無い。来てくれた人と好きな人で音楽の話をしていたのは覚えている。きっとその関連で、音楽のYouTubeチャンネル教えてもらったらしく、好きな人がそのチャンネルを開いているところを写した写真が私のiPhoneに残っていた。
その親指が、好きな人の指なんだなぁということと、iPhoneが一緒かもしれないことで嬉しくなったことを覚えている。
あと、その日は雨が降っていたのか傘を持っていて、それを失くしたことも覚えている。

気付いたら来てくれた先輩と好きな人の家の前の砂利みたいなところにしゃがんでいて、私はもう砂利に寝っ転がる寸前だった。先輩にやめなさいと言われてなんとか背中をつけていないだけの状態だった。
タクシーで横浜から来たらしい。隣が好きな人じゃなかったから、ちぇっと思っていた記憶がある。
片付けるからと言って外で待たされていたのだが、あまりにも家に入って良いOKが出ないので勝手にドアを開けると片付けは終わっていたようだった。
部屋に入り何を話したのかどうなったのか全く覚えていないのだが、その人は向こうの部屋で自分のベッドで寝ていて私はリビングに敷いてもらった布団に寝ていた。
次の日起きて、水が飲みたいと思ってキッチンに行き冷蔵庫を開けた。するとそれは冷蔵庫ではなくて、洋服をライトでクリーニングする機械のようだった。水…。
これはもう買ってくるしか無いと思い、Google mapで一番近くのコンビニを探した。アプリを開くと案の定そこは小田原で、小田原はコンビニよりもスーパーの方が近くにあった。
サミットまで向かい、水とタピオカとヨーグルト?を買った。人数分のお水と甘いものを買ったようだ。みんな食べるかなと思ったんだろう。食べるかな?
まず水を飲み、来た道を戻ったは良いが、なんと家の場所がわからなくなってしまった。サミットはGoogle mapで検索すれば出てくるが、好きな人の家は検索しても出て来ない。なんとか景色の記憶を頼りに戻れるところまで行ったが二日酔いも合間って途中で力尽きてしまった。
よくわからないコンクリートの階段で行き倒れていると、地元の人に「大丈夫?」と声をかけられた。これは迷惑になってしまっている、と思い慌てて移動した。
今度は別の家の前でうずくまった。すると後ろから私の名前を呼ぶ声がして、それは一緒に横浜まで来てくれた先輩で、仕事があるので帰ろうとしていたところらしかった。私は戻れなくなったことを伝え、道を教えてもらってなんとか好きな人の家に戻ることができた。みんな優しい。
お水を飲み、吐いた。吐いた後、お風呂に入らせて欲しいと願い出た。
好きな人はバスタオルを渡してくれて、シャンプーとコンディショナーはボタニストだった。ヘアオイルが洗面所に置いてあって、それはダヴィネスのオイオイルだった。流石ロン毛。ちなみに私は当時の少し前にオイシリーズでライン使いしていたので勝手に運命を感じた。
私はとてもさっぱりしたが、吐いた後なので自分が臭くないかとても心配だった。また、好きな人は相変わらず寝室に居てペルソナ5を観ていて私がリビングから話しかけても返事が無かった。早く帰れってことなのだろうか。

でも実は今日はジャズのセッションに初めてお呼ばれしていた日で、誘って下さっていた方がとても楽しみにしていた。メールも来ていた。
Google mapで経路検索をするとまだ間に合いそうだったので、好きな人も塩対応だし口が臭い私は帰ることにした。

帰りますと言うと、好きな人はリビングに来てくれて私があげたタピオカを食べてくれた。甘いものは好きじゃないと言っていたし、冷蔵庫が無いのできっと常温になっていたやつだ。
タピオカを食べてくれたその人を見て、私は本当に優しい人なんだなと思った。好きだ。でも私は臭いし、ジャズの人が待ってるから行かないといけなかった。馬鹿野郎だ。何度同じ過ちを繰り返すんだ。タピオカを食べてくれたのに帰るなんて有り得ない。何をやっているんだ。本当に何度目の馬鹿野郎なんだ。信じられない。
でも、言い訳だけど、好きな人が好きな分だけ自信が無くなっていざって時にひよってしまう。そこを押せるかどうかが器用と不器用の差なんだろうと今になって思う。ちなみに今も器用側には行けていない。

