胸に載った女の腕

魘されて夢から醒めた夏の明け方
胸に載った女のうでを持ちあげたら
そこにほくろがあるのを男はみつけた

小さなからだはまだ寝息をたてているから
起こさないように気をつけて
それをゆっくり舐めてみたのだ

昨夜の女の匂いがしたところに
舌さきをまるくうごかしていると
まるで軟体動物のように
皮膚が波打ち、ひろがるのだった

白濁した鈍い眠気におかされながら
男は目をつむり
触覚だけをたよりにして
女の本心をたしかめているみたいだ
それはおかしくも、かなしい行為だ

べつの生きものどうしが
たまたまこの星の陸地で出逢い
生殖にならない無意味な行為で
慰め合ってばかりいる

やわらかな陰毛に指さきでふれ
左の乳房を口に含みながら
まだ若い女の肉体に潜む
人間の進化の軌跡を
舌のうえで味わってから
男は死にたいと願うのだった

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