赤いろの痛み、女の手つき

赤いろが鈍い痛みをともなって揺れている

一日の終わりになると喪われた感覚が何であったかを
疲弊した人を見おろす鳥たちの啼き声が
ぼくに思い出させるのだった

その声はぼくのやわらかな眼球の奥まで響いてくる
凶暴さを隠そうとはしない

黒い翼の持ち主は
もっとも美味な部分をさがしあててから
狙った獲物に死の匂いがしはじめるのを待って
鋭い嘴で啄んでくる

巨大なまるい輪郭が西の山際にきえるとき
この惑星の半分は闇に覆われる
天空にはもうひとつの白い球体があらわれる

世界が切り替わるその瞬間
めまいのするような異様な熱さが
ぼくの内側に見つかったのだ

これがあなたそのものであれば
ぼくはその異物感にたえ
だれよりもまじまじと見続けただろう

だがあなたもまた
人ではない人になってしまった
女ではない女になってしまった

屍を扱うかのような白手袋をして
無垢でありながら世馴れた手つきでぼくを誘い
幻の旅をあなたは歌う

ぼくはいつまでも歩き続けて
砂漠の果てに見える海を目指す
渇いた喉に海水を汲んで渡す
褐色の若い女たちがいる

暴徒たちを焚きつけて
玉座にめがけて弓を引かせ
邸宅を焼かれて逃げまどう王族たちを
若き恋人に抱かれながら
乳房を揺らして笑う王妃がいる

狂ったぼくがあなたを美しいと歓喜する
あなたが美しいから歓喜したぼくは狂ってしまう
産まれたばかりの赤児は死に
死にそうな老人はいつまでも生きる
ほしいは、いらない
いらないは、ほしい

そうやって何億年も
この惑星は回りつづけている

あなたはここにいる
ここにいて地軸を狂わせる
その激しすぎる愛憎にぼくはたえられない
その気まぐれな貪婪と肉体に飲み込まれてしまう

だからぼくは熱く焼けた刃を
あなたの腹に突き刺すのだ

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