でも1つだけ、やってみた。起きたらおろしたてのイヤリングが片方無かったのでもう片方をちゃんとわかりやすく机の上かなんかに置いて帰ったのだ。
連絡来るかなと思った。来なかった。
仕方無いから、自分から「傘忘れてってませんか?」とLINEした。傘は本当になくしていた。
「ねぇ」と返事が来た。「イヤリングならある」…とは続かなかった。やっぱり駄目か。

そしてその後、私は別の先輩方とOBライブに出ることになり、仕事と練習とで忙しく、また練習終わりの飲みも楽しかったので好きな人からのLINEが塩対応でもショックを和らげることが出来た。

その後別に彼氏も出来、私は2年ほど過ごした。その彼氏とはどうしても結婚したくなかったことと、ひょんなことから今の歌の先生と出会い歌に夢中になってしまったことでその彼氏にもお別れを告げることになった。

2021年と2022年は練習と仕事とコンクールと受験とイタリア語検定で終わった。音大に行けなかった私が気が済むまで練習出来た時期だった。
私はコンクールで死ぬ程悔しい思いをしたし、一生懸命歌を練習出来る悦びに打ち震えた。とても充実した2年間だった。

そんな2年間も終わり、私は2022年の10月にその年のコンクールを全て終え、コロナの頃から会えていなかった人たちと連絡を取り始めた。

というかその前に、私は練習の2年間を過ごしてなんと29歳になってしまっていた。薄々わかってはいたが、様々なリミットが近付いている気がした。ほうれい線もなんか濃い気がする…。

銀行から転職して就いた仕事も前に進む感覚が無いし、30代に乗ったら突然環境が変わる気がして、婚活をすることに決めた。
周囲の人がおすすめだと言うアプリをダウンロードし、いいねをしたりされたりした。その中で3人ほど良さそうな人とやり取りをし、早速11月に3人と会ってみた。1人はヤリモクだったのですぐお別れしたが、あとの2人は普通に楽しかったので2回目の予定も立てた。

そこでふと、1つの考えが頭をよぎった。

(私、このまま誰かと結婚してしまうことになったらどうしよう。好きな人に最後に告白しておいた方が良いんじゃないだろうか…)

気が早い上にアホな考えだ。本当にアホ。
そして次に起こることは皆さん予測がつくだろう
、そう、好きな人に連絡をしたのだ。

今回は夢には出てこなかった。その代わり映画館に居た。居たと言っても結果勘違いだったが、私の中ではその人だった。公開初日に1人でスラムダンクを観に行った時に、好きな人と仲が良かった先輩にしか見えない人がいて、隣に好きな人が居たように見えた。

流石に時も経っているので、以前夢で見た時に感じた「これが好きってことだ!キラキラ!」とはならなかった。
どちらかというと戸惑いの方が大きかった。
なんでここにいるんだろう?どうしてこの回なんだろう?この映画好きなのかな?どういうこと?なんで今?
色々考えた。

でも聞くなら今日から明日しか無い。「先週居ました?」とかは違う気がする。勇気を振り絞って、次の日にLINEした。
珍しくその日中に返事が来て、居なかったことが発覚した。
私は調子に乗って東京にいるのか(まだ小田原なのか)訊いた。東京にいるらしい。
私はさらに調子に乗り、どこに住んでいるのか尋ねた。すると返事が来なくなった。なんということだ。でもまぁ、これで返事が来なければ婚活に専念出来るな、と思った。

今のところ好きな人は過去の思い出になってるし、2人のアプリ君達が居たから、その人達と連絡を取り合うことで平常心を保つことが出来た。むしろ、今までの傾向から無視されることなんて重々わかっていたので期待もしていなかった。
これは本心だ。

