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小説『ひと』の感想


著:小野寺史

『ひと』には、店と客という関係みたいな物を通して、人間の誠実さとはなんたるか、が描かれていると思った。

 主人公が、総菜屋さんに勤めているから、というのもあるが、両親を亡くし、大学も辞め、お金は節約しながら調理師を目指す。そんな立派な青年いるか。俺も『おかずの田野倉』で働きたいぞ、とすら思う。

・普段の職場の人間関係を思い出し、振り返るとともに、やはり、もっと、今まで以上の信頼関係を築く努力をしていきたい、していかねば、と思わせられる。気が引き締められる。
 この現実から目を背けずに、俺も生きていきたい。そして、ひとを大切にすることを、もっと、考えよう(と言いながら、目の前にいる人を忘れるのだが)。

・主人公が、店主の督次から「お前は周りの人を信頼することを覚えろ」と言われていたのには、共感した。
そう感じることが、俺も日常生活であるからだ。
あまりに夢中になり、視野が狭くなって、周りが見えなくなると、そうなるのか? 

・フリーターの自分には、重なる部分が多く、すごくずしんと来る部分もあった。ただ、"バイトをして生活している"という点以外は、性別くらいしか共通点はない気もするので、あまり「重なる」というのも、失礼なのだろうか。
でも、こういうことだよな、と思う部分は結構あった。

・『金銭感覚』の話でもあると思った。
他者への信用がどうやって、形作られるか。
言葉というのが、どれだけ"価値"感を表してしまうものなのか、身につまされながら、自分はできているだろうか… と内省を促がされながら、スムーズに読み進めていった。

小説を読むという行為が広まる本でもあった。
読んだきっかけは、ゴールデンウィークに実家に帰省した際、父親が薦めてきて、深夜に暇だから読むか、くらいのノリで読み出したら止まらなくなり、結局次の日には読み切っていた。
 読んでいる最中にも、読んだ後にも、「なんでこんなにもガンガン読んでいけるのだろう?」と考えていたの。

 答えは、"薦めてもらったもの"だということが一つある。
 他にもあるが、割と没頭できたのが、素直に嬉しくはあった。
 どこか、また『教団X』を読んだ時のような、『コンビニ人間』を読んだ時のような経験を、ショックを期待していた。だが、これはこれで、という感じでいいのかな、と思う。ガツン、とくる感じではないが、すっきりと読めて、後味が爽やかな感じ。あとは、"品"について考えさせられる。

 次は、『一瞬の風になれ』読みたい。
つまり、(おそらく)どベタで真っ直ぐな"青春"を感じたい。
 







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