本当に最後の連絡にしようと決めていた。

そして5日ほど経った週末、次の日にアプリ君とのデートを控えていた為何があっても良いように家を隅々まで掃除していた時だった。

「今何してんの?」

好きな人からLINEが来た。
驚きつつ、でもそれと同じくらい冷静に質問の意味を考えた。
これは仕事とかっていうこと?それともなうってこと?
仕事終わりに掃除をして疲れた頭で、さらに次の日は仕事の後にデートでその次の日は午前中からレッスンがあることを考えた。
今色々と考えている余裕が無い…と思い、一旦スルーして動画を見ながらストレッチをした。
すると電話がかかってきた。
びっくりした。私は音が鳴らない設定にしているので、スマホの画面を見てなかったらスルーしていた。まぁたまたまウェンズデーを見ていたので2コールくらいで出た。好きな人からの電話だ。

「おー笑」みたいなよくわからない声がiPhoneから出てきて挨拶が行われる。ものすごく酔っているらしく、呂律があまり回っていない。
池袋まで来いと言われた。私は都合の良いセフレか。
忙しいので丁重にお断りをし、私の家に来るなら良いと伝えた。
後でわかることだが、私の家なら良いも何も好きな人の家の方が何百倍も便利な場所にある。
間違えて降りたという駅からタクシーに乗った音が電話越しに聞こえた。私の最寄駅を伝えた声も聞こえる。
電話を繋いだまま慌てて洗濯物などを隠し、部屋を掃除してあって良かったと思いながら話した。なんでそこに住んでるんだという質問を20回くらいされた。
でも髪の毛はパーマなので乾かしたばかりなのにもう一度濡らしてオイルをつけたし前髪もセットした。すっぴんだけどまつ毛美容液だけはつけておいた。(合宿などでいくらでもすっぴんは見られているので今更だった)ゴミも出した。
駅に着いたとのことで、私は家までの道のりを教えた。パジャマなので外に出たくなかった。
そしたらわからないと電話が来たので迎えに行った。寒かった。12月だ。

どんな様子になっているのかわからなかったので、最初見つけられなかった。その辺でタバコを吸っているロン毛の怖そうな人が居たのでその人じゃなければ良いのにと思った。その人だった。
私は声をかけて、その人はタバコを吸っていたのでマスクを取っていた。何も変わっていなかった。でも酔っているのか、私を見た時に口角がめちゃくちゃ上がっているのが見えた。

よ、喜んでる…?(何故…?)

私は戸惑った。私が嬉しいのはわかるけどなんであなたが嬉しいんだ?いや嬉しいのか?やれるとかそういうことか?この時間に家に来るってそういうことか?どういうことだ?私すっぴんなんですけど良いですか?むしろなんの色気も無いただのスウェットなんですけど大丈夫ですか?というか、え、本当にそういうことなの?どういうことなの?

そのまま家に行き、私の家は狭いと5回くらい予防線を張ってから家に入れた。
狭くないと3回くらい言ってくれた。
私の部屋は防音で、ピアノが置いてあって練習している楽譜がいくつか譜面台にそのままになっていた。楽譜に書いてあるメモが恥ずかしくて、慌てて「クラシック畑に戻ったんです!!」と楽譜を隠しながら言った。ニヤニヤしながらふぅんと言った。

そして何故この駅なのかをまた5回くらい訊かれた。
途中で、「あ、高円寺にも歩いて行けますよ!」と言ったら「高円寺なんて10年くらい行ってねぇわ」と返されてしまった。古着が好きで高円寺の古着屋さんに行ってたって同期の子から聞いてたのに。隠し撮りも貰ったのに。
そして再び「えっ、なんでこの駅なの?」と嬉しそうに訊いてきた。私は「実家と職場の間だからです!」と答えた。本当だもん。
明日仕事かどうか訊かれたので仕事だと答えると「だる」と言った。私の方がダルいよ、テンションは上がってるけど。
私からお風呂に入るか訊いた。入らないと言われた。お風呂に入った人じゃないとベッドに上がって欲しくないから入って欲しかった。一緒に寝たかった。
3回くらい訊いたが3回断られた。ちなみに一応「そういう意味じゃない」とは言った。別に本当にそういうことがしたかったわけじゃない、一緒に寝たかっただけだ(?)。言っている意味がわからないと思うが、一緒にぬくぬくしたかったんだ。でも、なんでこの駅で風呂に入らなきゃいけないんだと断られた。

明日早いので寝ますねと言って電気を消してベッドに潜った。本当は明日(今日)の朝練習しないと明後日のレッスンがやばかった。
うちでは風呂に入らない人はベッドに入れないルールなのでその人は絨毯に横になった。真っ暗な天井を見つめる。修学旅行かな?

見知った天井を見ながら、ひたすらその人の好きなアーティストの話を教えてもらった。私はひたすらググったりapple musicで探したりした。その後はアンナ・ハーレントなどの哲学者の話をした。好きな人の好きな哲学者はカントらしい。私はエーリッヒ・フロムとサルトルをお勧めした。

そんなこんなで3時間ほど経ち、その人は原宿で知り合いのライブがあると帰った。帰り際に「何しに来たんだよ…」と言っていた。私もそう思った。池袋に来いって言ったくらいだから、本当にセフレにでもされるのかと身構えていた。
好きな人は出掛けに玄関にあったイギリスで買ったポテチを1つ奪っていった。そんなもの奪わなくても全て奪われているのに。(何を言っているんだ)

次の日にアプリを退会した。

同僚にそんな話をして、2人だと来ないかもしれないから3人で飲みに行こうって誘って良いですかと言って誘った。
私たちの仕事終わりに渋谷のパルコで待ち合わせて、日本酒飲み放題のお店に入った。日本酒が美味しくて沢山飲んでしまい、気付いたら2軒目に行っていた。

だって好きな人は未だかつて無いほど私の話に相槌を打ってくれて、嫌味じゃない返事をくれたのだ。
私が最初驚いてしまい、「10年前と違う…」と呟くと「大人になったんだよ」と言った。30歳ってすごい。でも大人になった割に返事はくれない。多分大人になってない。

2軒目のおでん屋さんでは、同僚が私の好きな人に好きな芸能人を訊いたりしていた。深津絵里と小松菜奈ともとーらせりなとか言っていた。
みんな色白で目がキュルキュルしていない人だ。私は酔ったまま少し狼狽えて、私の好きな芸能人は高良健吾と言った。本当だがせめてロン毛にすれば良かった。
ちなみに好きな人は細身の人がタイプで、最初は細長い人と言っていた。夜ご飯を食べないで飲んでいた私がお腹すいたとずっと言っていたらおでんを頼んでおいてくれたのだが、1個しかなかった白滝を食べて良いよと言ってくれた。痩せてほしいんだろうなと後から思った。

その後みんなで好きな人の家に行った。私はいつも通り床に傾れ込んだ。床は綺麗だったが、私が「(床に寝るの)汚いかな…」と呟いたらクイックルワイパーをかけてくれた。申し訳ない気持ちになって、その気持ちの100倍くらい好きな気持ちが増えた。
その後同僚が寝静まると2人でタバコを吸ったり、膝の上に座って話したりした。私はタバコを吸わないので、灰の落とし方が下手くそでもたもたしてたらタバコを持った上から手を重ねて、トントンってやってくれた。まじで好き。楽しかった。本当に幸せだった。
最近ハマっているクラシックの作曲家がハイドンとシューベルトで、それについて話していると「ドビュッシーは?」とニヤニヤしながら3回くらい訊かれた。

色んな、色んなことが会話の中に散りばめられていて、それは誰にも教えたくないからここにも書かないんだけど、それはきっと私と好きな人にしか通じない内容で、私はそれが本当にそういう意味で通じてるのか少し不安だけどもしそうなら本当にドキドキして、暗号みたいだと思ったりしながらワインをラッパ飲みしたりした。

次の日私はまたお風呂に入らせて貰った。やっぱりシャンプーもコンディショナーもボタニストだった。ヘアオイルもやっぱりダヴィネスだったけど、オーセンティックオイルに代わっていた。(私もオーセンティックオイルを使っていた時期があったので運め)

お風呂から上がると好きな人はpcの前で仕事を始めようとしていた。私の方を振り向くと、「休むか!」と言った。私は今日はアルバイトさんだけなので、どうしても行かなければいけなかった。まただ。また馬鹿野郎なことをしてしまった。本当に馬鹿だ。

私はきっと一生、この日のことを忘れることが出来ない。

そしてこの先5年は確実にこの日の記憶を吸い出してトキメキを味わうことができる。怖いね、呪いだね。

その次の週もLINEをしてみた。「日程的にきつい」と返信がきた。
丁度クリスマスだったので、「クリスマスだからですね!すみません、良いお年を!」と送った。すると「いや単純に予定がある」と返ってきた。
おっ、、と、、?

まぁ私は元々valorantのエキシビションマッチを横アリまで観に行く予定でチケットも一緒に行く人に買ってもらっていたので普通に観に行った。楽しかったし推しが可愛かった。推しが手をフリフリしてくれた。まじで嬉しかった。

一緒に行った人にご飯に誘われたが、遅かったし明日は2回目のスラムダンクを高校時代の友人と観ないかなければいけなかったので断った。というか、2軒くらい入ったけどラストオーダーが終わっていた。
新横浜から最寄りに着いて、スマホを確認すると好きな人からLINEが来ていた。

「今ならいける」

!????!?!?
私はすぐ電話をした。出てくれた。
「えっ、あの、今って、」
「今どこにいんの?」
「え、あの」
「今何してんの?」
「あ、最寄りで」
「今何してんの?」
「新横浜から最寄りに着いたところです!」
「…ふーん、○○駅行けます?」
「お?いいよ(電話の向こう側)」
「ちょじゃあ今から行くからあ、」
「いやいやいや無理ですって2人は!うちピアノあるんで!私が行きますよ!」
「あーー…いや行くわ」
「いやそれは無理!私明日朝早いし!」
「じゃあ無しな」
「…はい」
「あでもぉ、26か27なら空いてる」
「じ、じゃ27!」
「おけ」
「まじあの後お前のせいで苦情きたから」
「え」
「あの日お前のせいで苦情きたからまじで」
「すみません、、」
「まじ同僚の人にも申し訳なかったよ本当」
「あでも同僚は楽しかったって言ってましたよ!」
「まじか笑、じゃあ同僚さんも呼ぶか」
「…。…わかりました、じゃあ」
「おう」
てな感じで切りました。私はまた選択を誤った気がした。

その後私がどうしてもまた3人で飲むのが嫌で、誰か同僚に紹介して下さいと頼んで新年に4人で飲むことになった。私の最寄り駅に美味しい焼き鳥屋さんがあるので、そこに行きたいと言って来てくれた。紹介された人は4回乗り換えたと言っていた。
周りに人が居たからか、好きな人は10年前に戻っていてあんまり優しいことを言わなかった。2軒目でも好きな人の隣に座ったのは同僚で、同僚にラインを聞いていた。年末に3人で飲んだ時も楽しそうに話していたし、同僚は38歳だからそんなことはないと自分に言い聞かせつつも苦しかった。

好きな人は隣の席の同僚に、明日芋煮の会があるから来れば誘っていて私はいよいよ機嫌が悪くなった。でも機嫌が悪いのを3人の前で出しては良くないから、隣の同僚から物理的に少し離れて座ったりした。同僚も意地悪で、好きな人がタバコを吸って向こうにいる時に「女にLINEしてるんじゃないですかw」とか言ってきた。仮にも男性を紹介したのにそんなこと言わなくても良いじゃん。

そして好きな人がいじってきた時は普通にイラッとして返事をしてしまった。

一応解散した後に同僚にお礼のラインをすると、明日の芋煮行きますか?と返事が来た。私は行けると思ってなかったが、同僚は私と行くと言ってくれたようだった。色々とよくわからなかったが行かないわけにはいかないと思い、その次の日には好きな人の家の近くの立ち飲み屋で同僚と3人で飲んだ。

好きな人が同僚と趣味が似ていたこともあり、仲良くなりたいのかと思ってあまり私は話さないようにした。また新年から飲み始めた鉄剤がとても胃を痛くしていたことと昨日のお酒とで本当に体調が悪くてテンションが思うように上がらなかった。

好きな人が会話の中で「今なら誰に告白されても付き合うわ」と言った。私は動揺して「そんなことしたら別れるの大変ですよ」と言った。なんなんだ。もう嫌だ。もう嫌なのは好きな人の方かもしれないことを先に考えられないことも嫌だ。

好きな人の言葉の真意はわからないし、その後も普通に飲んで健康的に解散した。次の日は妹の成人式で、親族で集まるから早く帰らないといけなかった。その前に歌のレッスンもあった。
レッスンの終わりに、暇な日が無いかラインで聞いてみた。返事が来なかった。

次の週、行ってみたいイベントに誘ってみた。日程的にきついと断られた。
「暇な日」などの漠然とした質問だと返事が来にくいのだと推測し、別の日も空いてるか聞いてみた。予定があると言われた。

1月のはじめだったけど、2月の空いてる日を聞いてみた。漠然とした質問をしてしまった。返事は来なかった。

私がずっと馬鹿なことをしていたからかと思って、ハッキリ伝えた方がいいのか?とバレンタインにチョコ渡したいとラインした。既読にもならなかった。

あの日もあの日もあの日も帰らなきゃ良かった。テンション上がってればよかった。なんでなんだろう。どうしてなんだろう。どうしたら良いんだろう。

転職の関係で休み期間中の為急に時間が出来て忙しくなくなった私は一日中好きな人のことを考えてしまって1日に何回も死にたくなった。
本当に寝付けなくて、朝走って汗を流したりジムとレッスンの頻度を上げたりしたけど本当に寝付けない日があって、家に来た時に教えてくれた小瀬村晶のピアノ曲を午前3時から耳コピして練習したりした。3kg落ちた。
途中で走りすぎて足を捻挫して走ることも出来なくなってしまった。

失恋ってこんなに辛いの?今までのはなんだったんだろう。
辛すぎて仙台の金華山まで行った。知り合いが年始に行ったお土産をくれて少し気になっていた。これくらい遠くへ行ってしまった方が良い。
でも太平洋沿いの東北まで行っても好きな人は頭からずっと離れなくて、これを書いている。ここに記憶の全て置いてくれば、頭から離れる気がした。

相変わらず大人になってないなと思ったんだろうか。まだチョコとか好きとか言ってくるのかよ、断るのめんどくさいなと思ったんだろうか。芋煮の時に機嫌が悪かったのにイラついたんだろうか。芋煮の次の日は好きな人の誕生日だったのに、ラインでおめでとうって言わなかったからだろうか。(彼女ヅラすんなと思われそうで言えなかった)
全部ひっくるめて嫌われたのか。会う意味が無いと思われたのか。
それとも1日で彼女が出来たのか。正確に返事が来なくなった頃に彼女が出来たのか。2週間で?

どこかで会う度に、突き放さないから、私は良い気になって勘違いをして、また目をキラキラさせて頰を蒸気させて相手を見つめてきた。
ドキドキなんてこの人にしかしたことがなかった。心臓が鳴ることなんて、貧血で辛い時かこの人が視界に入った時しか無かった。それしか無いんだよ。
私の好きを取らないで、私の好きを、私の好きっていう気持ちを持っていかないで。まだ欲しいの。まだここにいて欲しい、ずっと希望を持っていたい。
もう無理なのかなって頭ではわかってる。欲張る気は1mmも無いんだ。
でも良いの、冷たくたって好かれていなくたって、一言の返事が来るだけでそれはウユニ塩湖に行くよりハワイに行くよりラメゾンドゥショコラをいっぱい食べるよりミケーレの頃のグッチを貰うより素晴らしいことなの。
高揚して目が潤んできて何かが溢れ出す、止まらない。

貰えないから、欲しくなる。
ほんとかな。
貰っても欲しいかもよ?

ずっとずっと、欲しいかも。
きっとね、ずっと好きだから、こんな想いに浸りながら歌を歌う。音楽を聴いて胸の高鳴りに寄り添う。

一緒にワインをラッパ飲みした時は本当に幸せだった。生きてて良かったと思った。これまで何度か死んでも良いと思ったことがあったけど、死ななくて良かった。本当に、それくらい幸せだった。今思い出しても胸が温かくなる記憶なんだ。

人生で一番幸せだった時間の直後に人生で一番のドン底を味合わせてくるとは。

「悲しいより、悲しいことってわかりますか?悲しいより悲しいのは、ぬか喜びです。」
カルテット(巻真紀)
「人生には後から気付いて、間に合わなかったってこともあるんですよ?」
カルテット(巻真紀)

いっそ会いたくなかった。好きっていう気持ちを思い出させるだけど思い出させて、思い知らせてそのまま居なくなっちゃうなんて。
私ももう、この辛い状況に辛いって言いながら気持ち良がるみたいな年齢でも無ければ余裕も無くなってきているんだ。やっぱり私の方が大人になってしまった。

今まで私が馬鹿野郎だった分のしっぺ返しなのだろうか。胸が苦しいってこういうことなのか。食べられないって、夜も寝れないって本当にそうなるなんて知らなかった。
今までちゃんとした失恋をした事がなかった(というか告白をさせて貰えなかった)からわからなかった。こんなに苦しいなんて。というか別に今回も告白はさせて貰えていない。いっそ振られたい。振られたいというか、告白させて欲しい。その時、例えもう二度と会えないとしてもその時に一度会う約束が出来るんだ。それが嬉しい。会いたい。

大学時代、好きな人からの返事が来ないのにずっとその人を好きな私に向かって「訓練されている…」と言った友達がいた。「病気じゃない?」と言った子も居た。10年経っても同じことをしていると知ったら真面目に引くと思う。2人とももう結婚して子供が居る。

何をやっているんだろう。
後悔と罪悪感と不安と少しの非難。
これが私のラスト20代か。時間が解決するとしても後数ヶ月で忘れられるのか。10年好きだったのに?

返事が来なくなってから少し経った今だって、常に頭の中にあってその人のことを考えてため息を吐くけど、思い出を遡ると現状とは裏腹に楽しい思い出ばかりで嬉しくなってきてしまう。皮肉だ。この人は記憶だけで、私を一生幸せと不幸の間で揺さぶる。

離脱症状は大体1ヶ月だった。返事が来なくなって1ヶ月が一番辛かった。同僚と私の知らないところで会ってるんじゃないかとか、色々考えた。でも大人だから2人を信じた。それでも、何があっても良いように心構えだけはしておきたかった。馬鹿野郎な上に弱虫なんだ。

1人で全てを抱えているのが無理だった。時間があればあるだけ苦しくなっていってしまう。苦しくなるのが趣味なのかもしれない、などと大学生の頃は思っていたが、今はもうただただしんどい。そしてQOLが著しく下がるので非常に迷惑なこともわかった。むしろQOLが下がる言い訳にしているのかもしれない。そんなことはない、早く走りたい。

知り合いが見たらすぐわかるだろうけどもうどうでもいい。し、知り合いは10年前の私になんて興味無いと思う。子供とか産んで自分の人生を精一杯生きてるよ。人の噂話で盛り上がる低俗な人間なんて居ないはず。

私の好きなピアノ曲と、彼の好きなピアノ曲をかけるといつもこの記事に戻ってきてしまう。呪われている、本当にそう思う。自分から呪われに行っているんだろうとも思う。

失恋の辛さがわかった私は、これから人の失恋にとても優しくなれるだろう。こうして成長していくんだろう。こんなに好きになった人がいなければこんな気持ちになれなかった。思い出す度に悲しくなってほんわりするという矛盾した感情も知らないままだった。
でも私がこの先また別の人と関係を持つ時、確実に頭をよぎるんだ。また彼の夢を見てしまうかもしれない。その時は一体どうするんだろう。また振られたいと連絡するのだろうか。もう年齢を考えて無視してやり過ごすのだろうか。

ここまで詳細に記事にすれば、もう夢を見なくなるだろうか。

私は前に進みたいんだろうか。
白黒ハッキリさせたいんだろうか。

こんなにあなたのことを好きなのは私しか居ないのに。お腹空いて白滝食べさせてくる人だと知って色々食べられなくなってしまって3kg落ちたのに。でもおかげでウエストが微妙にきつくて敬遠していた服たちを着られてとても嬉しかった。クマは濃くなったけど。

私は決めたんだ。もう、その時に誰と付き合ってようが何をしていようが、池袋にも行くし仕事は休む。微妙に残っている理性を取っ払わないと行けなかった……のかなぁ。本当に?恋愛って何かを犠牲にしなくちゃいけないものなのかな。少なくとも私の好きな人と先に進むなら。どうなんだろう。

私の視点で美しかったことばかりを抜き出しているから好きな人が素敵な人に見えるけど、冷静に考えたらとても酷い扱いをしてくる30歳超えの人なのかもしれない…とは何度も思ったが、クドカン作品を観て、不器用で臆病なのかもしれないと推測したりした。私も馬鹿野郎で臆病なのだからお互い様だ。

というかきっと、私が開けてしまった穴があるんだ。自意識過剰で自信過剰かもしれないけど。
もしくは、元々穴だらけだったから、穴だらけの私も無意識のうちに惹かれたのかもしれない。或いは穴を隠そうと張り巡らされた有刺鉄線が気になったのかもしれない。
ただ、きっと確実に開けてる穴はあるので元々あった有刺鉄線が私の区画だけ50重くらいになっているのだろうとは思う。
ただ、50重くらいはなんともないんだなぁ…。

好きな人はお金を稼いでいることを私に自慢?してきてたけど、どこの会社だろうが金があろうが無かろうがどこに住んでようがなんでも良いんだ。好きになったのは学生時代だし、もし好きな人が倒れたりしたら私が稼いだって良い。何がコンプレックスなのかわからないけど、別に太ったって良いしハゲても良いよ。良いの。私は良いの。好きっていううずうずする気持ちが、この人と会った時にしか出てこないの。それは言い聞かせて出てくるものじゃないの。
私自身、スッキリしている私の方が好きだからジムにも通い続けているしそれは好きな人の為じゃなくても痩せたいし、着たい洋服を着ても気にならないどころか好意的なのはむしろ好きな人くらいしか居ない。
ただ、いつも歌と天秤にかけさせられてる気がする。ごめんなさい、歌だけはだめなんだ。

いつ会えることになっても良いように、告白の原稿を泣きながら書いた。3回推敲した。大分ブラッシュアップされた。

いつうちに来られてもいいように、毎日部屋をとても綺麗にしているし、耳コピした曲も時々弾いて忘れないようにしている。

辞めた会社の同僚には、会ってるか聞こうと思ったけど怖くて聞けていない。まだ取りに行くものがあるので、その時にさらっと聞こうと思う。でももう彼女と好きな人と飲む会は作らないと決めた。

今週、好きな人を直接知っている大学の友達と会う。その子に相談をする。相談内容も紙にまとめる。具体的に行動をする。
ただし焦らない。短気を起こすなとおみくじに50回くらい書かれていた。若干もう起こしているのでとても不安だが、過去には戻れない。

これが離脱症状を乗り越えた私の(できれば)解決(したい)策だ。

一生すずめちゃんと別府さんのような関係だって良い。会いたい。ただそれだけな気がする。出来れば2人で会いたいけど、私が心から好きな人達と一緒にだったらみんなででも会いたい。好きになってくれなくても良い、時々会ってほしい。

でも、クリスマスに連絡をくれた理由だけ教えて欲しい。ちゃんと知りたい。そしたらきっと大丈夫。

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